04 妖鼠で呪詛される月若
三八郎――後に「南無右衛門」と呼ばれることになる男が藤波を殺した、その翌日のこと。
藤波殺害の騒ぎで大混乱となっていた桂之助のもとへ、国元から不破道犬が訪ねてきた。
突然の来訪に、桂之助は慌てて道犬を出迎えた。
すると道犬は、いきなり重い話を切り出した。
「父の貞国様は、桂之助殿を勘当なさいました」
桂之助は、思わず言葉を失った。
道犬は続ける。
「白拍子を妾にし、昼も夜も遊び暮らしたあげく、御所へのお勤めまでおろそかにしている桂之助殿の振る舞いが、官僚職の浜名入道様の耳にも入ったようです」
桂之助の顔が青ざめる。
「このままでは、佐々木家そのものが取り潰されることになりかねません」
額に冷や汗が滲む。
「それを避けるための、貞国様の苦渋の決断なのです」
そう言われてしまえば、桂之助には返す言葉もなかった。
こうして桂之助は、佐々木家を追い出されることになった。
しかし――。
実は、この一連の出来事は、すべて道犬が仕組んだことだった。
そもそも、
息子の伴左衛門を通じて桂之助に藤波を紹介し、
藤波との遊びに夢中になるよう仕向けたのも、
伴左衛門とその仲間たちだった。
そして伴左衛門は、桂之助が何をしているのか、その様子を逐一父親の道犬に報告していたのである。
もっとも、道犬にとって思いがけない誤算もあった。
伴左衛門自身が藤波に横恋慕してしまったこと。
そして、雲六が「百蟹の図」を盗んで逃げてしまったことだ。
この二つは、さすがの道犬も予想していなかった。
こうして桂之助がいなくなった国元では、まだ幼い月若が貞国の後継者となった。
しかし、月若はまだ幼すぎる。
とても一人で政務を取り仕切ることなどできない。
そこで月若と母親の銀杏の前は、平群の下屋敷へ移されることになった。
そして二人の守り役として、名古屋三郎左衛門と、その息子の山三郎が付けられた。
山三郎、そう、遊び呆ける桂之助に向かって忠告をした男だ。
その結果、国元に追い返され、貞国の館に戻っていたのだ。
ところが、ここで新たな企みが動き始める。
貞国の後妻である蜘手の方は、この機会を利用して月若まで失脚させ、
自分の子である花形丸を貞国の後継者にしようと考えたのである。
そして、その企みに裏から手を貸していたのが、執権の不破道犬だった。
蜘手の方は、頼豪院という修験者に金を渡し、月若に呪いをかけるよう頼んだ。
すると、恐ろしいことが起こり始めた。
夜になると、月若の眠る寝室に、数十匹もの鼠が列をなして現れるようになったのだ。
それと時を同じくして、月若も病に倒れてしまった。
鼠の数は日を追うごとに増えていった。
昼も夜も部屋の中を這い回り、月若の髪をむしり、肌にまで食らいつく。
あまりにも異様な光景だった。
これを見た三郎左衛門と山三郎は、
「これは、ただ事ではない。呪詛ではないか」
と考えた。
そこで山三郎は、ある夜、月若の寝室に身を潜め、鼠たちの様子を見張ることにした。
すると――。
現れたのは、なんと犬ほどもある巨大な鼠だった。
「こいつか!」
山三郎はすかさず手裏剣を投げた。
手裏剣は、見事に巨大な鼠の額へ突き刺さった。
すると、鼠の体から白い煙が立ち上った。
煙が晴れたあとに立っていたのは、なんと頼豪院だった。
頼豪院は呪文を唱えると、妖しい力で嵐を呼び起こし、さらに数十匹もの鼠を呼び寄せた。
あまりの妖力に、山三郎は身動きが取れなくなってしまう。
その隙に、頼豪院は逃げ去ってしまった。
しかし、山三郎の手裏剣が与えた傷は深かった。
そのため頼豪院の妖力も、その後は次第に弱っていった。
やがて月若の病も少しずつ回復し、どうにか一命を取り留めることができた。
ところが、蜘手の方はこれくらいのことで諦める女ではなかった。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。




