↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

02 藤波、怨霊と化す

挿絵(By みてみん)


 桂之助の家臣に、佐々良三八郎(ささら・さんぱちろう)という男がいた。

 三八郎は忠義心の強い男で、主人である桂之助のことを心から案じていた。

 だからこそ、最近の桂之助が藤波に夢中になり、昼も夜も遊び暮らしている姿を見ているのがつらかった。

 「このままでは、殿は駄目になってしまう……」

 そう思い悩んだ三八郎は、とうとう恐ろしい決心をする。

 藤波を殺し、自分も腹を切って果てれば、桂之助も目を覚ますのではないか。

 そんなことまで考えてしまったのだ。


 そして、桜の花びらが風に舞う、春の嵐の夜。

 三八郎は桂之助の屋敷に忍び込んだ。

 その夜、宴を終えた藤波が廊下を歩いているところを見つけると、三八郎はためらいながらも刀を抜いた。

 そして――藤波を斬り殺してしまった。


 屋敷から逃げ出す途中、三八郎は藤波の妹、於竜(おりゅう)と出くわした。

 しかし、於竜まで傷つけるつもりはなかった。

 三八郎は刀の峰で於竜を打ち、その場を立ち去った。

 「これで、俺も死ななければ……」

 三八郎は自分も腹を切ろうとした。


 ところが、その時ふと、ある噂を思い出した。

 かつて桂之助から追放された不破伴左衛門。

 その父親である執権・道犬が、桂之助を陥れようとしているという噂だった。

 もし桂之助の身に何か起こったら――。

 そのときは、道犬と刺し違えてでも桂之助を守らなければならない。

 そう考えた三八郎は、死ぬのをしばらく思いとどまることにした。


 ところが、この夜の騒ぎに乗じて、別の事件まで起きていた。

 長谷部の雲六という家臣が、佐々木家の家宝である「百蟹の図」を盗み出し、そのまま逃げてしまったのである。

 そのため人々は、

 「三八郎と雲六は仲間だったのではないか」

 と考えた。

 そして、三八郎と雲六が共謀して、藤波を殺し、「百蟹の図」を盗んだのだという、とんでもない疑いをかけられることになった。


 三八郎には、妻の磯菜(いそな)、娘の楓、息子の栗太郎という家族がいた。

 三八郎は、家族四人で国を捨てて逃げることにした。


 その夜は、激しい風雨だった。

 その荒れ狂う夜道を三八郎一家が逃げていると、突然、一家の前に藤波の怨霊が姿を現した。

 「藤波……!」

 怨霊は一家の行く手を阻む。

 必死に逃げる三八郎たち。

 その時。

 藤波の怨霊から、二つの火の玉が飛び出した。

 火の玉は、楓と栗太郎の体へとすうっと忍び込んだ。


 三八郎一家は何とか藤波の怨霊から逃れ、ようやく一息ついた。

 すると今度は、榎の木の下で、首をくくろうとしている女を見つけた。

 「待て!」

 三八郎は慌てて女を引き止めた。

 そして、なぜ死のうとしているのかを尋ねた。

 女は、涙ながらに事情を話し始めた。


 女の家は以前から金に困っており、家宝の品を二十両で質に入れていた。

 ところがその日、夫がなんとか二十両を工面してきた。

 「これで、ようやく家宝を取り戻せる」

 そう思った女は、二十両を持って質屋へ向かった。

 ところが、その途中で強盗に襲われてしまった。

 せっかく夫が工面してくれた二十両も、すべて奪われてしまったのである。

 「こうなってしまったら……もう、死んで夫に詫びるしかありません」

 女はそう言った。


 その話を聞いた三八郎は、しばらく黙っていた。

 そして、懐から二十両を取り出すと、女に差し出した。

 「これを使いなさい」

 女は驚いた。


 三八郎がそんなことをしたのは、女を不憫に思ったからだけではない。

 自分が何の罪もない藤波を殺してしまったことへの、せめてもの罪滅ぼし――そんな思いもあった。

 女は涙を流しながら、

 「あなたのお名前は……?」

 と尋ねた。

 しかし、三八郎は自分の名を明かさなかった。

 そのまま女を残し、静かにその場を立ち去った。


ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。