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異世界美容外科医 ~美しくなりたい彼女たちと、俺のクリニック経営~  作者: シャロン=ミ


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11話 先生、ここは私に任せてください!

買い取った建物の基礎工事と内装の下地が整い、いよいよ本格的な店舗づくりが始まった。 羊皮紙に引いた設計図通りに出来上がりつつある室内を見回しながら、雄介は一つひとつ配置を確認していく。


「一階の受付から診察室への導線はこれでよし。消毒液やタオルを置く棚は可動式にして……よし、施術室はこの奥で――」


機能性と衛生面を最優先に考えた配置を頭の中で組み立てていた雄介だったが、後ろをついてきていたミーナが、ふと足を止めて声を張り上げた。


「先生、ちょっと待ってください!」


「ん?」


「ここ……なんだか冷たすぎませんか?」


雄介は周囲を見回した。無機質な石造りの壁、素朴な木の床、そして医療器具を置くためのシンプルな机。消毒液の匂いが漂ってきそうなほど殺風景だが、余計なものが一切ない清潔な空間だ。


「……診療所なんだから、こんなものだろ。清潔で、余計な動線の邪魔にならないのが一番だ」


「違います! ここはただの病気を治す病院じゃなくて、美容のお店ですよ!?」


ミーナは腕を組んで仁王立ちになると、ふんすと鼻を鳴らした。


「そんな白くて冷たいお部屋じゃ、緊張してお肌の悩みなんて相談しづらいです! 女の人が『うわぁ、素敵! また来たいな』って思えるような空間にしないと駄目です!」


そこからは、ミーナの独壇場だった。


「家具は無機質なものじゃなくて、温かみのある深みのある木製にしましょう! 照明も直射の眩しい光じゃなくて、柔らかく包み込むような魔導ランプの光にして……あ、受付と待合室には可愛いお花を飾りたいです! 姿見の鏡も、患者さんが自分を綺麗に映せる大きなものを置きましょう!」


ミーナは街の家具屋や雑貨屋からカタログのような見本を持ち込み、カーテンの生地、小物の配置、クッションの手触りに至るまで次々と選定していく。


雄介が追求するのは、あくまで医療施設としての『機能性』と『衛生面』。 対してミーナが追求するのは、患者である女性たちが『また訪れたくなる心地よさ』。


一見対立するように見えた二人の視点だったが、組み合わさることで無機質な「治療場」が、温かみと気品を備えた「美容空間」へと劇的に変化していった。


◆


内装の作業中、ミーナが手にした小さな手鏡を雄介の目の前に突き出してきた。


「先生、これどうですか? 施術室のドレッサーに置く鏡なんですけど!」


「ん……いいんじゃないか」


テキパキと棚の採寸をしながら答える雄介に、ミーナは半目になって頬を膨らませた。


「……ちゃんと見て言ってます?」


「見てるよ」


「じゃあ、どこがいいですか?」


詰め寄られた雄介は作業の手を止め、真顔でその小さな鏡をじっと凝視した。拡大鏡としての倍率や、鏡面の歪みの有無を確認するように見つめる。


「……縁の装飾が、金属の引っかかりがなくて安全そうだな」


「そっちですか!?」


ミーナはガクッと肩を落とした。


「私が言ってるのは、この彫刻が可憐で可愛いってことですよ! 先生って本当にデザインより機能しか見てないんだから……!」


「怪我や感染の事故を防ぐのが一番だからな」


むっとするミーナに雄介が淡々と返すと、ミーナは小さく溜息をつき、呆れたように、けれどどこか愛おしそうに雄介を見つめた。


「先生って、こういう可愛いのとかお洒落なの、全然興味ないですよね」


「まあな。患者を診て、正しく施術するのが俺の仕事だからな」


「でも、ここで働くのは先生だけじゃないですよ」


「……?」


雄介が振り返ると、ミーナは恥ずかしそうに、だがしっかりと雄介の目を見つめていた。


「私もいるんですから。先生が治療に集中できるように、患者さんが心地よく過ごせる空間を作るのは、私の役割です!」


「……」


その言葉に、雄介はハッとさせられた。


(そうか……俺はまた、全部一人で背負い込んで作ろうとしていたのか)


日本にいた頃、院内のインテリアもシステムも、上の指示や効率だけで決められていた環境に慣れきっていた。だがここは違う。自分がゼロから作る場所であり、隣には自分を支えようとしてくれるパートナーがいるのだ。


雄介は肩の力を抜くと、ふっと表情を緩めた。


「……そうだな。じゃあ、内装や小物のコーディネートは、ミーナの好きにしていい」


「えっ……! 本当ですか!?」


「ああ。君の言う通り、ここは患者さんが心を開く場所だ。ミーナのセンスを信頼する」


「はいっ! 任せてください、先生!」


ミーナは一気に満面の笑みを咲かせた。 雄介の中で、この場所が単なる「自分が働くクリニック」から、「二人で作り上げる場所」へと、静かに認識が変わった瞬間だった。


◆


二人が内装の手直しを進めている間にも、噂はすでに街中に広がり始めていた。


工事中の店舗の扉が開くたび、通りかかった街の女性たちが覗き込んでは、手伝いに来ている宿屋のミーナに声をかけてくる。


「ミーナちゃん! 本当にここにあのお店ができるの!?」


「はい、おばさん! あと数日でオープンできますよ!」


「あの『AIZAWA』の化粧水、また買えるのかしら? 宿の方じゃ売り切れちゃって……」


「先生に言っておくので、オープンまでもう少しだけ待ってくださいね!」


さらに、別の若い女性客が興奮気味に身を乗り出してきた。


「ミーナちゃん、聞いたわよ! お肌がツルツルになる『ピーリング』っていうのも、ここでやってもらえるんでしょう!?」


「はい! 雄介先生が直接施術してくれますよ。すっごくお肌がパッと明るくなるんです!」


「まあ! 絶対予約するわ!」


奥の診察室で棚を取り付けていた雄介は、表からの賑やかなやり取りを耳にして苦笑いを浮かべた。


(……おいおい。開院前なのに、もう患者が殺到しそうな勢いなんだが……)


プレッシャーを感じつつも、それ以上に求められているという実感が、雄介の胸を熱くさせた。


◆


作業も大詰めを迎え、看板職人が運んできた木製の特大看板が、入口の頭上に掲げられた。


そこには、流麗な金色の文字でしっかりと刻まれている。


【 AIZAWA skin beauty 】


表に出て、完成した看板を見上げるふたり。 ミーナがしみじみとした声で呟いた。


「AIZAWA……」


「……やっぱり変か? 異世界の人間からしたら、聞き慣れない名前だろう」


「ううん、いいと思います!」


ミーナは振り返り、雄介を見上げて微笑んだ。


「すごく素敵です。……先生らしくて」


「俺らしい?」


「はい。自分の名前をお店に出すのって、すごく勇気がいることですよね? 『私が責任を持ちます』って、患者さんに約束してるみたいで……先生の誠実なところ、そのままです」


「……」


雄介は少し目を見張った。 自分がかつてスタッフに語った「ブランドに創業者や医師の名を冠する意味」を、ミーナはしっかりと理解し、自分の生き方と重ね合わせてくれていたのだ。


照れくささを誤魔化すように、雄介は小さく咳払いをした。


「……さて、中に入って最終チェックをするぞ」


◆


すっかり陽が落ち、夜の静寂がグランザの街角を包み込んでいた。


暖色の魔導ランプが優しく照らす店内を、二人で最後に確認して回る。 掃除と片付けを終えたミーナは、待合室に置かれたふかふかの木製ソファにへたりと腰を下ろした。


「ふぅぁ……疲れたぁ……!」


「お疲れ様。今日はもう終わりにするか」


「先生は?」


「俺はもう少し、明日からのカルテの準備と試薬の在庫チェックを――」


雄介が立ち去ろうとしたその時。


クッ、と上着の袖が引っ張られた。


振り返ると、ソファから身を乗り出したミーナが、雄介の袖の端をぎゅっと握りしめていた。


「……今日は、一緒に帰りましょうよ」


「……ん? ここ、宿だろ?」


クリニックは雄介たちが泊まっている宿屋から目と鼻の先であり、ミーナの実家でもある。


雄介の素っ気ない、頓珍漢な返答に、ミーナは一瞬固まり――次の瞬間、顔をリンゴのように真っ赤にした。


「っ~~! そうですけどっ! そういう意味じゃありませんっ!」


「?」


「『夜道が危ないから一緒に』とか『疲れたから一緒にご飯食べよう』とか、そういう意味です! もう、先生の分からず屋!」


ミーナはバッと袖を放すと、ぷんぷんと怒りながら先に店を出ていってしまった。 一人残された雄介は、ポカンと首をかしげる。


「? 俺、何か変なこと言ったか……?」


医師としての洞察力は鋭いものの、恋愛感情に関しては徹底的に疎い雄介であった。


◆


翌朝。


朝靄が明ける頃、雄介とミーナは完成した『AIZAWA skin beauty』の店舗前に立っていた。


磨き上げられたガラス窓、温かみのある木製のドア、そして美しく佇む『AIZAWA』の金文字の看板。 まだ看板の「営業中」の札は出していない。患者も一人も入っていないはずだった。


――だが。


店舗の外には、すでに何人もの女性たちがソワソワとした様子で集まっていた。


「ここよ、ここ! 『AIZAWA』って書いてあるわ!」


「まあ、なんて綺麗なお店……! いつから開くのかしら?」


「今日オープンだってミーナちゃんが言ってたわよ!」


開院を待ちわびる人々の囁き声が、朝日とともに届いてくる。


雄介はその光景を見つめ、それから頭上の看板を静かに仰ぎ見た。


(日本の過酷な病院を飛び出して……まさか異世界で、自分のクリニックを持つことになるなんてな)


感傷に浸っていると、隣に立ったミーナが、キュッと制服のスカートを整えて雄介を見上げた。


「先生」


「ん?」


「ふふ、明日から……ううん、今日から、すっごく忙しくなりそうですね!」


ミーナの眩しいほどの笑顔に、雄介もまた、フッと口元を緩めた。


「……ああ」


胸を張り、しっかりと前を見据える。


「それじゃあ――開院するか」


異世界初となる美容皮膚科クリニック『AIZAWA』の扉が、今、静かに開かれた。

こういう、内装とかメカニックとかが講釈を話しながらするシーンが結構好きです。

化粧品の名前考えてるひとってすごいですよね…。


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次回お会いしましょう!

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