四ノ玖
「あ~もう、うん、もう~!」
「ちょ!? ちょっと!?」
「私は賢い人間は大好きだ」
「な、何なの!? ちょ、は、離して!」
顔が熱くなるのが手に取るように解った。
「真似ようとしてみたが、私には相手の弱みを握って動かすような卑劣な行為でしか出来なかった。やはり本物は違う、相手の願いを叶える事で見返りを求める時は相手も君のためにという感情が働くからであろうか」
「いきなり何!?」
「私なりの敬意」
突き飛ばすようにして僕は引き剥がした。
「失礼、高揚して」
これまでの天生ちゃんの印象が総崩れだ。
つーか彼女は本当に天生ちゃん? 豹変といっていいその態度は疑ってしまうよ。
「こっくりさんにはどういった経緯でなったの?」
再び彼女は僕へと距離を積めてくる。
「今まで何人の願いを叶えたの?」
そのたびに僕は距離を取る。
「この事は秘密にするから是非君の活動を見たいっ」
「待って待って!」
角まで追い詰められた、これ以上詰め寄られても僕は後退できない。
「もしかして君は、互いに秘密を持ち合う仲にして僕と一緒にいようっていうのが目的だったりする?」
「賢い、流石こっくりさんだ」
まいったな。
「裏サークル、虎わんこの活動も興味がある。是非是非入会させてもらいたいな、勿論君の傍にいたい口実なのだが」
裏サークルも既に調べ済みのようだ。
……降参。
「……彪光が認めればいいけど、どう話せばいいんだか。それに君の入会理由が問題だ」
「問題ないだろう、いつだって愛とはそういうものだ」
「愛の話なの!?」
「交際を前提に結婚しよう」
「普通逆でしょ!」
人格崩壊を招いているんじゃないのかなこの人は!
「ふふっ、失礼。一旦落ち着こう」
「僕としてはこっくりさんについては秘密にしてくれるなら……君に従うしかないけど、困ったなもう……」
「むしろ君が抱えている私の秘密のほうが材料としては強い、いくら君がこっくりさんだと言いふらしても君はうまくやり過ごす自信はあるだろう?」
「ま、まあ、あるかな……?」
誰かに僕からお願いをしていけば多分。
けどそのためにはやっと少しずつ願いを叶えて、見返りのためのストックが出来てきたのにここで消化するのも困る。
どうであれ強気なところを見せていかなくちゃな。
「とりあえず入会については今はなんとも言えない」
「是非いい返事を期待して待っているよ。それと最後に――」
彼女は僕へ深々と頭を下げた。
「数々の非礼、お詫びする。一つ知って欲しいのは、今回私が利用した生徒達は表向きは真面目な生徒を装っているが皆が悪事を影で働く裏サークルに所属している生徒達だ」
そういう事、ね。
けれどだからといって彼女のやった事は許されるものではない、僕も……こっくりさんの活動は許されるものではないが。
「そろそろ戻ろうか」
体育館のほうから、拍手の雨が聞こえてきた。最初の立候補者の演説が終わったようだ。次は裏萩さん、かな?
「……そうだね」
どうであれ、彼女の希望には応えなくちゃならない。
彼女を裏サークルに受け入れるかどうか、それはとても大きな問題だ。
受け入れるとしたら、その理由もどうするべきかな。
先ず彪光になんて説明する?
弱み握られたから入会させて? そんな事言ったら天生ちゃんの顔面にアンナの正拳が飛んでくる。
穏便に済ませたいな。
立会演説会会場へ戻ると丁度裏萩さんが演説を始めるところだった。
演説が終わるまでは壁にもたれているとしよう、皆の視界を遮って席に着くのは気が引ける。
「順調だね」
「彪光がビシバシ鍛えたんだ、大丈夫さ」
「彼女の手腕は見事なものだ」
演説は最後までぶれずに安定感のある口調で終えられた。
会場の拍手は先ほど聞いたものよりも大きい、立候補者はというと、遠くからでもわかるほどに渋い表情を皆していた。
「選挙で大事なのは後半だ、討論会など通して注目を浴びればいいが彼女は出だしが見事に挫いた」
「襲撃によって注目が寄り始めて、彪光は裏萩さんを見事に磨いて皆の注目を利用して今に至ると」
「そう、彼女なくしてはこの拍手は無かった」
彪光がいるからこその作戦、この計画は裏萩さんが彪光を誘った時からもう出来上がっていたようだな。
「しかし怪我をさせてしまったのは本当に申し訳ない」
「まったくだよ」
それを思うと、怒りはにじみ出てくる。
「予想外だった、怪我はさせないつもりだったのに。ここ数日、どう謝罪すればいいかいつも考えていた。煮るなり焼くなりしてくれ、何なら私の体を好きにしていい」
「ばっ――!?」
――鹿な事言うんじゃない! って大声で言いそうになって僕は、小声に戻した。
「……か」
「彼女には今回の件は全て話しておいたほうがよさそうだ。私から直接、ね。それで私がどうなろうと私は全て受け入れよう。私は罰を受ける人間だ、承知している。しかし満足している、君に出会えたのだから」
覚悟している人間というのは強く、大きく見えるね。
天生ちゃんを正直、僕は気に入っている。だから彪光に洗いざらい吐いて、彪光が想像も絶するような事をするのはあまり望まない未来だ。
けれど僕がどう介入しても、天生ちゃんはきっとどこかで正直に言う。
僕はため息をつくしかなく。
それから一時間後、立会演説会は無事に終了し、事件も起きたが一年生徒会長選挙は皆の投票によって終わりを告げた。




