『俺』という存在
「簡単な二択だ。ここでオレを殺して世界も滅ぶか。オレが世界を滅ぼすかのな」
「あはは……いきなり結論。しかも、大きくでたね……」
「というか、それ結果が同じじゃないですか!」
二人のお姉さんという感じのやつらがそう反応する。
誠もため息をつくと同時に、呟く。
「どっちも滅ぶとか、最悪の選択肢だな、おい」
「そうさ。何も変わらない。お前たちがここに来て、そうしてしようとしていることは、所詮、何も変わらないことなんだよ」
そうとも知らずに、お前たちはここに来たんだろう?
連はオレを救うとか言っていたが、できるはずがない。
いや、できたとしても、この世界は……。
「そんなことないよ」
そこで否定するように連が声をあげる。
「まだ、道はある」
「道だと? どんな道があるというんだ?」
もうどこにもない。
この世界は滅ぶのを待つだけだ。
「君が救う道だよ」
……やはり、それを言うか。
「君の最初の目的はこの世界を救うことだった。なら、君はこの世界を救えるだけの力を持っているってことだよね?」
「つまりは、お前を説得して世界を救わせればいいってことか……」
「オレがするとでも?」
いや、それ以前に今のオレにはもうその『力』はない。少しなら残っているが、これだけでは世界は救えないだろう。
たとえ三択になっても変わりはしない。終わりは結局絶望。滅びるんだ。
「全然思ってないよ。だって私の知る幸希は、そんなこと面倒だとか言ってスルーしそうだもん」
しかし、流菜とか呼ばれていたやつは、さも平然とした風にそう答えた。そこに天見が付け足す。
「それに、君は勘違いしているよ」
(勘違いだと?)
後から入ってきた4人がそれぞれ口を開く。
「あたしたちがここに来た理由。最初に言ったでしょ? あんたを殺すためとかじゃない」
「私たちは、幸希君を連れ出しに来た」
「何を悩んでいるのか私はわかりませんが……微力ながらも力は貸します」
「オレたちが望んでいること。それは幸希と一緒にいることなんだよ。だから、オレたちと一緒に……笑ってくれ」
オレは茫然とする。……笑ってくれだと?
今までの話を聞いていたのか? 馬鹿か?
「……そんなことをして何の意味がある」
理解できない……。さっき、連と誠が言ったように、オレに世界を救うようにと言ってくるのならわかる。
けど、オレが救わないとわかっていて、そして意味のないことをしようとしているなんて。
「ゆか……ううん。幸希君。今のわたしたちにとって、世界を救うとか滅びるとかは、この際どうでもいい問題なんだよ。それよりもわたしたちは……」
そこで言葉を区切り、連はオレのほうに歩いてくる。今度は途中で止めることはなかった。
そして、連はオレに手を差し伸べ、言った。
「君と一緒にいたいんだ」
……何故だ。
何故、そう思う。
今は世界が滅ぶかどうかの瀬戸際だというのに。
もっと必死になれよ。
どうして、笑っていれるんだ。
もう、諦めて、壊れでもしたか?
そうでないなら……どうして。
「君は、迷っているんだよね。この手を取っていいのか。だってそれは、君にとって幸せなことだから」
幸せなこと……。
そうだ。ここで認めれば、オレは満たされる。
こいつらにオレの存在を認めてもらい、オレも受け入れれば――。
この目の前にある手には人の温もりがある。
誰かと一緒にいること――。
その幸せを理解できる。
でも……でもオレは……!
『俺は幸せになれない……か』
!? なんだ? これは……いつの記憶だ?
『俺には……無理かもしれないな。だって俺は……』
『人が幸せならそれだけで、幸せに思えてしまうもんな』
『うん……自分で自分の記憶を消そう。この、世界を救うために、一番邪魔な心を』
馬鹿な……。
つまり『俺』は、ずっと最初から世界を救うつもりでいたというのか?
なんだよそれ……。
だって、そうだとすれば、今の『オレ』こそ――
偽物ってことじゃないか……。
オレは世良幸希でさえない。
つまり、『自分』なんてどこにもなかった。
……は……ははは……はははははははははははははは!!
もう……いい。
今のオレが偽物ならオレはこの体さえ、もういらない。
だってオレは、『三和田浴衣』でも『世良幸希』でもない。
オレの居場所はどこにもない。
オレの感じているものすべてが、偽りだ。
いや、考えること自体おかしいのか?
オレが何をしたところで、そいつらが本当でオレは嘘。そこに変わりがあるか?
『お前の存在は偽りだったとしても、オレは深内詩を知っている。偽りの偽りだといったお前をオレは知っている。オレにとってはそれこそが真実なんだ。そしてお前に関わった他の奴らにとっても。お前自身の、そのために生きていた時のな』
そうだ。自分でも言った。
偽りでも真実になれる。
こいつらは、そのオレを知らない。
この偽りのオレしか。
だったら、それでいいじゃないか。
このままこいつらに身を任せれば……。
オレは手を伸ばし、その手を――
パシッ
「え?」
払った。




