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「収穫の終わり」

最終話、全12エピーソードです。


初めてのホラー作品でした。

 ――ゴロゴロ……。

 遠くで鳴り響く雷鳴が、祭りの終わりを告げる弔鐘のように聞こえた。


 道路に這いつくばる翔太の視界には、一足の重いブーツが映っていた。マスクの巨漢が、返り血を浴びた大斧を無造作に引き摺りながら、一歩ずつ近づいてくる。


「……あ、……逃げ……」

 翔太が震える指を伸ばしたその時だった。


 ――ドシュッ!!

 鈍い音と共に、鋼鉄の刃が翔太の背中に深々と突き立てられた。


 肺から空気が押し出され、叫び声すら上がらない。マスクの奥から漏れる「フシュー……」という重い吐息。

 マスクの男は、抵抗する力を失った翔太の襟首を掴み、ゴミでも扱うかのように、広げられた麻袋の中へとその身体を押し込んだ。


 その光景が、凍りついていた陽菜の精神を強引に現実へと引き戻した。

 コートの怪物の巨大な手に首を掴まれ、宙に浮いた状態で、彼女は見てしまった。


 袋の口が閉じられ、翔太という存在が、ただの「肉の塊」として積み上げられる瞬間を。


「……ぁ……ああああああああああ!!」

 陽菜の喉から、裂けんばかりの絶叫が迸った。


 だが、その叫びを拾う者は、この山道には誰もいない。

 コートの怪物は、もがく陽菜をじっと見つめ、喉をゴロリと鳴らした。

「……ヒ……ナ……」

 つい先ほどまで愛していた男の声。その完璧な模倣が、陽菜の絶望をさらに深い闇へと突き落とす。


 怪物は自由な方の手で、巨大なハサミを陽菜の喉元に添えた。

「……シ……ネ……」

 死の宣告。陽菜が覚悟を決めて目を閉じた。


 その時だった。

「待て。それは壊すな」

 パトカーの影から、小太りのスーツの男が静かに歩み寄ってきた。


 彼は血に汚れた現場には不釣り合いなほど冷静に、怪物たちに命じた。

「そいつは“彼”が気に入ったようだ。連れていくぞ」

 斧を肩に担いだマスクの大男が、陽菜を食い入るように見つめている。マスクの隙間から漏れる湿った呼吸が、陽菜の頬を撫でた。


 コートの怪物は無機質に手を放し、陽菜は道路に崩れ落ちた。


 陽菜は、生きながらにして死を願った。だが、彼女に許されたのは、さらなる地獄の続きだった。


 マスクの男が陽菜を軽々と抱え上げ、トラックの荷台へと放り込む。そこには、血に濡れた無数の麻袋が、不気味に蠢きながら積み重なっていた。

 

 マスクの男も荷台に乗る。

 そして――

 バタン、と重厚な扉が閉じられ、外の世界が断絶される。


 暗闇の中で、陽菜はただ、自分を呼ぶ“翔太の声”がどこから聞こえてくるのかを、震えながら探し続けるしかなかった。


 夜明け前。

 雨は依然として降り続いていた。激しい濁流がアスファルトの血を洗い流し、全ての硝煙を霧の中へと溶かしていく。


 数時間後。

 通報を受けて駆けつけた別のパトカーが発見したのは、無残に大破し、主を失った数台の車両だけだった。


 現場には凄まじい破壊の痕跡があったが、そこにあるべき遺体は、髪の毛一筋すら残されていなかった。


 パトカーの車載カメラのデータは、磁気嵐による故障か、あるいは高度な技術による干渉か、その全てが消失していた。


 その後の警察による懸命な捜査も、厚い壁に阻まれることになる。


 殉職した警官二名。

 瀬戸翔太を含む、一般人男性三名。

 そして、陽菜を含む、女性二名。

 合計七名の人間が、一夜にしてこの峠道から“蒸発”した。


 彼らがどこへ運ばれ、どのような最期を迎えたのか。あるいは、まだ“続いている”のか。


 事件は真相に辿り着くことなく、未解決のまま風化していく。


 ただ、雨の降る深夜、国道一五二号線を通るドライバーたちの間で、一つの奇妙な噂だけが囁かれるようになった。


『誰もいないはずの山道で、自分の名前を呼ぶ、声が聞こえる――』


 降り止まぬ雨の中、全ては闇の向こうへと消えていった。


(完)



最後まで読んで頂きありがとうございました。


私からのお願い。


もしも気にいってもらえたら


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