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通報回数が経験値!? 全身黒タイツ(目出し帽)にならないと戦えない俺、不審者通報が多すぎて配信のアカウントが止まりそう  作者: 折若ちい


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第24話 警視庁の受難、あるいは「正義」のゲシュタルト崩壊

警視庁本部、ダンジョン対策本部。

 普段は沈着冷静なエリートたちが集うその部屋は、今や崩壊寸前のパニックに包まれていた。


「……信じられん。我々のエース、白金凛子が……あの『目出し帽』と手を取り合って笑っているだと?」


モニターを見つめる対策本部長の額には、青筋がこれでもかというほど浮き出ていた。

 画面に映っているのは、国会議事堂ダンジョン第七階層。影の宰相を倒し、ボロボロになりながらも互いの健闘を称え合う不審者・阿久津煉と、警視庁の誇り・白金凛子の姿だ。


「報告します! 同接は現在85万人を突破! Twitter……いえ、Xでは『#不審者と聖騎士』が世界トレンド1位に居座り続けています! さらに、『白金凛子を公務執行妨害で逮捕しろ』という過激派と、『阿久津を次の総理に』という狂信的な支持層がネット上で全面戦争中です!」


オペレーターの悲鳴のような報告が響く。


「本部長! 官邸から直電です!『我が国の最高機密エリアを全裸に近い不審者に徘徊させるな』、そして『白金凛子の免職を検討しろ』と……あ、また別の回線から!『阿久津にカツアゲされた裏金のおかげで、うちの地元に橋が建つかもしれないから保護しろ』という地方議員からの陳情です!」


「黙れ! 一つずつ報告しろ!」


本部長は机を叩いた。彼にとって、この数時間は人生で最悪の悪夢だった。

 当初の作戦は完璧だったはずだ。不審者・阿久津が国会議事堂に侵入した瞬間、白金凛子を突入させ、鮮やかに彼を捕縛。その様子を「正義の勝利」としてライブ中継し、警察の権威を回復させる。


だが、現実はどうだ。

 ダンジョンの特殊ルールによって二人は「バディ」に固定され、あろうことか白金凛子は阿久津の「不審なカリスマ性」に毒され始めている。


「本部長……こちら、精神分析班のレポートです」


若手の分析官がおずおずと書類を差し出した。


「白金凛子隊員の精神状態ですが……『ストックホルム症候群』の変異種、あるいは『吊り橋効果』が重度化したものと思われます。彼女は今、阿久津の『社会的な枠組みに囚われない不法侵入(自由)』を、無意識下で『正義の救済』と誤認し始めている……要するに、不審者のことが好きで好きでたまらなくなっている可能性があります」


「そんなバカなことがあってたまるか! 彼女は代々警察官の家系だぞ! 幼少期から『不審者を見たらまず関節を極めろ』と教育されてきたはずだ!」


「ですが本部長、画面を見てください。彼女……阿久津に肩を触られて、少しだけ頬を染めて微笑んでいます。これ、我々の知る『氷の聖騎士』の顔ではありません」


モニターの中では、阿久津が「カツアゲした茶封筒」を凛子に差し出し、凛子が「没収ですわ(と言いつつ、阿久津の頭のゴミを払ってあげている)」という、新婚旅行のようなやり取りを繰り広げている。


「……終わった。警視庁の威信は、あの目出し帽にカツアゲされたんだ……」


本部長は力なく椅子に沈み込んだ。

 さらに追い打ちをかけるように、モニターの端に「ナイト・メア・プロモーション」のロゴが入ったヘリが映り込む。


「本部長、蛇喰エリカ社長からメッセージが届いています。『警察が彼を逮捕するなら、我々は全財産を投じて彼を弁護し、ついでに凛子ちゃんの移籍交渉も始めます』とのことです」


「あの女……火事場泥棒め……」


警察サイドにとって、今の阿久津はもはや「単なる不審者」ではない。

 国民の不満を背負い、永田町の闇を物理的に破壊し、警察のエースを骨抜きにした、史上最悪の『民意の象徴』へと変貌してしまったのだ。


「……全局に告ぐ。作戦を変更する」


本部長が重々しく顔を上げた。


「阿久津煉の逮捕は、ダンジョン攻略完了まで『延期』。現時点をもって、彼を『警察協力者』として暫定的に扱う。……屈辱だが、彼が最上階(10階)のボスを倒さない限り、このダンジョンは消えず、永田町は機能停止したままだ。……白金凛子には伝えろ。『そのまま、不審者を飼い慣らして攻略を続けろ』と」


「……本部長、それはつまり、警察が不審者を公式に認めるということですか?」


「違う! 『背に腹は代えられない』という閣議決定……ならぬ、警察決定だ!」


こうして、警察サイドは正式に(という名のヤケクソで)、不審者と聖騎士のバディをバックアップせざるを得なくなった。

 警視庁のモニター室には、諦めと、そして「もしかしたらこの二人が本当に日本を変えるのではないか」という、わずかな、そして極めて不審な期待が漂い始めていた。


「……よし、お前ら! 阿久津のスパチャを分析して、納税額を算出しておけ! 攻略が終わった瞬間に、追徴課税で全額カツアゲし返してやるんだ!」


「「はい! 本部長!!」」


警察の「正義」は、今、斜め上の方向へと加速し始めた。

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