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第38話 餅つき1

 冒険者ギルド内の酒場。俺は最近大きな買い物(蜂蜜酒)をしたので、その分を補充する為に依頼をこなし、達成内容の査定を食事をしながら待っているところだ。


 飾り気の無い頑丈なだけが取り柄のような木製の机の上に分厚いステーキが鎮座する。ナイフで一口サイズに切り分け口へ放り込む。


「……ふむ。いつもの牛肉の味。何の目新しさも感じないことが、料理が上手くいっている証拠だ」

「こんな所でなに気取っているんですか」


 まったり食事を楽しんでいる俺の背後に黒い影が。

 振り返ると呆れたような顔をしたマナが突っ立っていた。


「ふと美食家ごっこがしたくなってな」

「どれだけお酒飲んだらそんなことになるんですか?」

「今日はまだ飲んでないぞ」

「人生楽しそうですね」


 マナは道端に落ちているゴミを見たような表情で机に報酬の入った革袋を置いた。

 俺はすぐに革袋の中身を確認する。金貨7枚と他少々で(37万円くらい)だ。


「大金貨10枚には届かないなぁ」

「何か買うんですか?」

「むしろ買った後だ。使った分くらいは稼いでおこうかな、と」

「……もしかしてこの前くれた蜂蜜酒ですか?」


 マナが恐る恐る聞いて来た。

 貰った物がとんでもなく高価な物だったのかと驚いているのだろう。


「そうとも言えるし違うと言えば違う」

「なんですか、それ」

「この前渡した蜂蜜酒と同じ物を大瓶で買ってたんだよ」


 マナが「なんの為に?」と首を傾げる。

 飲むために決まってんだろ。そんなに高い物を俺が自分で飲む為に買うとは露ほども考えていないようだ。ギルド内の酒場で飲んでる姿ばかり見ているせいだろう。ここは安酒しか置いてないからな。


「自分で飲む為に決まってるだろ」

「味分かるんですか?」

「誰に言っているんだ。俺はこの町でも有数の食通と自負してる」

「それジンさんが自分で言っているだけじゃないですか」


 俺の冗談にマナは肩をすくめて答えた。


「まあ、蜂蜜酒はこの町では縁起物ですし偶になら高い物も良いと思いますよ。ジンさんその分稼いでますし」

「縁起物?」

「え、知らなかったんですか? 新年の定番で皆飲んでますよね」


 初耳である。改めて思い返すとこれまでの俺は、この世界の行事などを意識することが少なかった。そのうえ町の隣にあるダンジョン内では春夏秋冬が1年中存在しているせいで、どうしても季節感がおかしくなってくるのだ。


「そう言えばジンさんはこの町の生まれではなかったですね。蜂蜜酒はこの町の創設者である迷宮公が好きだったから祝い事で皆飲むようになったらしいですよ」

「へえ~。俺の地元も祝い事で酒ってのは定番の1つだったが、蜂蜜酒は聞かないな。」


 祝い事の定番? 酒以外だとぱっと思い付くのは赤飯とかケーキかな。新年に限定するとおせちや餅だ。ケーキは最近生クリームを利用することが多いから懐かしいという感覚がないが、赤飯やおせち、餅なんかは随分ご無沙汰だ。


「なんか無性に餅が食いたくなってきた」

「モチ? ジンさんの故郷の食べ物ですよね。甘味ですか? 美味しいんですか?」

「甘い物もある。美味しいかどうかという質問にはこう答えよう。()()ろん!」

「親父ギャグぅ」


 そういうつもりじゃない。たまたまだ。


「しかし餅つきするなら結構大掛かりなんだよなあ」


 やれなくはないと思うが、機械もないし人力でやることになる。朧げなイメージとしては1人でやるものではない。杵を使う人ともう1人が手で餅を折り返すようにしてたよな、多分。


 バッと勢いよくマナが右手を上げた。


「はいっ、新たな甘味が食べられるなら手伝いますっ!」


 マナはやる気に満ち溢れている。

 甘味が関わった時のマナは常にフルスロットルだ。餅つきを実際にやるとなったら間違いなく有言実行手伝ってくれるだろう。しかし問題は残っている。


「マナって普段料理とかしてる?」


 俺の質問にマナの視線はすぅーと斜め上に移動した。どこか遠いところを見ているような表情だ。


「甘味の為ならどんな困難にも立ち向かって見せます」

「期待したら駄目なやつだな。これは」

「やる気はあります」


 気持ちだけでなんとかなったら世の中簡単なんだよ。


「本当に出来る?」

「で、出来ま、す」

「出来ねえ奴の反応なんだよ」


 流石にマナも自覚があるようで反論は続かない。

 俺自身餅つきに関しては知識が曖昧なので、協力者に料理経験が無いのは不安だ。フォロー出来ないぞ。


「んー、じゃあお母さんに手伝ってもらいましょうか」

「はいっ、賛成っ!」


 今度は俺が先程のマナのように右手を勢いよく上げた。


「やっぱ無しで」

「なんでっ!?」

「なにやら邪なものを感じたので」


 マナは俺に胡乱な目を向けている。


「いやいや戦力としてありがたいって話だ」

「ほんとですかぁ?」

()()ろん!」


 マナは大きな溜息を吐きながら首を横に振った。

 ぼく悪い冒険者じゃないよ。ちょっと一般的な冒険者に比べて、ギルドから受けたペナルティが多いだけの平凡な冒険者だよ。


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