26話 公爵令嬢の鼻を治すため、異世界初のプロテーゼを作ります!
翌朝、雄介とミーナの二人は、王都の一角にある賑やかな素材市場へと足を運んでいた。
「先生! あっちに魔導薬学の珍しい材料がたくさん並んでますよ!」
爽やかな朝の光の中、ミーナは嬉しそうに雄介の腕をギュッと両手で抱え込んだ。
「おいおい、ミーナ。引っ張りすぎだ」
「いいじゃないですか! 今日は大事な買い出し兼……ふふ、ちょっとしたデートみたいなものですからね!」
ミーナはいたずらっぽく微笑むと、雄介の腕に胸の柔らかい感触を惜しげもなく押し当ててくる。
レティシアの鼻筋を補高するためのプロテーゼ(人工軟骨)。その主原料となる「高純度スライム核のエキス」と「高耐久魔獣の軟骨成分」を入手するのが今回の目的だった。
露店を巡る途中、鍛冶屋や錬金術師の屋台で珍しい素材を選定しつつ、ミーナに押し切られる形で串焼きの肉を食べ歩きしたり、可愛い髪飾りをおねだりされたりと、雄介はしばし賑やかな時間を過ごした。
「よし、最高級の素材が揃ったな。クリニックに戻るぞ」
「はーい! 先生、またお出かけに付き合ってくださいね!」
満足そうに微笑むミーナとともに、二人は『AIZAWA skin beauty』へと戻った。
◆
その夜。外の喧騒が静まり返ったクリニックの処置室で、雄介とアリアの二人による極秘の作業が始まった。
机の上には、魔導炉で滅菌・精製されたスライム核エキスと魔獣軟骨の混合液が載っている。
「先生、配合した素材の魔力固定、完了いたしました」
「助かる、アリア。……ここからは俺の領域だ」
雄介は医療用メスを手に取り、昼間に取ったレティシアの鼻の精密型取りデータと羊皮紙のデッサンを見比べながら、集中力を研ぎ澄ませた。
カチ、カチ、と静かな部屋にメスが素材を削る硬質な音が響く。
ミクロン単位で角度を調整し、レティシアの鼻骨のラインにぴったり沿うようにカーブを描いていく。その真剣な横顔、一切の迷いがない手つきに、側に立つアリアはうっとりと息をのんだ。
(先生のこの手……本当に、魔法みたいに美しい……)
だが、一通りの彫刻を終えたところで、雄介はふと手を止め、眉をひそめた。
「……ダメだ。これじゃあ少し硬すぎる」
「えっ? 形は完璧に見えますが……」
雄介は削り出したプロテーゼを指で軽く曲げ、首を横に振った。
「形だけじゃないんだ。人間の鼻の軟骨は、骨のような固さがありながらも、指で押すと適度にしなる柔軟性が必要なんだよ。硬すぎれば長年かけて皮膚に負担をかけ、最悪の場合、プロテーゼが皮膚を突き破って露出するリスク(プロテーゼ露呈)がある」
「そ、そんなリスクが……! では、どれくらいの柔らかさが理想的なのですか?」
「人間の本物の耳介軟骨や、鼻尖の軟骨と同じ『弾力と柔らかさ』だ。……だが、素材の配合率を調整するにも、基準となる実物の触感を確かめないとな」
思案する雄介の言葉を聞き、アリアはごくりと唾を飲み込んだ。 そして、顔を真っ赤に染めながら、意を決したように小さな声を上げた。
「……そ、それでしたら……私の身体で、試してみますか……?」
「ん? アリアの?」
「は、はい……! 私の耳や鼻の軟骨でよろしければ……どうぞ、触って確かめてください……っ」
アリアは羞恥心で耳まで真っ赤にしながら、そっと雄介の前に顔を差し出した。
「助かる。じゃあ、失礼するよ」
雄介は一切の邪念のない、純粋な「医師の顔」でアリアの至近距離に顔を近づけた。
「……っ!?」
あまりの距離の近さに、アリアの心臓が跳ね上がる。雄介の規則正しい息遣いが、彼女の頬に触れそうなほどだった。
雄介の温かく大きな指先が、そっとアリアの耳たぶと耳介(耳の軟骨)を挟み込んだ。
「ん……ッ……」
指先が優しく耳介のコリコリとした軟骨を押し、弾力を確かめる。
「なるほど、耳介軟骨は適度な弾力と、押すとムニムニと沈み込むような柔らかさがあるな……。次は鼻先だ」
雄介の指がスーッとアリアの透き通るような肌を滑り、整った鼻先へと移動する。
「……ふあ……っ」
指先で鼻尖を「ムニムニ」と優しく揉むように確かめる雄介。アリアは上気した瞳で固まり、吐息を漏らしながらただじっと耐えていた。
「よし、触感の感覚は掴めた。この弾力を再現すれば――」
納得したように頷く雄介だったが、ふと気配を感じて振り返った。
処置室のドアの隙間から、ミーナとリーナの二人が無言でじーーーーーっと雄介を凝視していた。
ミーナはジト目で頬を膨らませており、リーナは無表情のまま冷ややかな視線を送っている。
「……なんだ?」
首を傾げる雄介に対し、小柄な治癒魔術師・リーナが小さく息を吐き、静かに言い放った。
「……先生のすけべ」
「なっ……! 違う、これは医療的な触感テストだ!」
「先生! 私の耳だってムニムニしてくれて良かったんですよ!?」
ミーナがぷんぷんと怒りながら部屋に入ってきて、アリアは照れくささのあまり「あうう……っ」と顔を両手で覆って倒れ込んだ。
「たく……誤解だと言っているだろう」
雄介は苦笑しながらも、すぐに真剣な表情に戻り、アリアの耳と鼻の触感を忘れないうちに素材の配合比率を微調整した。
スライム核エキスの柔軟性と、魔獣軟骨の強度が見事に調和する。
メスを振るい、最終的な研磨を施したとき――そこには、光を浴びて神秘的なまでに滑らかに輝く、異世界初となる「完全オーダーメイド・人工軟骨」が完成していた。
適度なコリコリ感と、吸い付くようなムニムニとした柔軟性。
「……完璧だ。これならレティシアさんの鼻に完全にフィットする」
雄介の言葉に、ミーナもリーナも、顔を真っ赤にしたアリアも、一瞬で職人の表情に戻って深く頷いた。
「明日はいよいよ、レティシア様の手術本番ですね」
「ああ。彼女の人生を変えるオペにするぞ」
最高のプロテーゼと、最高のスタッフ。 準備を整えた雄介たちは、ついにレティシアの鼻形成手術へと臨むのだった
リアル問題鼻は修正修正!ですからね、一度直すと何度も直します。
全国10万人のアリアファンの皆さん、ブクマ、高評価、コメントお願いいたします!とても励みになります!




