表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
通報回数が経験値!? 全身黒タイツ(目出し帽)にならないと戦えない俺、不審者通報が多すぎて配信のアカウントが止まりそう  作者: 折若ちい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/19

第6話 【悲報】聖騎士様、不審者に撒かれる。そして伝説の『バール・ジャンプ』

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……! しつこい! あの女、しつこすぎるぞ!」


ポリ裏ダンジョンの地下二層。湿った空気とカビの臭いが立ち込める迷路のような通路を、俺は死に物狂いで走っていた。

 背後からは、規則正しい軍靴の音と、時折闇を切り裂く白銀の閃光。

 白金凛子が放つ突きの衝撃波が、俺の横の壁を容赦なく削り取っていく。


「止まりなさい! 逃げるということは、やはりやましいことがある証拠です!」


「やましいことしかない格好を強いてるのは世界の方だろうがぁ!」


俺は叫びながら角を曲がる。

 スマホの自撮り棒は、激しい上下運動で画面がブレまくっているが、マイクはしっかりと俺たちの怒号を拾っていた。

 コメント欄はもはや、スポーツ中継のような熱狂に包まれている。


『凛子ちゃんの全力疾走が見られるのは阿久津の配信だけ!』

『阿久津、足速すぎだろ。不審者ブーストか?』

『今ので壁壊れたぞwww殺す気満々じゃねーかwww』

『「やましいことしかない格好」←今日一番の正論』


「(クソッ、このままじゃジリ貧だ。身体能力は上がってるとはいえ、向こうは訓練を受けたプロの探索者。持久力が違いすぎる……!)」


脳内の『逃走経路の勘』が、激しく警報を鳴らしている。

 直進すれば行き止まり。右に曲がれば、さらに深い三層への階段。

 だが、三層はD級相当の魔物が徘徊する危険地帯だ。今の俺の「中の上」程度のステータスでは、魔物と凛子の板挟みになって詰む。


その時、視界の端に「あるもの」が映った。

 ダンジョンの構造上、不自然に空いた巨大な縦穴。

 かつて地殻変動か何かで崩落したらしい、直径十メートルほどの断崖絶壁だ。

 

「……これだ。これしかない!」


「逃げ場はありませんよ、不審者さん! 前方は行き止まりです!」


白金凛子が、勝利を確信したような声で追い上げてくる。

 彼女のレイピアが青白く輝き始めた。必殺の突進技の予備動作だ。


「白金さん! あんたに一つだけ言っておく!」


俺は崖の縁で急停止し、彼女の方を振り返った。

 目出し帽の穴から、精一杯の「ワルっぽい目つき」を向ける。


「俺は不審者だが……ただの不審者じゃない。**『飛べる不審者』**だ!」


「何を――」


俺はバールを両手で握りしめ、地面に思い切り突き立てた。

 それも、ただのバールではない。成金バールの『カツアゲ』で得たエネルギーを、一気に放出するイメージ。


「行けぇぇぇ! バール・ポゴ・ジャンプ!!」


黄金のバールが、物理法則を無視した反発力を生んだ。

 ドォォォン! という爆発音と共に、俺の身体が夜空に打ち上げられる花火のように、崖の向こう側へと飛翔する。


《新スキル派生を確認:『不法侵入(跳躍)』を獲得しました》


「スキル名が不名誉すぎるわ!!」


空中でバタバタと足を動かしながら、俺は崖の対岸にある細い足場へと着地……いや、激突した。

 

 ガシャーン!!


「痛っ……痛ってぇぇ……。けど、やったぞ!」


崖の下は深い闇。

 対岸に取り残された白金凛子が、目を見開いて立ち尽くしている。

 彼女の装備では、この距離を飛び越えることはできない。


「……信じられない。あんな不合理な動きで……」


「あばよ、聖騎士様! 次はもっとマシな格好の時に会おうぜ!」


俺は捨て台詞を残し、闇の奥へと消えた。

 実際には、足が震えてガクガクだったが、カメラの前では「余裕の逃亡者」を演じ切った。


十分後。

 俺はダンジョンの通気口を這いずり回り、ようやく警察署の裏門から遠く離れた住宅街の公園に脱出していた。

 

 深夜の公園。ベンチに腰掛け、目出し帽を脱ぎたい衝動を必死に抑える。

 まだスキルの「クールタイム」が終わっていない。今脱げば、謎の呪いで全身が痒くなるのだ。


「……はぁ。リスナーのみんな、生きてるか? 俺は死にそうだ」


スマホを確認する。

 同接は驚異の二万五千人。

 投げ銭の通知が止まらず、画面が虹色に光っている。


『伝説の第5話、完結』

『バール・ジャンプは歴史に残るwww』

『「飛べる不審者」とかいう新しいジャンル』

『阿久津、お前もうこれ立派な指名手配犯だぞ』


「指名手配って言うな! 正当な防衛行動だろ! ……あ、あぁ……見てくれ、今回の収益……」


管理画面を開くと、一晩で新卒の初任給を軽く超える金額が振り込まれていた。

 バール一本で、死に物狂いで警察から逃げ回った報酬。

 

「……これ、普通にコンビニでバイトするより稼げちゃうな」


それが、全ての始まりだった。

 まっとうな職に就きたかったはずの俺の人生が、ズルズルと「プロの不審者」へとスライドしていった瞬間。


『【悲報】阿久津、金の味を覚える』

『不審者からプロ不審者への昇格おめでとう』

『次回の配信タイトル予想「【検証】目出し帽を被ったまま高級レストランに入ったら何秒で通報されるか」』


「やらねえよ! ダンジョンから出たらただの通報対象なんだよ俺は!」


俺はスマホを切り、夜道を全速力で自宅へと走り出した。

 実家の押し入れ。そこだけが、今の俺にとって唯一の聖域セーフハウスだった。


だが、俺はまだ気づいていなかった。

 先ほどの白金凛子との戦闘で、俺の「成金バール」の先っちょに、彼女の髪留めが引っかかっていたことに。

 そしてそれが、ネット上で『不審者が聖騎士から戦利品を奪った!』という特大のデマとなって拡散されることになるなんてことを――。


「……なんか、背中が寒いんだよな。気のせいかな」


阿久津煉、二十歳。

 彼の「犯罪者予備軍」としての評価は、今日、確定的なものとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ