表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
通報回数が経験値!? 全身黒タイツ(目出し帽)にならないと戦えない俺、不審者通報が多すぎて配信のアカウントが止まりそう  作者: 折若ちい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/13

第10話 裏社会のスカウト、あるいは不審者、事務所(オリ)に入れられそうになる

「……ふぅ、一仕事終えた後の空気は美味いな。埃と排気ガスの味がする」


歌舞伎町迷宮の一層。

 『ぼったくり・ゴブリン』と『強引なスカウト・ウルフ』の死体の山(ドロップ品になったので正確には消滅しているが)を背に、俺は成金バールで肩を叩いた。

 

 配信画面は、これまで見たこともないようなスピードでスパチャが飛び交っている。

 歌舞伎町という「悪意のメッカ」は、俺のスキルにとって最高のブースト環境だった。身体能力はもはや「上の下」、つまり並のB級冒険者なら圧倒できるレベルに達している。


『阿久津、動きがマジでヤクザのそれなんだよなぁ』

『バールの振り方が「骨を砕くための角度」で草』

『【速報】阿久津ニキ、歌舞伎町ダンジョンの時給が100万円を突破』

『警察が来ないのをいいことにやりたい放題でワロタ』


「リスナーのみんな、勘違いするなよ。俺はあくまで自衛と、正当なドロップ回収をしてるだけだ。ほら、このゴブリンが持ってた金時計も……あ、これロレ〇クスじゃなくてロレレックスだ。偽物かよ」


俺が偽ブランド時計を投げ捨てた、その時。

 ダンジョンの奥から、魔物の足音とは明らかに違う「洗練されたハイヒールの音」が響いてきた。


カツ、カツ、カツ……。


現れたのは、タイトな赤いドレスに身を包み、毛皮のコートを羽織った一人の女性だった。

 背後には、黒スーツにサングラスをかけた大男たちが二人。ダンジョン内だというのに、彼女の周囲だけ高級クラブのような香水の匂いが漂っている。


「……あら、写真で見るよりずっと『不審』ね。素晴らしいわ、その目出し帽の質感」


「……誰だ、あんた。俺、今『カツアゲ』のクールタイム中なんだ。用がないなら帰ってくれ」


俺は警戒してバールを構え直す。

 スキル『逃走経路の勘』が、彼女ではなく「後ろの黒スーツ」に対して激しいアラートを出していた。……こいつら、ガチの戦闘職エージェントだ。


「挨拶が遅れたわね。私は蛇喰じゃばみエリカ。この歌舞伎町迷宮の興行権を握るライバー事務所『ナイト・メア・プロモーション』の社長よ」


『うわ、ナイト・メアじゃん!』

『「炎上こそが最高のスパイス」がモットーの極悪事務所www』

『阿久津、逃げろ! そこに入ったら人生終わるぞ!』


コメント欄が騒がしくなる。

 ナイト・メア・プロモーション。

 所属ライバーにわざとスキャンダルを起こさせたり、ダンジョン内で禁忌とされる薬物(ステータス上昇薬)を使わせたりして、過激な配信で稼ぐ、業界でも有名な「裏の事務所」だ。


「……事務所? 俺は個人勢だ。どこにも所属する気はない」


「そう硬いこと言わないで。貴方、今のままだと遅かれ早かれ『白金凛子』に首を獲られるわよ? 彼女の正義感は執念深いわ。でも、うちに入れば話は別。警察の内部にだっているのよ、私たちの『お友達』が。貴方の前科(予定)を消すことくらい、造作もないわ」


蛇喰エリカは、真っ赤な口紅の隙間から妖艶な笑みを漏らした。

 

「……それに、貴方のそのスキル。不審者であればあるほど強くなるんですってね? だったら、私たちがもっと『輝ける不審者の舞台』を用意してあげる。例えば……国会議事堂の前で全裸でバールを振り回すとか、どうかしら?」


「断るわ! 羞恥心で死ぬわ!!」


俺は即答した。

 不審者ではあるが、俺にはまだ、人間としての最低限のラインが残っている。

 国会議事堂の前で全裸は、もはやスキルの発動条件を超えて「社会的な死」だ。


「残念ね。……交渉が決裂したなら、力ずくで判を押してもらうしかないわ。やって頂戴」


蛇喰が指を鳴らす。

 背後の黒スーツ二人が、一瞬で姿を消した。


「(速い……ッ!?)」


『逃走経路の勘』が、俺の死角を真っ赤に染める。

 俺は反射的にバールを後ろに突き出した。

 

 ガキィィィン!!


凄まじい衝撃。黒スーツの一人が、ナイフではなく「特殊な警棒」で俺のバールを受け止めていた。

 もう一人が、俺の首筋を狙って手刀を振り下ろす。


「出すもん、出せやぁぁ!!」


俺はヤケクソでアビリティ『威圧』を最大出力で放出した。

 

 ――ズゥゥゥン!

 

 目出し帽の奥から放たれた、煮詰まったような不審者の殺気。

 一瞬だけ、黒スーツたちの動きが止まった。

 

「今だ! 新奥義……『不法侵入(壁走り)』!!」


俺はダンジョンの垂直な壁を重力を無視して駆け上がり、天井の排気ダクトへと飛び込んだ。

 

「……あら、逃がした? でもいいわ。彼の配信タグに、もう『ナイト・メアのターゲット』というマークを付けたもの。これで彼は、他の事務所からも、警察からも、そしてうちのハンターからも追われる身よ」


 蛇喰エリカは楽しそうにスマホを操作する。

 

一方、俺はダクトの中を必死に這いずり回っていた。

 

「はぁ、はぁ……歌舞伎町、怖すぎるだろ! 警察の白金さんの方がまだ話が通じるレベルじゃないか!」


スマホを確認すると、同接は驚異の五万人。

 さらに、画面の下に見たこともない『指名手配マーク』が表示されている。

 

『【警告】このライバーは闇ギルドの懸賞金対象です』


「懸賞金!? 俺の首に金がかかったのか!? いくらだ!?」


『現在:5,000,000円』


「……安っ!! 俺の命、成金バールより安いのかよ!!」


絶望に打ちひしがれる俺の耳に、再びパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 それも、一台や二台じゃない。

 ダンジョンの入り口を、数十台の警察車両が包囲している音が、地上から響いてくる。


「……まさか、白金さんか? いや、この数は異常だ」


俺は恐る恐る、ダクトの隙間から外の様子を伺った。

 そこには、白銀の鎧を纏った白金凛子が、拡声器を持って立っていた。

 だが、その隣には、武装した特務機関のような部隊まで控えている。


「阿久津煉! 貴方に緊急の『重要参考人』として同行を求めます! 今すぐ出てきなさい! 今なら、ナイト・メアの魔の手から守ってあげられなくもありませんわ!」


「(守る(物理的な独房へ)って意味だろ!!)」


裏社会のスカウト、執念深い聖騎士、そして全国の賞金稼ぎ。

 

 阿久津煉、二十歳。

 ついに、彼の「不審者配信」は、国を揺るがす大騒動へと発展しつつあった。


「……あー、リスナーのみんな。今日の配信の最後、これだけは言わせてくれ」


俺は震える手でカメラを固定し、目出し帽の泥を拭った。


「目出し帽の替え、Amazonで10枚セット頼んどいて良かったぜ……。じゃあな、また地獄で会おう!」


俺はバールを握りしめ、警察と闇ギルドが待ち構える地上へと、真っ逆さまに飛び降りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ