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最寄駅からニュータウンを通り、小高い丘陵地帯を、ひたすら歩く。
直行バスもあるが、1時間に1本しかない。
学生たちを待つ丘の上、タイル張りの建物こそ大介らの通う大学。
都古大学―3学部7学科を持つ、考古学、歴史学の方面では、そこそこ名の知れた学校である。
正門を抜け、ロータリーのある入口へ差し掛かると、1台の軽自動車が大介たちを抜き去り、駐車場へ入った。
「あれ、要先輩じゃないか?」と釘宮。
エンジンの切られた薄ピンクのスズキ ラパンから出てきた女性。
要夕陽―史学科3年、弓道部副主将でもある。
後部座席からカバンを取り出し、ロングヘアーを軽くかき上げて、3人の元へ向かう。
「おはよう。ちょっと吉村君、またタバコ?」
手にしていた1カートンのタバコを見て、彼女は言った。
「文句なら、買ってきた本人に言いな」
吉村は、箱を自分のカバンにしまった。
「素っ気ないわね。
そういえば、亜門君。イタリアに行ってきたんだって?」
「ええ・・・あれ?先輩に話してましたっけ?」
「彼女から聞いたのよ。
あれ?まだ来てないの?」
「車が無いのなら、来てないんじゃないんですか?」
そう、この大学は条件付きで、生徒の車通学を許可している。
しかし、そこには暗黙のルールが存在する。
2年生以下は、車通学は禁止。
無論、クラブ等での掟だったが、いつしか学内全体に広まった。
そんな中、1人の女生徒が、このルールを破った。
クラブ幹部たちは、その女生徒に対し、弓道で対決し勝利したら、車通学を認めるとし、その相手を、県大会1位の記録を持つ要がしたのだ。
結果は、全員の予想を破った。
要が負けたのだ。
この話は、大学の伝説になっている。
そして、この女生徒が・・・
「来たようだ」
正門入口の坂を上がり、走ってきた白の日産 フェアレディZ Z33。
駐車場に停まり、ドアが開いて、彼女は現れた。
その清楚な黒髪ショートを振り上げて。
姉ケ崎あやめ―心理学科生で大介の幼なじみ。
さらに加えるなら、彼女の家は神社で、自らも巫女として手伝っている。
弓道も、その時の祭司のために覚えたのだ。
「大介、久しぶり!元気にしてた?」
「時差ボケがな、まだ尾を引いていて・・・」
「夏バテの間違いじゃないの?」
「あ、土産あげないぞ」
「ケチー!」
この明朗快活さから、あやめは夏バテは起こしていないと、大介は見た。
すると彼女は、大介のペンダントに目を行かせた。
「そのペンダント・・・」
「え?ああ、向こうで知り合った、ある人からもらった物でね」
「ふーん・・・女の子?」
図星。
「あ、まあ、向こうの売店の売り子だよ。
そうだ、その時に、このお土産を買ったんだ」
大介は、土産のスノードームを手渡す。
「なかなか綺麗ね」
「だろ?選んだカイがあったぜ」
しかし、大介は、彼女が自分のカバンにしまう際、彼女が言った一言をとらえた。
「まさか、彼女が?」
すると、釘宮が誰かを見つけたらしく、手を振った。
「おーい、ピエール!」
「その呼び方、やめてくれるか?嫌いじゃないが」
半井快斗-化学科生。
実験や授業などで、片眼鏡を使うため、誰が言ったか
「まるで、ヨーロッパの貴族みたい」
故にピエールたるあだ名がついた。
「おう、大介。
大丈夫だったか、ローマ?」
「ああ、ナヴォナ広場の。
その前に、広場に言ってたんだがな―――」
大介は、ローマでの出来事について、歩きながら話し始めた。
無論、あの大冒険抜きで。