14話 針が呼び起こす再生力
『AIZAWA skin beauty』の開院から数週間。 クリニックの評判はグランザの街にとどまらず、噂を聞きつけた隣町の女性たちにまで瞬く間に広まっていた。
導入されたマイルドなケミカルピーリングや、雄介が開発した『AIZAWA』の基礎化粧品ライン、そして何より日光から素肌を守る『AIZAWA SUN veil』は、入荷するそばから飛ぶように売れていく。
「先生! 今日も予約の患者さんで待合室がいっぱいです!」
「よし、順に案内してくれ。焦らず一人ひとり丁寧にな」
患者が増えるにつれ、提供する施術の幅にも変化が求められ始めていた。
ピーリングや化粧品によるスキンケアは、肌のターンオーバーを促し、くすみや軽度の色素沈着、浅い小じわには劇的な効果をもたらす。だが、診療を重ねるうちに、それだけでは解決できない深い悩みを抱えた患者たちが訪れるようになったのだ。
◆
「先生……ここの、肌の凸凹って治りますか……?」
鏡を手に、消え入りそうな声で尋ねてきたのは、20代半ばの女性客だった。 頬を覗き込むと、滑らかな皮膚の中に、ぽつぽつと小さなクレーター状の凹みがいくつも残っている。
さらに、別の診察室で問診を受けていた若い女性も、身を乗り出して縋るように訴えてきた。
「私はここの毛穴の開きを縮めたいんです……! 近くで見られるのが恥ずかしくて、ずっとお化粧で隠そうとしても上手くいかなくて……」
雄介は手袋をはめた指先でそっと彼女たちの肌に触れ、拡大鏡で状態を詳細に観察した。
(角質層や表皮浅層の問題じゃないな……。これは真皮層まで達した強い炎症の痕だ)
心の中で冷静に診断を下す。 異世界では、青少年の時期にできるニキビや皮膚の炎症に対して、不衛生な手で潰したり、強い刺激のある薬草を塗ったりするのが一般的だった。その結果、強い炎症が真皮深層の組織を破壊し、引きつれを起こして凹んだまま固まってしまう「陥没瘢痕(クレーター痕)」を残してしまうケースが非常に多かったのだ。
「ピーリングと化粧品だけだと、どうしても限界があるな……」
雄介がぽつりと呟いた言葉を聞きつけ、患者の女性がショックを受けたように肩を落とした。
「やっぱり……いくら凄腕の相澤先生でも、無理ですかね……? 昔、赤い炎症ができた後にずーっとこの凹みが残っちゃって……もう二度と元には戻らないんだって、諦めてたんです……」
涙ぐむ患者に対し、雄介はしっかりと目を見つめ返し、力強く首を横に振った。
「いいや、諦める必要はない。元の赤ん坊のような肌に完全に戻すのは難しいが――『目立たなくさせる』方法は確実にある」
「えっ……! ほんと、本当ですか!?」
「ああ。傷ついた肌のメカニズムを利用して、内側から盛り上げる治療法があるんだ」
◆
患者を一度待合室へ案内し、診察室で器具の整理をしていたミーナが、目を丸くして雄介に詰め寄ってきた。
「先生! さっき『目立たなくさせる方法がある』って言ってましたけど……そんな魔法みたいな方法、本当にあるんですか? ピーリングでも治らない凹みなんですよね?」
「魔法じゃない。皮膚が本来持っている『創傷治癒野生力』……つまり、傷を自分で治そうとする再生能力を極限まで引き出す治療だ」
雄介はカルテに目を通しながら、静かに解説を始めた。
「これまでは、肌にダメージを与えない『守りのケア』と、表面の角質を優しく整える『マイルドな攻めのケア』を中心にやってきた。患者たちに日焼け止めの重要性が浸透していない段階でハードな施術をすると、炎症後色素沈着を起こして逆効果になるからな」
「はい。先生が『SUN veil』を作ってくれてからは、みんなちゃんと毎日塗ってくれてます!」
「ああ。この世界の患者たちのスキンケアコンプライアンス……つまり、指示通りのケアを守って肌を大切にする意識は、想像以上に高まってきた。日光対策が徹底できる今なら、一歩踏み込んだ『本格的な攻めの治療』を始めてもいい時期だ」
「攻めの治療……? どんなことをするんですか?」
身を乗り出すミーナに、雄介はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、はっきりとその名を口にした。
「――マイクロニードル治療だ」
元ネタはダー⚪︎ペンでございます。個人的にかなり好きな施術ですが、麻酔なしだととても痛かったでございます。
魔道具✖️美容医療の組み合わせをお楽しみに
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