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07 楓と文弥の悲哀

挿絵(By みてみん)


南無右衛門は考えた。

しかし、いくら考えても、いい方法は思いつかない。

「こうなったら、月若を連れて、逃げられるところまで逃げるしかない」

そう決めた南無右衛門は、刀を手に取り、奥の部屋にいる月若を迎えに行こうとした。


ところが、その途中で妙なものを見つけた。

文弥が財布の中から、たくさんの小判を取り出して数えているのだ。

「文弥。その金は、いったい何だ?」

南無右衛門が尋ねると、文弥はしどろもどろになり、どうにも辻褄の合わない言い訳を始めた。

南無右衛門がさらに問い詰めると、文弥はついに白状した。

「旅の途中で、旅籠から盗んだ金だ」

それを聞いた南無右衛門は、驚きと怒りで文弥を叱りつけた。

ところが文弥は、悪びれるどころか、開き直って言い返した。

「こんな貧乏な家に生まれたら、出世なんかできない。金を使って官位を買って、楽をして暮らすんだ」

その言葉を聞いた南無右衛門は、怒り狂った。

「そんなことを言うなら、勘当だ! 今すぐ家から出ていけ!」

そう言って、文弥を蹴飛ばした。

すると文弥は、蹴られながらも平然と言った。

「こんな家、勘当されて願ったり叶ったりだ。もう長居は無用だ」


南無右衛門は、文弥は素直に育ってくれたものだと、ずっと思っていた。

それなのに、今の言葉を聞いて、自分が騙されていたと思った。


怒りはさらに激しくなり、南無右衛門はもう一度、文弥を蹴った。

蹴られた文弥も負けてはいない。

「蹴りやがったな。くたばれ、このクソ親父!」

南無右衛門が蹴る。

文弥が悪たれをつく。

それを何度も繰り返した。

そしてとうとう、南無右衛門は堪えきれなくなった。

手にしていた刀を抜き、文弥を切りつけた。


「やめてください!」

耐えかねた磯菜が、二人の間に割って入った。

「あの金は、盗んだ金ではありません!」

そう言って、磯菜は本当のことを話し始めた。


「あの金は、楓が自分から身を売って手に入れた金なのです」


実は、楓も自分で「百蟹図」の行方を探していた。

そして最近になって、ある画商が「百蟹図」を手に入れたことを知ったのだ。

楓が画商に問い合わせると、値段は百両。

とても自分で稼げるような金額ではなかった。

そこで楓は、身を売ることを決意し、女衒のもとを訪ねた。


ところが、腹に蛇が巻き付いていることを正直に女衒に話すと、

「それでは、うちでは買えない」

と断られてしまった。

しかし女衒は、こう教えてくれた。

「知り合いの見せ物小屋なら、買ってくれるかもしれない」


紹介された見せ物小屋を楓が訪ねると、主人は楓を大変気に入った。

そして、

「百両で買おう」

と言った。

こうして楓が手に入れた百両が、文弥の財布に入っていた金だった。


それを聞いた南無右衛門は、その金が盗んだものではないことをようやく理解した。

しかし、まだ一つ疑問が残る。

「それなら、なぜ文弥は盗んだふりなどしたんだ?」

磯菜は、静かに答えた。


眼平の手下に、月若の首を差し出す約束をしたことを、文弥は知っていた。

そこで文弥は気づいた。

月若と自分は、ちょうど同じくらいの年齢だ。

自分が月若の身代わりになろう。


しかし、そんなことを南無右衛門に頼んでも、父親が自分を殺してくれるとは思えない。

それがたとえ、若君を助けるためだとしてもだ。


そこで文弥は、楓の百両を自分が盗んだことにすればいいと考えた。

そうすれば、怒り狂った父親が自分を殺してくれる。

文弥は、そこまで考えていたのだった。


すべてを聞いた南無右衛門は、慌てて文弥を抱き寄せた。

「文弥……!」


だが、南無右衛門が与えてしまった傷は、思っていたよりも深かった。

文弥は、すでに虫の息だった。

それでも文弥は、最後の力を振り絞って言った。

「最後に……自分が習った琵琶を、みんなに聞かせたい」

南無右衛門は、文弥に琵琶を渡した。


文弥は最後の力を振り絞って、琵琶を弾いた。

家族のために習ったその音色を響かせた。

途切れ途切れに鳴る琵琶の音。

それは、悲しくも、例えようもないほど美しいものだった。

南無右衛門、磯菜、楓、そこにいるみんなが肩を震わせて泣いた。

そして文弥は、静かに力尽き、息を引き取った。

とても穏やかな表情で。


南無右衛門は、文弥の首を月若の首だと偽り、眼平の手下に渡した。

こうして、月若を救うことができた。


さらに、楓が身を売って作った百両を画商に渡し、「百蟹図」も手に入れた。

二つの問題を、南無右衛門は同時に解決した。

しかし、その胸に喜びはなかった。


南無右衛門には、文弥を失った悲しみに暮れている暇もなかった。

彼は、月若を磯菜とともに寺へ預けることにした。

そして自分は、月若の母親である銀杏の前を探すため、再び旅へ出るのだった。


眼平の手下によって連れ去られた銀杏の前は、今どこにいるのだろうか?


ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

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