27話 公爵令嬢の人生を変えます! 異世界初の鼻フル整形、手術開始!
手術当日の朝。 『AIZAWA skin beauty』のカウンセリング室には、ピンと張りつめた重苦しい空気と、緊張感が満ちていた。
豪爽な服に身を包んだオルランド公爵が、いかめしい顔で腕を組んで座っている。その隣には、不安と恐怖で両手を固く握りしめ、俯く娘のレティシア。 雄介は二人の前に羊皮紙の精密なデッサンと、木と粘土で作った立体模型を並べた。
「では、本日行う『総合鼻形成術(いわゆる鼻フル整形)』についてのインフォームド・コンセント(説明と同意)を始めます。お二人とも、よく聞いてください」
雄介の落ち着いた声に、レティシアがそっと顔を上げた。
「レティシアさんのご要望、そしてお顔の骨格に合わせた施術内容は大きく分けて四つです」
雄介は手元の図を指差しながら、素人にもイメージしやすいよう言葉を選んで説明を始めた。
「まず一つ目は『プロテーゼ挿入手術』。昨日作製した人工軟骨を、鼻筋――つまり目と目の間から鼻の真ん中にかけて滑り込ませます。これにより、平坦だった鼻筋が高くなり、顔全体に洗練された立体感が生まれます」
「そ、そんなものを鼻の中に入れるのですか……? 痛かったり、違和感があったりは……」
レティシアが不安そうに尋ねる。
「麻酔をしっかり効かせるので、手術中の痛みはありません。素材もあなたの身体の組織に極力近い弾力で作ってあります。そして二つ目が『耳介軟骨移植』です」
雄介は自分の耳の裏を軽く指で触れてみせた。
「あなたの耳の裏から、機能に支障が出ない範囲でほんの少しだけ軟骨を切り取ります。人工物ではなく『ご自身の組織』を鼻先に移植することで、拒絶反応を防ぎつつ、鼻先を自然にツンと高く整えることができるんです」
「自分の耳の軟骨を……鼻に……?」
「ええ。そして三つ目が『鼻尖形成』。横に丸く広がっている鼻先の軟骨を引き寄せて縛り直し、シャープな細さを作ります。最後に四つ目が『小鼻縮小(鼻翼縮小)』。横に張り出している小鼻の付け根を数ミリだけ切除し、幅を引き締めて鼻の穴を小さく見せます」
雄介はレティシアの目を真っ直ぐに見つめた。
「これらの施術を組み合わせて、お顔全体のバランスに完璧に調和した、美しく上品な鼻筋を作り上げます。……ただし、医療に絶対はありません。術後は数日から数週間、腫れや内出血が出ますし、形を定着させるためにギプスで数日間固定する必要があります」
「ふん、講釈はもう十分だ!」
それまで黙って聞いていたオルランド公爵が、苛立ったように机を拳で叩いた。
「要するに、その細工で我が娘が完璧な美貌になれば良いのだろ! だが相澤とやら、忘れるなよ?」
公爵は身を乗り出し、濁った眼光で雄介を睨みつけた。
「もし失敗し、娘の顔に不細工な傷痕が残ったり、王太子殿下に嫌われるような無残な姿になったら――貴様はもちろん、そこにいる助手どもも含めて全員、ただじゃ置かん。職権を使って即座に捕縛し、首を撥ねて打ち首にしてやるからな!」
横暴で身勝手な脅しに、控えていたミーナが「なっ……!」と息をのむ。
しかし、雄介の表情は一切崩れなかった。冷徹なまでに冷静な瞳で公爵を見つめ返す。
「公爵閣下。俺たちがメスを握るのは、誰かの脅しに怯えているからではありません。目の前の患者の安全を守り、その人生を輝かせるためです」
「なんだと……?」
「ここから先は清潔領域――手術室(聖域)です。執刀医とスタッフ以外の立ち入りは一切認めません。閣下は控室でお待ちください」
「くッ……どこまでも不遜な男め! 覚えておけよ!」
公爵は不機嫌そうに捨て台詞を吐くと、護衛を引き連れてカウンセリング室を後にした。
静まり返った部屋で、レティシアが小さく肩を震わせる。
「す、すみません、先生……お父様があんなひどいことを……。私のために、先生たちを巻き込んで……」
「気にするな、レティシアさん」
雄介は柔らかく微笑むと、彼女の目線に合わせてかがんだ。
「俺を誰だと思っている? 最高峰の美を作り出す美容外科医だ。……大丈夫、絶対に綺麗にしてやる。俺たちを信じて、任せてくれ」
雄介の力強く温かい言葉に、レティシアの瞳から不安が消え、静かな決意が宿った。
「……はい! よろしくお願いいたします、相澤先生!」
◆
手術室。無菌化された空気が満ちる部屋で、レティシアが手術台に横たわっていた。
「局所麻酔、注入します」
雄介の手際よい麻酔注射により、レティシアの鼻と右耳の周囲がじわじわと感覚を失っていく。
「アリア、耳介軟骨の採取準備。ミーナ、バイタル管理。リーナは清潔野の保全と、いつでも組織再生の微弱魔法を打てるよう待機」
「はい、先生!」
看護スタッフとして洗練された動きを見せる三人のヒロインたち。雄介の手に、鋭く輝く医療用メスが握られた。
「これより、総合鼻形成術を開始する」
第一工程は耳介軟骨の採取。 雄介はレティシアの右耳の裏側、皮膚の折れ目に沿って最小限の切開を加えた。傷跡が絶対に目立たない位置だ。素早い手つきで周囲を剥離し、必要な分量だけの耳軟骨を慎重に切り出す。
「軟骨採取完了。アリア、生理食塩水で保湿保管」
「承知いたしました!」
耳の傷口を極細のナイロン糸で素早く縫合すると、いよいよ本丸である「鼻」の手術へと移行する。
鼻孔の内側(クローズド法)からメスを入れ、鼻背(鼻筋)と鼻尖(鼻先)の骨膜下を慎重に剥離していく。ミクロン単位の感覚を手指に伝えながら、出血を最小限に抑えて「ポケット」を作り出していく。
「すごい……全く無駄がない手さばき……」
側に立つアリアが、息をのんで雄介の手元を見つめる。
剥離を終えると、前夜アリアと触感テストを重ねて作り上げた「完全オーダーメイド・プロテーゼ」を、作成したポケットへと滑り込ませた。
ぬるりと吸い付くように、レティシアの鼻骨の上に収まるプロテーゼ。適度な弾力と柔軟性が、滑らかな鼻筋のラインを作り出す。
「よし、フィット感は完璧だ。続いて鼻尖形成」
丸く広がっていた大鼻翼軟骨を引き寄せ、医療用糸でキュッと結び留める。さらに、先ほど採取した耳介軟骨を細かく整形し、鼻尖の先端にしっかりと固定。ツンと上向きの、洗練された鼻先が形作られた。
「最後、小鼻縮小(鼻翼切除)」
外側の小鼻の付け根、溝に沿って数ミリの余分な皮膚と組織を精密に切除する。 ここが最も美容外科医の「センス」と「縫合技術」を問われる部分だ。ミリ単位の狂いが左右差を生む。
雄介の視線が鋭く研ぎ澄まされる。 細い針と糸が、まるで魔法の糸のように美しく肌を縫い合わせていく。傷口の皮膚が寸分のズレもなく合致し、目立つ縫い目すら残さない完璧な真皮縫合。
「リーナ、術後炎症の抑制魔法を」
「はい……! 『小さき癒やしよ、腫れを鎮め、血を巡らせよ』」
リーナが小さな手をかざすと、淡い緑色の光がレティシアの鼻を包み込んだ。急速に内出血や腫れが引き、縫合部が落ち着いていく。
「――よし。オペ終了だ」
雄介がメスを置くと、室内に安堵の息が漏れた。
手術台の上のレティシアは、麻酔と緊張から解放され、安らかに呼吸をしている。 雄介は最後に、作り上げた鼻のラインが崩れないよう、ギプスと固定テープでしっかりと鼻を保護した。
「先生、お疲れ様でした! 本当に素晴らしい手技でした……!」
ミーナが汗を拭いてくれ、アリアとリーナも崇めるような瞳で雄介を見つめている。
「みんなのおかげだ。……あとは数日後、このギプスを外す時が勝負だな」
固定されたギプスの下には、異世界の常識を覆すほどの、息をのむような美しさを秘めた鼻筋が眠っている。
横暴な公爵の脅しを跳ね返し、無事に大手術を終えた雄介たち。
少女の運命を変える「真実の美」のお披露目は、もうすぐそこに迫っていた。
鼻フルは印象とても変わります。
間違えると面長が強調されたりとか大変なのでさという会。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
「続きが気になる!」「面白かった!」と思っていただけましたら、
☆☆☆☆☆評価やブックマークで応援していただけると、とても励みになります!
皆さまの応援が、執筆を続ける大きな力になります。
また次話でお会いしましょう!




