03 妖蛇に取り憑かれた楓
やがて三八郎一家は、丹波の国、大江山の麓に身を隠して暮らすようになった。
三八郎は畑を耕し、妻の磯菜は藺筵を作って生計を立てた。
藺筵とは、イグサの茎を織って作った敷物のことである。
三八郎は、毎日の畑仕事の合間にも、数珠を片時も手放さなかった。
自分の手で命を奪ってしまった藤波を弔うため、ひたすら念仏を唱え続けたのである。
その姿を見た近所の人々は、いつしか三八郎のことを「六字南無右衛門」と呼ぶようになった。
「六字」というのは、「南無阿弥陀仏」の六文字から来ている。
やがて南無右衛門は、自分が「百蟹の図」を盗んだという濡れ衣を着せられていることを知った。
「このままでは終われない。『百蟹の図』を見つけ出して、何としても汚名を晴らさなければ……」
南無右衛門は、そう決心した。
それだけではない。
不破道犬が桂之助を陥れようとしているという噂も、どうしても気になった。
そこで南無右衛門は、ときどき顔を隠して大和の国や都へ出向き、そこで何が起きているのかを探るようになった。
だが、どれほど南無右衛門が念仏を唱えても、藤波の怨霊は一家を放ってはおかなかった。
息子の栗太郎が疱瘡にかかったり、妻の磯菜が病に倒れたりと、次々に災いが一家を襲った。
それでも南無右衛門たちは、家族で力を合わせ、なんとか苦難を乗り越えようとしていた。
そんなある日のこと。
南無右衛門は、畑で一匹の蛇が蛙を食べようとしているところを見つけた。
蛙がかわいそうになった南無右衛門は、冗談半分に蛇へ声をかけた。
「おい、蛇よ。その蛙を逃がしてくれたら、お前に俺の娘をやるぞ」
もちろん、本気でそんな約束をしたわけではない。
ところが――。
蛇は南無右衛門の言葉を聞いたかのように、蛙を襲うのをやめた。
それからしばらく経った、ある夜のことだった。
楓が突然、高熱を出して苦しみ始めた。
「楓!」
南無右衛門と磯菜は驚いて、楓の布団をめくった。
すると――。
なんと楓の腹に、一匹の大蛇が巻きついていた。
「これは……!」
南無右衛門は必死になって蛇を取り除こうとした。
しかし、いくら力を込めても蛇は離れない。
仕方なく無理やり引き剥がして殺しても、何日かすると、また別の蛇が楓の腹に巻きついている。
そんなことが何度も繰り返された。
最初のうちは蛇を怖がっていた楓も、いつしかその蛇に慣れ、やがて親しみさえ感じるようになった。
食事の時間になると、腹を空かせて懐から顔を出す蛇に、餌まで与えるようになったのである。
ところが、そんなある日のことだった。
蛇の吐いた毒が、栗太郎の目に入ってしまった。
そのため、栗太郎は失明してしまう。
南無右衛門と磯菜は、我が子の将来を考えた。
そして栗太郎の髪を剃り、名前を文弥と改めると、名高い琵琶法師の弟子にすることにした。
こうして不幸に見舞われ続ける南無右衛門一家。
しかしその頃、大和の国の佐々木貞国の館では、桂之助が勘当されたことを受けて、ある事件が起きようとしていた――
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