二人の希望
そうして時間が流れ幸希と戦う数日前の日に、まで飛ぶ。私はザドキエルに聞いた。
「本当にこの世界は消えなければいけないのか?」
愚問だった。
私とは、そのためだけにいる存在なのだから。
その目的がなければ私はいない。
だから私は、撤回しようと口を開こうとしたところ――
「本当に……その通りですね」
と、ザドキエルは言った。
「私は神により創られ、その使いとして存在していました。でも、この世界が滅びようとしている。それに気づき、神は私をこの世界に送りました。
送られた私は三和田浴衣という人物と接触、その人物の記録の抹消を行いました。と言っても、その人の要望で、ただ一人だけ、消してはいなかったのですが……。
私は、三和田浴衣にこの世界を救ってもらう救世主になってもらおうとしました。私や神では、絶望の影響からか、長くこの世界に干渉することはできなかったのが原因です。そして、その救世主として生まれたのが、世界を良き方向へと導き、幸せという希望で満たす……世良幸希という人物です」
私は突然語りだしたザドキエルに、困惑を隠しきれなかった。なぜなら、今ザドキエルが言っていることは、私の存在とは正反対のことをしているからだった。
「そんな私ですが、世良幸希という存在を創るとき、問題が起きてしまいました。絶望が彼を蝕もうとしたのです。実際、三和田浴衣は相当不条理な理由で大切な人たちを失いました。絶望に魅入られるには、器としては十分でしょう。
それに、記憶は消しているから、あなたと同じような状態。しかも、元から世界にあった存在を利用しているため、一から創られるより簡単でかつ強い存在になる」
「私の目的は世界を救うことです。ですから、幸希様を取られるわけにはいかなかった。追い払うことはできましたが、それをしていると、創りかえることはできない。私には時間は多く残されていない。
そこで、私は絶望を自分の体に引き寄せたのです。それなら、同時にすることができましたから」
「でも、おかげで私は自分が望まずとも、絶望へと変わった。後戻りのできないところまで、私は染まってしまった。今は、絶望の望むこと、この衝動に逆らうことはできません」
神の使い……天使のザドキエルが堕点した。……アザゼル。私は頭の中でそう思った。そこから先、私はアザゼルと呼ぶようになった。
「だからあなたがこの世界の存続を願うなら、私と一緒にやってほしいことがあるのです。それは、一緒に悪役になってほしいということです」
「悪役?」
「はい。最後まで自分は悪で倒すべき存在だと、幸希様にはそう振る舞ってほしいのです」
「そこにどんな意味があるのだ?」
「今現在、幸希様は絶望へと向かっています。それは自身の性格から人を幸せにしていくことができないとなり、記憶を消した結果のようです。しかし、このままでは世界は滅んでしまいます。ですから、その記憶を思い出していただき、自分の使命を全うしてもらおうというわけです」
「でも、これはかけです。なんせ、思い出した後の選択は、幸希様にかかっていますから。それが裏目に出ることも考えられはします」
(裏目……記憶を認めないということか。それなら何となくわかる。私自身、記憶を思い出すたびに自分が絶望でなければと思うから)
「また、幸希様はこの先、世界を救うにしても、滅ぼすにしても、私たちと戦うことになるでしょう。その時、私たちが敵として対立しなかったとき、きっと悲しい別れになってしまいます。特に、あなたとは……。
敵として倒すことで、未練なく別れるようにしたいのです」
「私たちは、自分からこの世界から消えることはできない。私たちがこの世界から消えるには、この世界には幸希様に倒してもらうことくらいしか方法はありません」
私たちは同じ、絶望に支配されていた。それはいわば、欲求。その塊。
さらにそれは、すべてが同じ欲求。それを果たすまでは、自分から消えることを望むことはできない。
まして、仲間同士で戦うこともできはしない。
けど、自分で考えることはできる。『そういう風』になっていた。
「わかった……私はお前に従おう」
それしかないのならそれに従うだけ。
でも、このタイミングで……私が自分の使命に疑問を抱いたところで、この話をしたということは……。
「なぁ……お前はまさか、私に普通の生活というものをさせることで、この世界は滅ぶべきでないと、気づかせたくて学校の教師なんてさせたんじゃ」
「ええ、その通りです」
「ということは、誠の偽物も……」
「彼は駄目ですね。彼はあなたより、もっと後の、絶望がもっと濃い時期に生まれた存在ですから」
「だがそうすると、今の作戦は失敗するのではないか?」
「いえ……たぶん大丈夫です。あの性格なら、自分から敵側に回りそうですし。なにより幸希様が負けるとは思えませんし……」
あいつとは分かり合えなかった。それは同じ者として、少しだけ悲しかった。
「……なぁ、一つ聞いて言いか?」
「なんでしょう?」
「何故、世良……三和田浴衣を選んだ?」
そう聞くとアザゼルはきょとんとした顔をすると、ふっと笑い、
「それは、あなたならわかっていることなんじゃないんですか」
と、そう答えた。
「……ああ、確かにな」
そして私も、その理由がすぐにわかって、ふっと笑った。




