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異世界美容外科医 ~美しくなりたい彼女たちと、俺のクリニック経営~  作者: シャロン=ミ


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36話 歳月を巻き戻す魔法

王都中央街に新たに構えた『AIZAWA skin beauty』の豪華なエントランスは、連日連夜、貴族たちの馬車で溢れかえっていた。


「……信じられないわ。あのエマ様、本当にお体にメスを入れていらっしゃらないの?」


「ええ。ご自身の太腿の『余分な脂肪』を胸にお移しになったそうですのよ。あんなに自然で豊かなお胸になれるなんて……!」


先日のエマへの『ルミナ・ファット(自体脂肪注入豊胸術)』の噂は、王都の社交界を激震させていた。 だが、その活気あふれる待合室を避け、固くフードを被った一人の婦人が、裏口の専用通路から極秘裏にカウンセリング室へと案内されていた。


「ようこそ、いらっしゃいました。マリアンヌ伯爵夫人」


カウンセリング室で出迎えた相澤雄介が温かく声をかけると、婦人は緊張した手つきでフードを外した。


現れたのは、王都の社交界で強い影響力を持つ伯爵夫人、マリアンヌであった。 上質なドレスと優美な立ち振る舞い。だが、その素顔には隠しきれない深い疲弊と陰影が刻まれていた。


「……相澤先生。単刀直入にお伺いしますわ」


マリアンヌはすがりつくような眼差しで雄介を見つめた。


「エマ様のお胸をあれほど見事に整えられた貴方様なら……この、落ちぶれていく私の顔も救っていただけますかしら……?」


「お悩みをお聞かせいただけますか?」


雄介が優しく促すと、マリアンヌは自分の頬や目元を細い指先で触れながら、悲しげに吐露した。


「若い頃は、誰からも美しさを称えられました。けれど……四十を過ぎた頃からでしょうか。どんなに高級な美容油を塗っても、治癒術師ギルドの金等級術師に高額な金貨を払って『治癒魔法』をかけてもらっても、何一つ変わらないのです」


「ギルドの治癒魔法を……」


「ええ。『お顔の若返り』を願って何度も治癒魔法を受けましたわ。けれど、あれは傷や病気を治すだけのもの。加齢によるお顔の衰えには、何の役にも立ちませんでしたの」


マリアンヌは鏡に映る自分の顔を直視できず、目を背けた。


「鏡を見るたびに絶望しますの。こめかみが惨めに凹み、頬の肉が削げ落ちて骨ばり……小鼻の脇からは深い溝(ほうれい線)が伸びて、まるでいつも疲れ果てているような、意地悪なお婆様のような顔に……。社交界へ出るのも、もう恐ろしくてたまりませんの……!」


雄介は黙ってカルテにメモを取り、静かに頷いた。


(典型的な加齢による『ボリュームロス(脂肪と骨の吸収)』だな……)


美容解剖学において、顔の「老け」や「疲れ感」の大きな原因は、皮膚表面のシワだけではない。 年齢とともに顔の深部にある骨が縮み、その上にある深部脂肪ディープファットや浅部脂肪が減少・下垂することで、顔の立体的な土台が崩れてしまうのだ。


「マリアンヌ夫人。安心してください」


雄介は解剖図を彼女の前に広げた。


「貴女のお悩みは、病気でもなければ治癒魔法で治る傷でもありません。顔の立体的な土台——つまり『必要な脂肪のボリューム』が失われたことによるものです。そして、それは我がクリニックの技術で完璧に元へ戻せます」


「え……? 元に、戻せる……?」


「ええ。先日開発した『ルミナ・ファット』は、胸だけでなく顔の若返り(エイジングケア)にこそ絶大な効果を発揮します」


雄介は図の「こめかみ」「頬の凹み(チークエリア)」「ほうれい線」を指し示した。


「ご自身の太腿からほんのわずかな脂肪を安全に採取し、高純度に精製します。それを、顔の解剖学に基づいた適切な深さの層へ、微量ずつ緻密に注入していくのです。削げ落ちた部位にふっくらとした美しい丸みを連鎖的に取り戻すことで、見た目年齢を劇的に若返らせることができます」


「私自身の脂肪で……お顔のハリを取り戻す……!?」


マリアンヌは感嘆の声を上げた。人工物を顔に入れる恐怖もなく、自分の組織を使うからこそ不自然な違和感もない。


「相澤先生……! お願いいたします! 私の時間を……あの頃の輝きを取り戻してくださいませ!」


「承知いたしました。施術に入りましょう」



新クリニックの無菌処置室。


「マリアンヌ様、お顔の消毒を行いますね。緊張なさらないでください」


ミーナが優しく声をかけながら、手際よく準備を進める。


顔への脂肪注入は、胸への注入以上に「ミリ単位の精密さ」が要求される繊細な手技だ。 注入する層を間違えたり、一箇所に塊で打ったりすれば、不自然なボコつきや血流障害を引き起こす。


「麻酔を行います。痛みはありませんよ」


雄介は顔の神経走行を完璧に頭に描き出し、適切なブロック麻酔と局所麻酔を施した。 続いて、太腿の目立たない部位からシリンジ一本分のごく僅かな脂肪を滑らかに吸い出す。


「アリア、遠心分離を」


「はい! 『魔導遠心分離器』、作動させますわ!」


アリアの操作により、精細な回転を上げた遠心分離器から、不純物が完全に除去された輝くような『ピュアファット』が抽出された。


「純度100%の精製脂肪、準備完了です!」


「よし。注入を開始する」


雄介は先端の丸い特殊なマイクロカニューレを手にとった。血管を傷つけないよう配慮された医療器具だ。


まず、凹んで骨ばっていた「こめかみ」の深部層へ、0.05ccずつ慎重に分散注入する。こめかみがふっくらと持ち上がるだけで、顔全体のフレームが急激に若々しさを取り戻す。


続いて、削げ落ちていた「頬の中央チークトップ」へ。ここに適度なボリュームを与えることで、自然な「ハイライト効果」が生まれ、頬の低い位置にあったたるみが引き上がったかのような視覚効果が生まれる。


最後に、ほうれい線の基底部分へ、皮下組織を補強するように緻密に注入を重ねた。


(多すぎず、少なすぎず。解剖学的な黄金比の顔面カーブを再現する……!)


雄介の研ぎ澄まされた執刀に、助手として立ち会うアリアとミーナは息を呑んで見守った。


そして——最後の仕上げ。


「リーナ、定着魔法を」


「……はい!」


前に出たリーナが、マリアンヌの顔の上へ静かに手を差し伸べた。


「新しい場所で……また綺麗に咲いて……『生気湧出アナボリック・ブースト』……!」


青紫の柔らかな魔力がマリアンヌの顔全体を優しく包み込む。 注入された無数の脂肪細胞が、微細な毛細血管と瞬く間に結びつき、本来の組織として完璧に同化・定着していく。


「……ふぅ。施術終了だ」


雄介がカニューレを置くと、施術時間はわずか三十分ほどであった。



「……マリアンヌ様。お疲れ様でした。お体を起こして、鏡をご覧ください」


ミーナの誘導で体を起こしたマリアンヌは、受け取った手鏡を持つ手が微かに震えていた。


「ああ……恐ろしい……。もし、何も変わっていなかったら……」


恐怖に目をつむりかけたマリアンヌだったが、意を決して手鏡の中に自分の姿を映し出した。


「……っ!?」


次の瞬間、マリアンヌの息が止まった。


鏡の中に映っていたのは、疲れ果て、骨ばり、陰気な影を落としていたかつての老婦人ではなかった。


こめかみから頬にかけて、ふっくらとした滑らかで上品な丸みが戻っている。 削げ落ちていた頬が高く持ち上がり、あんなに深かったほうれい線が嘘のように浅く、目立たなくなっていた。 何より、顔全体の立体感が整ったことで、肌にパンと張ったような瑞々しいツヤが生まれ、全体として十歳以上も若返った優美な貴婦人がそこに立っていた。


「これが……私……? 嘘……嘘でしょう……!?」


マリアンヌは自分の頬を、こめかみを、指先でそっと撫でた。 不自然な張り感も、痛みも、傷跡すらない。ただ、自分の顔が「最も美しかった頃の形」を取り戻している。


「シワを伸ばしただけではありません。お顔の立体的なボリュームを正しく復元したのです」


雄介が静かに告げると、マリアンヌの瞳からボロボロと大粒の涙が溢れ出た。


「ああ……相澤先生……! 先生は……神様ですか……! どんな高級な魔法でも叶わなかった私の願いを……こんなに綺麗に叶えてくださるなんて……!」


マリアンヌは鏡を抱きしめ、子供のように泣きじゃくった。 長年、失われていく若さと美しさに怯え、社交界で失われていく存在感に苦しんでいた彼女の心が、いま完全に救われたのだ。


「本当に……本当にありがとうございました……!」


何度も深々と頭を下げるマリアンヌを見送りながら、雄介たちは確かな手応えを感じていた。


「先生……『ルミナ・ファット』の顔への注入、大成功ですね!」


ミーナが興奮気味に顔をほころばせる。


「ああ。これでフィラーによる微調整だけでなく、顔全体の根本的な若返り治療が可能になった」


「マリアンヌ様のような社交界の重鎮がここまで若返られたら……また明日から大変な騒ぎになりますわね」


アリアが嬉しそうな溜息をつき、リーナも隣で誇らしげに頷いた。


しかし——。 この『AIZAWA skin beauty』の圧倒的な成功と名声の陰で、暗雲は確実に忍び寄っていた。


(……治癒魔法では決して再現できない『美の創造』。……治癒術師ギルドが、これをいつまでも黙って見過ごすはずがない)


雄介は静かに窓の外、王都の中心にそびえる治癒術師ギルドの白亜の塔を見つめた。


クリニックの飛躍と比例するように、巨大な権力との決戦の刻が、すぐそこまで迫っていた。

フィラーは若者だけのものではないというやつです。

個人的には、普遍的な治療を先にすることをお勧めしたい今日この頃


ブクマと評価を頂けたので追加で投稿をいたしました!とてもモチベーションになってます!ぜひ、面白い!続き読みたい!と思いましたらブクマと⭐️評価をどしどしお願いします!執筆のモチベーションが爆あがりでテンション上がって追加サービス投稿もするかもしれないです(ストック見ながらですが・・・)次回もお楽しみに!



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