動き出す針
私がどれほどこの日を待ち望んだか。
父を越えたかった。
幼い頃からの夢が、父を越えることだった。
父は実に多彩な人間だった。 数学、物理学、工学、計算機科学、化学、生物学、社会学、経済学、政治学、心理学などあらゆる分野に長け、我が国に於いて、世界の科学者として数々の優秀な成績を残した。私はそんな父を幼い頃から心から尊敬していたが、私が幼い頃に母を亡くし父の手一つで育てられたことも手伝ってか、成長するにつれ、父への尊敬は「この科学者を越えたい」という思いに変わっていった。
某私立大学で機械工学の教授をしていた父は、中学生の私に機械工学の基礎を教えてくれた。そしていつだったか一緒に簡単なロボットを作ったのだが、当時中学生だった私はそれに大変感銘を受け、以来「機械工学という分野で父を越えたい」と考えるようになった。私は父を越えようと父に教わったことだけでなく、独学で勉強もしたし、自分でロボットなども作るようになった。
しかし――――私が越えようとしていた壁は、いとも簡単に崩れ去った。
放射性物質のいじり過ぎ。それが享年46歳でこの世を去った天才の死因だった。 骨肉腫による死は彼の暗算をもってしても予期できなかったのだろうか。私が18歳、高校3年生の冬のことだった。研究で死ぬとは父らしい最期だな、と笑ったのを覚えている。不思議と涙は出なかったが、越えようとしていた父という壁がなくなった私の視界には、もはや何も残ってなかった。
高校3年生だった私はその後工学系の大学に入りあらゆる機械工学の云々を身につけた。全ては私を超える生命を誕生させるために。
そして今日、私は私を超える生命を誕生させることに成功した。世界誌で取り上げられた。世界的なビッグニュースになり、世界中の科学者を唸らせた。私の発明で、我が国は大きく動いたようだ。憲法を改訂し、他国と戦争をはじめるようだ。私の発明を武器に。
明日から私の発明は海を渡るらしい。行き先は、古く我が国を抑圧してきた北米の国。
私の発明で世界が動く。
私がどれほどこの日を待ち望んだか。
もし父が生きていたなら、私は彼を今日で越えていただろう。




