「逆襲の咆哮」
7話目を飛ばして8話目をアップしてました。
なので、この回が7話目→8話目に移動してます
「……っ、この野郎!!」
翔太は再びレンチを振り下ろしたが、怪物はハサミの刃でそれを軽々と受け止めた。キィィィィン、という耳を劈く金属音が響く。
怪物は、翔太の目を見つめながら、歪んだ声で囁いた。
「……ニゲラレ、ナイ……」
陽菜は半狂乱になりながら、車の中から叫び返した。
「 翔太、車の鍵はどこ!? 乗って逃げよう!!」
「ダメだ! 俺の車はガス欠なんだ、動かない!!」
翔太は必死に周囲を見渡した。雨の中に沈む、暗闇の道路。
「陽菜、あそこを見ろ! 少し後ろにある白い軽自動車だ! たぶん、キーはついているはずだ!!」
距離にして二十メートル。その間には死神が立ちはだかっている。
「俺が引きつける! 陽菜、お前だけでも行け!!」
翔太はレンチを握り直し、渾身の力で怪物の胴体へと突進した。
「行けぇぇぇ!! 走れ、陽菜!!」
陽菜は、翔太のスマホを右手に固く握りしめ、ドアを蹴り開けて外へ飛び出した。
冷たい雨が全身を叩く。泥を跳ね上げながら、必死に白い軽自動車へと走り出す。
耳元のスマホからは、オペレーターの声が途切れ途切れに響いていた。
『もしもし!? 状況はどうなりましたか!? 応答してください! パトカーがまもなく……!』
「今、走ってます……! 彼が、彼が戦ってるんです!」
陽菜は叫び、軽自動車のドアへと辿り着いた。――開いた。キーは刺さったままだ。
陽菜がキーを回す。ドォン、という爆発音と共にエンジンが目覚めた。
バックミラーを見る。
そこには、怪物の巨大な手によって道路に叩きつけられ、もがき苦しむ翔太の姿があった。
「……ショウ……タ……」
怪物は動けない翔太を見下ろし、止めを刺そうとその巨大なハサミを高く振り上げた。
その瞬間、陽菜の頭の中で何かが切れた。
恐怖が消えたわけではない。ただ、翔太を失うことだけは、死ぬことよりも許せなかった。
「……ふざけんなよ、化け物!!」
陽菜はシフトレバーを激しく叩き込み、ハンドルを力一杯切った。
キュルキュルッ、とタイヤがアスファルトを噛み、軽自動車がその場で激しくUターンする。
ヘッドライトの光軸が、翔太に迫る怪物の背中を真っ直ぐに捉えた。
「死ねええええええええ!!」
陽菜は、右足に全ての体重をのせてアクセルを底まで踏み抜いた。
エンジンが悲鳴のような咆哮を上げ、白い軽自動車は雨のカーテンを突き破って、怪物めがけて一直線に加速した。
スマホの向こうで、警察官が叫んでいる。
『もしもし! 何が起きてるんですか!?』
衝撃に備え、陽菜はハンドルを離さず歯を食いしばる。
迫りくる黒いロングコートの背中。
――夜明け前の峠道に、タイヤがアスファルトを削る猛烈な音が響き渡った。
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