第15話 不審者と聖騎士、魔議場(ダンジョン)に爆誕する
「……な、なんだよこれ。国会議事堂って、いつからこんなホラーハウスになったんだ!?」
正面扉を黄金のバールで強引にこじ開け、俺――阿久津煉が滑り込んだ先は、もはや日本の議事堂ではなかった。
かつての荘厳な花崗岩のロビーは、不気味な赤色に変色し、絨毯はまるで生き物のようにドクドクと脈動している。壁には真っ黒な粘液がこびりつき、そこから小さな金貨の形をした寄生虫たちが湧き出していた。
「リスナー……見てるか……。これ、俺がやったんじゃないぞ。入った瞬間にこうなってたんだ。俺はただの不審者であって、魔王じゃないからな!」
自撮り棒を固定したまま、俺はカメラに向かって必死に無実を訴える。だが、同接はすでに三十万人を突破。画面は「#国会議事堂に不審者」「#出すもん出せ永田町」の弾幕で埋め尽くされ、俺の言葉など誰も信じていない。
『【伝説】不審者、ついに国会議事堂をダンジョン化させる』
『バール一本で正面突破とか、前科三犯でも足りねーだろww』
『背景のドロドロがヤバすぎる。これマジの特殊個体ダンジョンだろ』
その時、俺の背後から凄まじい衝撃波と共に、白銀の光が飛び込んできた。
「そこまでです、阿久津煉!!」
白金凛子――多摩川の聖騎士が、抜身のレイピアを俺の喉元に突きつけて立っていた。
彼女の背後には、フル装備のダンジョン対策課機動部隊が続こうとしていた……が、次の瞬間、不可視の障壁が入り口に展開され、彼女以外の隊員たちが弾き飛ばされた。
「ぐあああっ!?」
「なっ、何事です!? 機動隊、突入しなさい!」
凛子が叫ぶが、障壁は微動だにしない。それどころか、議事堂全体が不気味に震え、機械的なシステム音声が議場内に響き渡った。
《エリア警告:特殊ダンジョン『永田町・魔議場』が完全閉鎖されました》
《本ダンジョンは全10階層。最上階の『本会議場』に最終ボスを確認》
《システム制限:本ダンジョンの攻略可能人数は「2名」に固定されます》
《入城条件:極致の「正義」と、救いようのない「不審(悪意)」の均衡が取れていること》
静寂が訪れる。
俺と凛子は、しばしの間、お互いの顔(俺は目出し帽だが)を見合わせた。
「……に、二名限定? しかも条件が『正義』と『不審』……?」
「……嘘でしょう? この私が、よりによってこの、歩く軽犯罪(予備軍)とペアを組まなければならないというのですか!?」
凛子の声が震えている。怒りか、屈辱か、あるいはその両方か。
だが、ダンジョンは待ってくれない。
ロビーの奥から、ジャラジャラと小銭を撒き散らす音が近づいてくる。
現れたのは、高級そうなスーツをボロボロに引き裂き、手には「領収書」の束を持ったアンデッドの群れ――『忖度・グール』だ。
「『……ザイゲン……ザイゲンヲ……ヨコセ……』」
「うわっ、こいつら目がガチのやつだ! 税金を吸い取られる時の俺と同じ目をしてやがる!」
「怯んでいる暇はありませんわ、阿久津! 来ます!」
凛子がレイピアを一閃。聖なる光がグールの一体を焼き切る。
しかし、敵の数は数百。入り口が封鎖された以上、上へ登るしか道はない。
「いいですか、阿久津。これは一時的な、あくまで戦術的な協力です! 貴方を逃さないため、そしてこの不浄なダンジョンを攻略するために、仕たがなしに、血反吐を吐く思いで……貴方の背中を預かります!」
「言い回しがいちいち重いんだよ! でも分かった。ここで捕まるのも、あのグールに税金(命)を吸われるのも御免だ。やるぞ、白金さん!」
俺は成金バールを逆手に構え、目出し帽のズレを直した。
スキル『国家転覆モード』が継続中だ。身体能力が未知の領域まで跳ね上がっている。
「リスナー! 見ての通り、不本意ながら『聖騎士と不審者』のバディ結成だ! 一階から十階まで、永田町の闇を全部カツアゲしてやるからな!!」
『不審者と聖騎士の共闘キターーー!!』
『全10階層とかボリューム凄すぎだろww』
『凛子ちゃんの嫌そうな顔と、阿久津のノリノリなバール捌きの温度差で風邪ひくわ』
『公式バディ名募集中:【逮捕一秒前】とかどうよ?』
「黙りなさいリスナー! 私は、私はただ、この男を物理的に拘束するために同行するだけですわ!!」
凛子の絶叫が、血肉と化した国会議事堂に響き渡る。
一階層:『ロビー活動の密林』。
黄金のバールと白銀のレイピア。
絶対に相容れないはずの二つの光が、日本の闇をこじ開けるために、重苦しい最初の一歩を踏み出した。
「行くわよ、阿久津! 遅れたら足首を突き刺しますわ!」
「あんたの正義感が一番怖いわ!!」




