↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界美容外科医 ~美しくなりたい彼女たちと、俺のクリニック経営~  作者: シャロン=ミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/54

41話 奇跡ではなく、医療を

オルランド公爵の一喝によって、王立監察院と治癒術師ギルドは一方的な営業停止処分を保留せざるを得なくなった。 その審議の第一段階として、王立医療監察院の講堂にて、双方の主張を聞く予備ヒアリングの場が設けられた。


監察官や貴族院の代表たちが居並ぶ中、バルトロメウスをはじめとするギルド幹部たちは高圧的な態度を崩していなかった。 だが、その場の空気を一変させたのは、押し寄せた患者たちの「声」だった。


「私から証言させてください!」


傍聴席から進み出たのは、貴族の女性たちや街の住民たちだった。


「私はAIZAWAでピーリング治療を受けました! 長年悩んでいた肌のくすみが消え、生まれ変わったような肌になれたんです!」 「私は酷いニキビ跡を治していただきました! 誰も見向きもしなかった悩みに、相澤先生は真摯に向き合ってくださった!」 「私はルミナ・フィラーを受けました! ほうれい線が消えて、自分に自信が持てるようになった!」 「私は事故の傷痕を綺麗に整えてもらいました! ギルドでは『命があるだけ感謝しろ』と突っぱねられた傷です!」


次々と上がる感謝と賛美の声。 その渦中、静かに立ち上がった女性がいた。初期の患者であり、かつて酷い引きつれ(瘢痕拘縮)に苦しんでいたシャロンだった。


シャロンは昨日のクララの姿、そして今もなお自分たちの医療を「邪法」と蔑むギルド幹部たちを見据え、毅然と進み出た。


「……私は、かつて治癒術師ギルドを心から信じていました」


静まり返る場内に、シャロンの澄んだ声が響く。


「火傷を負った際、ギルドの先生方はすぐに傷を塞いでくださいました。ですが……その後に残ったのは、引きつれて歪み、自力では顔半分を動かすことすらできない醜い肉の塊でした。泣きながら『元に戻してほしい』と縋った私に、ギルドの皆様が仰った言葉を、私は一生忘れません」


シャロンの手が、ぎゅっと胸元で握りしめられる。


「——『命が助かったのだから感謝しろ。見た目など二の次だ』と」


ざわり、と監察官たちの間に動揺が走る。


「私は……ただ息をして、生きているだけで満足したくありませんでした! 自分の顔で笑いたい、大切な人の前で自信を持って立ちたい……! それを叶えてくださったのが、相澤先生と『AIZAWA』の美容医療だったのです!」


シャロンは涙を浮かべながらも、美しく蘇った素顔を誇らしく掲げた。


「患者の心と未来を救う医療を『邪術』と呼ぶのなら、患者の絶望に耳を傾けないギルドの医療とは何なのですか!?」


シャロンの叫びは、場にいたすべての者の胸を強く打った。美容医療の存在意義——見た目の美しさだけでなく、人の尊厳と心まで救う医療の本質が、その言葉に凝縮されていた。


◆


しかし——バルトロメウスは嘲笑を浮かべ、パンと手を打ち鳴らした。


「ハッ! 素晴らしい演説だな。だが……感情論で医療の正しさは決まらん!」


バルトロメウスは眉をひそめ、冷徹な論理で反撃に出た。


「患者が満足したから正しい? そんな馬鹿な話があるか! 医療とは『再現性』と『安全性の担保』の上に成り立つものだ。一部の患者が満足したからといって、あの男のやっている行為が安全だという証明にはならん!」


バルトロメウスは指を突きつけ、場内の監察官たちに言い放った。


「見よ! AIZAWAの治療には『再現性』が存在しない! 異世界の未知なる素材、相澤雄介という一人の男の神業めいた外科技術、そして何より……落ちこぼれだったはずのリーナの特異な再生魔力! そのどれか一つでも欠ければ成立しないではないか!」


鋭い指摘だった。


「つまり、AIZAWAで行われているのは『再現性のある医療』ではなく、偶発的に生まれた『ただの奇跡』だ! 奇跡と医療は違う! 誰も模倣できず、安全の基準も確立されていない技術など、この王都で認めるわけにはいかん!」


ギルド側の「奇跡と医療の違い」という論陣に、監察官たちも思わず唸った。 誰もが雄介の反論を待つ中——雄介は静かに口を開いた。


「……その通りだ」


「「「え……!?」」」


周囲から驚愕の声が上がった。アリアとミーナが息を呑み、バルトロメウスすら一瞬目を見開く。


雄介は落ち着いた足取りで前へ出ると、まっすぐに監察官たちを見つめた。


「俺一人にしかできない治療なら、それは医療として未完成だ」


雄介は振り返り、アリアとリーナの顔を誇らしげに見つめた。


「だからこそ——俺はスタッフを育てている。滅菌と消毒の手順を厳格にルール化し、器具の管理、カルテの記録、術前術後の観察手順まで、すべてをマニュアル化している」


「なに……?」


「俺の外科技術も、アリアの魔導具作成も、リーナの生気湧出も、決してただの奇跡じゃない。解剖学的な根拠に基づき、誰もが同じ精度で扱えるよう『体系化した技術』として構築している最中だ」


雄介の瞳に、医療者としての揺るぎない理念が宿る。


「ギルドの皆さん。俺は皆さんに奇跡を見せるつもりはない。……俺たちが構築してきた『本物の医療』を見せる」


静かだが圧倒的な信念の籠もった言葉。 雄介は、ただ手技に長けた職人ではなく、医療の未来を創り出す「指導者・経営者」としての思想を堂々と示してみせたのだ。


◆


双方の主張を受け、貴族院と監察院の間で激しい議論が交わされた。


「AIZAWAは未だ基準の定まらぬ危険な存在だ!」と叫ぶギルドに対し、 「ならば、その危険性を客観的に証明してみせよ」と貴族側が返す。 「未知の治療法など認められん!」と抗弁するギルドに、 「ならば、公の場でその技術の安全性と有効性を『検証』すればよい」と公爵が命じる。


結果として出された結論は、ただの弾劾裁判でも見せ物の闘技でもなかった。


王立医療規範に基づき執り行われる正式な試み——【新医療技術検証公開審問】の開催決定であった。


審問には、王立医療監察官、治癒術師ギルド、AIZAWA、貴族院代表、患者代表、さらには魔導工学者までが立ち会い、客観的な検証を行うこととなった。


審査項目は、医療の根幹を成す五つの厳格な試練。


一、第一審査:【衛生・安全管理】(感染症対策、消毒、環境保持)

二、第二審査:【診断能力】(病変の見極め、解剖学的洞察)

三、第三審査:【治療技術】(手技の正確性、迅速性、無侵襲性)

四、第四審査:【術後管理】(アフターケア、合併症予防)

五、第五審査:【治療結果】(患者の機能回復および形態的満足度)


この五つの項目において、AIZAWAの医療がギルドの治癒魔法を上回る、あるいは並び立つ安全性と価値があると実証できれば、王都における正式な「新医療機関」としての認可が下りるという条件であった。


◆


公開審問の開催が決定した、その日の夜。


診療所の片付けを終えた診察室で、リーナが不安そうに雄介の元へ歩み寄ってきた。


「相澤先生……私も……私も審問の場に出るんですよね……?」


「ああ。君の『生気湧出』は、俺たちの医療に欠かせない柱だからな」


「……怖いです。またギルドの人たちに『出来損ない』だって罵られたら……私、ちゃんとできるか……」


弱音を吐くリーナに、雄介は柔らかく微笑んだ。


「大丈夫だ」


「どうして……そんなに落ち着いていられるんですか……?」


「俺たちは、何も隠す必要がないからな」


雄介の手が、丁寧に整理されたカルテと消毒マニュアルを撫でる。


「患者を治したいという真摯な思いも、日々重ねてきた衛生管理も、正しく積み上げてきた手技も、すべて本物だ。包み隠さず、いつも通りをやればいい」


その言葉に、リーナの胸のつかえがすっと下りていく。 と、その横からアリアが少し真面目な顔で問いかけた。


「先生……差し出がましい質問ですが。もし……もし万が一、ギルドが私たちよりも優れた治療や結果を見せたら、どうなさるおつもりですか?」


アリアの問いに、雄介は少しだけ思考を巡らせるように天を仰ぎ、静かに答えた。


「そのときは……俺が頭を下げて、彼らから教えてもらうさ」


「え……!?」 アリアとリーナが驚いて目を丸くする。


「医療に勝ち負けなんてない」


雄介は二人を見つめ、医師としての神髄を語った。


「俺たちが戦っているのはギルドじゃない。患者の病気や傷、そして『美しくなりたい』という悩みに向き合っているんだ。患者を一番綺麗に、一番安全に、一番幸せにできる方法が『正解』なんだよ。もしギルドのやり方に俺たちが学ぶべき点があるなら、いくらでも学ぶ」


プライドや権力闘争に固執せず、常に「患者の幸福」を最優先にする雄介の姿勢。 二人のヒロインは、胸を打たれ、深く頷いた。


雄介はデスクの上に置かれた、王立監察院からの正式な通知書を手に取った。


『三日後——王都中央大聖堂前広場にて、新医療技術検証公開審問を開催する』


羊皮紙を見つめる雄介の口角が、わずかに、力強く持ち上がった。


「……さあ、始めようか」


『AIZAWA skin beauty』のプライドと、異世界美容医療のすべてを懸けた歴史的審問の幕が、今まさに上がろうとしていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 私が美容医療の世界に入職したとき、最初に抱いた感想は――「美容って、思っていた以上に化学なんだな」ということでした。


 薬剤の成分や濃度、肌の構造、創傷治癒の仕組み、エネルギーデバイスの特性。ほんの少し条件が変わるだけで結果が変わり、その積み重ねによって患者様の悩みが解決されていく。


 華やかなイメージのある美容医療ですが、その裏側には理論や技術、そして多くの試行錯誤があります。


 この作品で描いている魔法や魔導具も、ただの「便利な力」ではなく、現実の美容医療のように[なぜ?]を追求してます。


ブクマ、星評価、コメント、リアクションありがとうございます!

ぜひ、まだの方はポチッとお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。