31話 白衣を脱いだら超イケメン!? 異世界美容外科医、社交界へ
朝の診療準備中、公爵家から届いた一通の綺麗な手紙を、ミーナが声を弾ませて読み上げた。
「『雄介先生。ぜひ一度、王都の社交界――今週末に開かれる夜会へお越しいただけませんか?』……わあ! レティシア様からの招待状ですよ!」
「俺が……? 社交界に?」
雄介がカルテを繰る手を止め、不思議そうに首をかしげる。
レティシアが王太子殿下との婚約内定を果たしたことで、今や王都の貴族社会における『AIZAWA skin beauty』の知名度は留まることを知らぬ勢いで急上昇していた。さらに、先日『ルミナ・フィラー』の施術を受けたクラリス男爵令嬢をはじめ、切らない美容医療を受けた貴族女性たちが口々に、
「私もAIZAWAで施術を受けたのよ」 「フィラーという治療ですの」 「メスを使わずに、たった十数分で横顔の輪郭がこんなに綺麗に……!」
と社交場で熱弁を振るっているらしい。
今や『AIZAWA』の名は単なるクリニックの枠を超え、王都の貴族女性たちにとっての「最先端の美のステータス」としてブランド化しつつあった。その中心人物である相澤雄介を、レティシアはぜひ自身のお披露目も兼ねて社交界へ招待したいのだという。
「うーん、社交界か。医師として患者たちの術後経過を遠目で観察できるなら、行ってみるのも悪くないが……」
顎に手を当てる雄介に、ミーナがジト目を向けた。
「先生、まさかとは思いますけど、いつもの白衣で行くつもりじゃありませんよね?」
「……ダメなのか? 清潔感はあると思うが」
「ダメに決まってるじゃないですかッ!」
ミーナとアリアの息の合った一撃が飛ぶ。隣にいたリーナも、珍しく深々と首を振った。
「先生……社交界では、その服装はちょっと……」
「そうなのか……?」
雄介は困り顔で頭を掻いた。 前世の病院勤務時代は、職場では常にスクラブ(医療用ユニフォーム)、私服は無地の白いTシャツにジーンズ、自宅での部屋着も使い古したスクラブという生活を十数年続けていた。美容外科医として患者の美意識には誰よりも敏感だったが、自分の服装に関しては「動きやすくて清潔なら何でもいい」と徹底的に無頓着だったのだ。
「はあ……先生って、患者さんを綺麗にするセンスは間違いなく一流なのに、ご自分のことになると本当に無頓着ですよね」
「……宝の持ち腐れ」
ミーナの呆れ顔に、リーナがぽつりと同意の言葉を漏らす。
「仕方ありませんわね! 公爵家御用達の高級仕立て屋を予約してありますから、今から採寸に行きますわよ!」
アリアの主導で、雄介は半ば強引に王都の一等地に店を構える老舗の高級仕立て屋へと連行されることとなった。
◆
「いらっしゃいませ……おや、公爵家からのご紹介の相澤先生でございますね!」
迎えてくれた老仕立て屋は、雄介を案内すると早速、採寸用のメジャーを取り出した。
「では先生、上着を脱いで軽く腕を広げてください」
「ああ」
雄介が白衣と上着を脱ぎ、姿勢を正したその瞬間――。
「「「……っ!?」」」
店内に居合わせたミーナ、アリア、リーナ、そして仕立て屋の店主までもが息を呑んだ。
白シャツの上からでもはっきりとわかる、無駄な脂肪が一切ない引き締まった体幹。180センチを超える高い背丈に、すらりと伸びた長い手脚、そしてキュッと引き締まったウエスト。
「な、なんという完璧なプロポーション……! 骨格のバランス、肩幅と腰回りの比率……これほど服を着せ甲斐のある体型の男性は、お国柄を見渡しても滅多にお目にかかれませんぞッ!」
店主が目をギラギラと輝かせ、驚異的な手つきで次々と採寸を行っていく。
「え、あ……先生って、こんなにスタイル良かったんだ……」
ミーナが思わず頬を赤く染めて呟けば、アリアもどこか気恥ずかしそうに視線を泳がせ、リーナに至っては口を半開きのまま固まっている。
「仕立て上がりまで二時間ほど頂戴いたします! その間に髪などを整えてこられてはいかがでしょう!」
店主の興奮気味な提案により、雄介たちは近くの王立御用達の髪結い処(高級美容院)へと向かうことになった。
◆
一時間後。髪結い処から出てきた雄介の姿に、店外で待っていたヒロイン三人は言葉を失った。
今まで無造作に伸ばされ、前髪が目元にかかっていた髪が、プロの手によって艶やかに整えられ、おでこを爽やかに出した知的で品のあるスタイルに変化していたのだ。
元々、日本人離れした高い鼻頭と切れ長の美しい目元、シャープな顎ラインを持つ雄介だ。髪型を整えただけで、隠れていた本来の圧倒的な整った顔立ちが完全に露出していた。
「お待たせ。どうだ?」
「……つ……っ!?」
アリアは両手で顔を覆って固まり、ミーナは「ふぇ……?」と間抜けな声を漏らし、リーナは青紫の目を丸くして立ち尽くしている。
「……先生……ですよね……?」
「当たり前だろ。他に誰がいるんだ」
首をかしげる雄介。その時、通りがかった貴族風の若い女性客が、雄介の顔を見るなりボッと頬を真っ赤にして歩み寄ってきた。
「あの……! もしお暇でしたら、あちらのティーサロンでお茶でもご一緒いたしませんか……!?」
「ん? 俺か?」
雄介が素で問い返した瞬間――。
「先生は!! これから仕立てたお洋服を取りに行くところなんですッ!!」
アリアがバッと間に入り込み、氷のように冷たい視線で女性客を牽制した。女性客は「ひっ」と短い悲鳴を上げて逃げ出していく。
「あ、ああ……(なんで怒られてるんだ俺は?)」
首を捻る雄介を連れ、一行は再び仕立て屋へと戻った。
◆
「お待たせいたしました! 先生、試着室へどうぞ!」
店主が自信満々に差し出したのは、深みのあるナイトブルーの上質な生地に、繊細な銀糸の刺繍が施された特注の最高級礼装だった。
数分後。着替えを終えた雄介が、フィッティングルームのカーテンを開けて姿を現す。
「どうかな。少し肩回りがきついような気もするが……」
仕立て上がったスーツを纏った雄介の姿は、まさに圧巻の一言だった。
高身長と抜群のスタイルが、計算し尽くされた礼装によって完璧に引き立てられている。知的な気品と堂々たる存在感を放つその佇まいは、どこからどう見ても高貴な一族の男そのものだった。
「おおお……! す、素晴らしすぎる……! どこかの国の王族か、あるいは伝説と謳われる高名な聖騎士様かと見紛うばかりの神々しさです……!」
仕立て屋の店主が感涙を流して拍手を送る。
「かっこいい……っ……」
ミーナはうっとりと瞳を潤ませて吐息を漏らし、
「あう……あうう……」
リーナはキャパシティをオーバーしたのか、真っ赤な顔で小さく可憐な悲鳴を上げている。アリアもまた、胸の前でキュッと手を握りしめ、赤くなった耳たぶを隠すように俯いていた。
「よし、先生の準備は完璧ですね! ……それじゃあ次は、私たちの番です!」
ミーナが腕を組んでビシッと指をさした。
そう、王太子妃候補となったレティシアの招待だ。相澤雄介の伴侶・スタッフとして同行するアリア、ミーナ、リーナの三人にもまた、公爵家から最高のドレスが用意されていたのである。
雄介が待合スペースで待つこと数十分。
「先生……お待たせいたしましたわ」
控えめなアリアの声に雄介が振り返ると――そこには、息をのむほど美しくドレスアップした三人のヒロインが立っていた。
アリアは、彼女の濃紺の髪と透き通る白肌を際立たせる、洗練されたエレガントなコルセットスタイルの夜会ドレス。
ミーナは、明るいハニーブラウンの髪に映える、可憐で華やかなコラールピンクのフレアドレス。
そしてリーナは、儚げな銀髪と青紫の瞳に合わせた、幻想的なライトブルーのシルクドレス。
普段の清潔な医療着や控えめな街着とは打って変わり、丁寧にメイクとヘアセットを施された彼女たちは、王都のどんな令嬢たちにも引けを取らない輝きを放っていた。
「……すごいな」
雄介は心からの感嘆を込めて、三人を交互に見つめた。
「三人とも、見違えるほど綺麗だ。本当に……素晴らしいよ」
美容外科医としての客観的な美の評価でありながら、まっすぐな瞳で褒めちめられた三人は、一瞬で顔をりんごのように真っ赤に染めた。
「あ、ありがとうございます、先生……っ」
「もう……先生ったら、さらっとそういうこと言うんだから……っ」
「……えへへ」
圧倒的な美貌とスタイルを手に入れたイケメン医師・相澤雄介と、極上のドレスに身を包んだ三人の美しきヒロインたち。
社交界という華やかな戦場へ向かう準備は、こうして完璧に整ったのだった。
ラブコメ会です。ついに社交界にお呼ばれですね。
楽しみですね。
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