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「希望の埋葬」

12エピーソードで、最終話です。


4月25日か4月26日の夜には最終話アップします。

 ――ゴロゴロゴロ……ッドォォォォン!!

 空を真っ二つに引き裂くような激しい雷鳴が轟いた。


 一瞬、峠道が昼間のような白光に包まれる。陽菜に向かって歩いていたロングコートの怪物は、その光に射抜かれたように足を止めた。後方から響くサイレンの音。赤く明滅する光が、峠の向こうから確実に近づいている。


 怪物はゆっくりと、サイレンの鳴る方へと首を巡らせた。

 しかし、それは「逃亡」を意味する動きではなかった。怪物は再び視線を前方――道路を這う翔太の方へと戻した。標的を変えたのだ。邪魔な女は後回しにし、まずは動けない獲物から確実に仕留める。そう決めたかのような、無機質な方向転換。


 ――カツン、カツン……。


 再び雷が鳴り、雨足がさらに激しさを増した。時折光る稲妻が、近づいてくる黒い巨体を鮮明に浮かび上がらせる。水浸しのコート、返り血で汚れたハサミ、そして帽子の影から覗く、あの爛々と輝く非人間的な眼光。


 翔太は足の激痛も忘れ、ただ死の恐怖に身を震わせることしかできなかった。

 その時だった。放置された大型トラックの向こう側から、目も眩むような鮮烈な赤い光が差し込んだ。


「パトカー……!」

 軽自動車の中から陽菜が叫んだ。


 パトカーは、停車している大型トラックの横を通り過ぎ、ミニバンのすぐ近くで急停車した。

 ドアが勢いよく開く。

 雨の中に飛び出してきたのは、二人の警察官だった。

「警察だ! 全員動くな!!」

 二人は即座に拳銃を抜き放ち、翔太に迫る怪物へと銃口を向けた。


「助かった……本当に、助かったんだ……」

 翔太は泥の中に顔を伏せ、嗚咽を漏らした。


 警察官が来た。銃を持っている。これであの化け物も終わりだ。


 だが、雷鳴が重なり、互いの声すら聞き取れないほどの轟音が山道を満たしていた。


「止まれ! 武器を捨てろ!!」

 中年の警官が叫ぶが、怪物はその制止を完全に無視した。ハサミを鳴らし、翔太との距離を詰め続ける。

「止まれと言っているんだ! 撃つぞ!!」

 若い巡査が震える指をトリガーにかけた。


 ――カッ!!

 再び稲妻が走り、世界が白く染まる。

 若い巡査が発砲しようとしたその瞬間、隣の中年警官がその腕を掴んで制止した。

「待て! 射線に生存者がいる! その後ろの車にも当たるぞ!!」


 怪物の前方には翔太が倒れ、そのすぐ後ろには陽菜の軽自動車がある。この雨と暗闇の中では、弾丸がどこへ飛ぶか分からない。警察官としての正当防衛の判断が、コンマ数秒の遅れを生んだ。


 そして、その空白の時間に、もう一度だけ空が光った。


 翔太は、見てしまった。

 警察官たちの背後。道を塞いで停まっていた、あの大型トラック。

 その重い観音開きの荷台のドアが、内側からゆっくりと押し開けられるのを。


 暗い荷台の中から、一人の男が静かに降り立った。

 コートの怪物と同じく、二メートルはあろうかという巨躯。しかし、その姿はさらに異質だった。


 着古され、あちこちが裂けたボロボロの作業服。首には重々しい鉄のチェーンが幾重にも巻き付けられ、濡れた長髪が顔を覆っている。その隙間から覗くのは、皮と鉄を継ぎ合わせたような不気味なマスクだ。

 そして、その手が握っているのはハサミではない。

 鈍く光る、巨大な**「両刃の斧」**だった。


「……う、そだろ……」

 翔太の呟きは、激しい雨音にかき消された。


 警官たちが対峙しているロングコートの怪物。しかし、二人の警官の後ろに、**「二人目の処刑人」**が降り立ったのだ。


 陽菜もルームミラーで後方を見ていた……そして、息を呑む。もう、恐怖で声すら出ない。


 二人の警察官は、雷雨が激しくまだ背後の気配に気づいていない。銃口は、翔太の前に立つハサミの怪物に向けられたままだ。


 チェーンをジャラリと鳴らし、マスクの男がアスファルトの上を一歩踏み出す。

 その巨体に似合わぬ俊敏さで、男は大斧を肩に担ぎ直し、警察官たちの無防備な背中へと肉薄し始めた。

 雷鳴が全てをかき消す中、処刑人のマスクの奥で、粘りつくような重い吐息が漏れた。


私からのお願い。


もしも気にいってもらえたら


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