エピローグ「二週間後の着信」
あの夜から、二週間が経っていた。
ニュースはすでに沈静化している。
国道の事故、行方不明者、殉職した警官。
どれも断片的な情報だけが流れ、やがて話題は別の事件に塗り替えられていった。
——まるで、最初から何もなかったかのように。
夜。
ワンルームの部屋で、絵理はスマートフォンを見つめていた。
「……陽菜、ほんとにどこ行ったのよ」
親友の失踪。
警察は「捜索中」としか言わない。
だが、二週間も経って手がかりゼロなんて、あり得るのか。
既読もつかないトーク画面。
最後のメッセージは——
『待ってて。今行くから』
その一文のまま、止まっている。
「……バカ」
小さく呟いた、その時だった。
——ピリリリリ……
着信音。
画面に表示された名前を見て、絵理は息を呑んだ。
『陽菜』
「……え?」
指が震える。
一瞬、出るべきか迷った。
だが——
震える指で、通話ボタンを押した。
「……もしもし?」
数秒の無音。
やがて——
『……絵理?』
聞き慣れた声だった。
少し鼻にかかった、あの声。
間違いなく、陽菜。
「陽菜!? どこにいるの!? 今まで——」
『……来てくれる?』
言葉を遮るように、陽菜が囁いた。
その声は、どこか不自然だった。
抑揚が、少ない。
呼吸が、混じらない。
まるで——
録音された声を、無理やり再生しているような。
「……え?」
『すぐ、来て』
プツッ。
通話が切れた。
耳に残る、無機質な電子音。
絵理はしばらく、その場から動けなかった。
だが、次の瞬間——
彼女は立ち上がっていた。
「……待ってて、今行くから」
あの日、陽菜が残した言葉と同じように。
同じ頃。
別の場所で。
隆史はコンビニの駐車場でタバコを吸っていた。
「翔太のやつ……マジでどこ行ったんだよ」
軽く笑いながら吐き出した煙は、すぐに夜に溶けた。
その時——
ポケットの中で、スマートフォンが震えた。
画面を見る。
表示された名前に、眉をひそめる。
『翔太』
「……は?」
思わず笑った。
「今さらかよ」
軽いノリで、通話ボタンを押す。
「おーい翔太、どこほっつき歩いて——」
『……隆史』
低く、掠れた声。
一瞬で、笑いが消えた。
聞き慣れた声のはずなのに。
どこかが——おかしい。
『……今、どこだ?』
間がある。
不自然な“溜め”。
「……なんだよ、お前」
『……迎えに行く』
その一言だけを残して、通話は切れた。
隆史はスマホを見つめたまま、固まっていた。
背後の暗闇から、風が吹いた気がした。
深夜。
人気のない道路。
ヘッドライトの届かない闇の中。
そこに、一台の古びた大型トラックが停まっている。
荷台の中。
無数の麻袋が、静かに揺れていた。
その中から、かすかに声が漏れる。
「……えり……」
「……たかし……」
それは、確かに人間の声だった。
だが——
その声は、一つではない。
何人もの声が重なり合い、歪み、混ざり合いながら、
“次の名前”を探している。
トラックの運転席。
黒い影が、静かにハンドルを握る。
そして——
喉が、ゆっくりと鳴った。
「……ツギ……」
雨が、再び降り出す。
夜はまだ、終わらない。
『ミッドナイト・デッドライン 〜死の境界線〜』
——終わらない。
ホラー映画なら、続編とか、その前の話とか作りたいのです。
ここまで読んで頂きありがとうございました。




