「細い回線」
このエピーソード7を飛ばし、エピーソード8をアップしてしまいました。
なので、エピーソード7にあった話はエピーソード8に移動して。このエピーソード7の細い回線が割り込みアップしてます。
叩きつける雨の中、二人の男が対峙していた。
一人は、泥にまみれ、震える手で重いレンチを握りしめた瀬戸翔太。
もう一人は、九月の闇に溶け込む黒いロングコートを纏い、巨大な裁断バサミを提げた「何か」。
「……来いよ。来いよ、化け物!!」
翔太は叫んだ。恐怖を打ち消すための咆哮だった。だが、目の前の怪物は微動だにしない。帽子の影から覗く眼光が、翔太の喉元を冷酷に射抜いている。
背後にある乗用車の中では、陽菜がパニックの極致にいた。
「警察……警察……っ!」
震える手で自分のバッグをかき回すが、あるはずの感触がない。
「嘘……自分の車に置いてきた……?」
あまりの恐怖に、自分の車から飛び出す際にスマホを座席に放り出したままだったことに、今さら気づいたのだ。目の前では、翔太が命懸けで化け物を引きつけている。
絶望が喉元までせり上がったその時、ダッシュボードのホルダーに刺さったままのスマホが視界に入った。
翔太のスマホだ。
陽菜はひったくるようにそれを手に取り、画面を叩いた。
「お願い、かかって!」
だが、画面には非情な『パスコード入力』の文字。翔太の誕生日は知っている。だが、指が震えて正確な数字が打てない。入力ミス。焦りが涙となって溢れる。
その時、画面下部の小さな文字が目に飛び込んできた。
『緊急通報』
陽菜は迷わずそこを押し、一分一秒を争う思いで三つの数字を打ち込んだ。
数回の呼び出し音。それは永遠のように長く感じられた。
『はい、警察です。事件ですか、事故ですか?』
冷静なオペレーターの声が聞こえた瞬間、陽菜は崩れ落ちるように叫んだ。
「助けて! 国道一五二号線……峠のあたりです! 事故があって、変な……大きな男が襲ってきてて、彼氏が、彼氏が殺される!!」
支離滅裂な叫び。だが、オペレーターの声は動じなかった。
『落ち着いてください。現在位置はGPSで確認しました。パトカーを向かわせます。そのまま、通話は切らずに状況を教えてください』
「早く……早く来てください!!」
陽菜はドアを僅かに開き、外の翔太に向かって絶叫した。
「翔太! 警察に電話した! もうすぐパトカーが来るって!!」
その声を聞いた翔太の顔に、一瞬だけ生気が戻った。
だが、怪物は“パトカー”という言葉に反応したわけではなかった。彼は、陽菜の“声”が車内から聞こえてきたことに興味を示したようだった。
怪物は、翔太が振り回すレンチを歯牙にもかけず、一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
「させるかよ!!」
翔太は捨て身でレンチを振り回したが、怪物はそれを僅かな首の動きだけで避けた。
翔太は後ずさり、背中に鈍い衝撃を感じた。
――ドンッ。
陽菜の車のボディだった。もう、後ろには引けない。
怪物の右脚が、鞭のようにしなった。
翔太は反射的に横へ飛び退く。
次の瞬間、空気を切り裂く轟音と共に、怪物の蹴りが陽菜の車へと叩き込まれた。
――ガドォォォォンッ!!
鉄板が無惨にひしゃげ、車体全体が大きく揺れる。
怪物は、逃げた翔太を追うよりも先に、じっと足元の車体を見下ろした。そして、手に持った巨大なハサミを、無造作にタイヤへと突き立てた。
プシュゥゥゥ……ッ!!
激しい排気音と共に、車体が傾く。
逃走手段が、一つ消えた。
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