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「なあ、今回のリメイク。結構力入れる予定なんだ」
「知ってるよ。初のVRだっけ?初代もずいぶん緊迫感あったけど、それをどれくらいリアルに体験できるんだろうね」
「ストーリーも大幅に変えていくから、結構別物になるかもな」
「デバックも雇っているのに、私たちもテストプレイさせてくれるんだ」
「そりゃ二人は、初代の時からずっとやっててくれただろう?あの頃なんか、ほとんど素人の作品だったのに」
「あの頃から面白かったよ。銃じゃなく魔法ってのが個人的には好きだな。私は、やるなら火の魔法がいい。強くてかっこいいもの」
「じゃあ私は水がいい。ゾンビに噛まれてもゾンビ化せずに済むもん」
「火と水ね。なら、二人がテストプレイで使うキャラはその属性にしようかな」
ダミアンが噛まれた腕は利き腕ではないものの、剣を使うには不安があった。もともと彼の剣の技量は、貴族の男子としては嗜み程度のものだ。
「すみません」
申し訳なさそうに謝られたが、そもそもはリーガンを庇って負った怪我なので責める気はない。
「無理しないで、エスターたちと合流したおかげで、それほど苦労せずに済みそうよ」
任せろと言わんばかりにエスターが、彼女の魔法媒体である腕輪を掲げてみせ、フレッドは大きく頷いて見せた。アナベルも何も言わないが、人形を抱きしめてこちらを見ている。
「それに、ダミアン様の風魔法なら、いざという時リーガン様と協力して爆発を起こせます」
風と火の魔法の組み合わせで、爆発を起こすことができる。相手がゾンビやゼノなら、最も有効な魔法となるだろう。
「水と土は、便利だけどここでは不利なんですよね」
水と土の組み合わせで生まれるのは毒である。対人間なら強力な魔法となるが、既に命を失っているゾンビ相手では、あまり効力がない。ゼノに対しても、致死量がわからない以上、効果にあまり期待はかけられない。
「でも、エスター嬢の魔法で僕は助かりましたがね」
浄化の魔法により、ダミアンはゾンビ化せずに済んだ。エスターが高位の水魔法の使い手であったこと、負傷したダミアンと再会できたタイミングと、幸運がいくつも重なり合って彼は助かったのだ。
「それより、そろそろ移動しましょう」
フレッドはそう言うと、静かにドアを開け、辺りを見回した。振り返り、小さく頷く。ここから先は、不用意に口を開けない。ゾンビたちは音でも反応するのだ。
フレッドの横をアナベルがランタンを手に歩き、後ろにダミアンとリーガン、エスターの順で歩いた。
遠くから誰かの呻き声が聞こえてくる。それが、生きている者のなのか、死んでいる者のなのかはわからなかったが。
図書館は二階にある。この学園の図書館は大きく、蔵書量も国内有数であり、エスターのお気に入りだった。
だから、入り口のドア――重厚な造りの、シックな木製のドア――が破壊されていたことに、彼女は何とも言えない寂しげな表情を見せた。ドアについている血の色は、既に乾いて茶色になってしまっている。中、もしくはこの付近で何が起こったのかは、考えるまでもない。
フレッドが緊張した顔で剣を抜いた。何者かの息遣いを感じたのだ。
図書館の中は灯りがともっていた。今日は卒業式なので多くの生徒や関係者はあのパーティー会場にいたが、図書館は開いていたのだ。今日を終えると新学期まで学園は休みなので、しばらく閉鎖する図書館で大掃除が行われていたはずだ。その後、学園は寄宿舎以外しばらく封鎖される予定だった。
(確か、生徒会室に入るためのエンブレムは、禁書の中に紛れているのだっけ)
リーガンが顔を上げると、フレッドが迷うことなく禁書コーナーに向かっているのが見えた。
が、すぐに彼は立ち止まり、隣のアナベルの動きを制し、一同を振り返った。その鋭い瞳に、近くに何かがいるのだと、リーガンは悟った。
音が聞こえる。
何かを削るような音だった。しかし、それは削るものではなく、齧るものだと、リーガンは既に知っている。
そっと静かに近づくと、その音はさらに大きくなった。ついで、何かが弾けるような音。汁気をたっぷり含んだトマトを齧れば、聞こえてきそうな、水っぽい音。
物音すら立てずに、フレッドが剣を振った。何かを潰すような不快な音と共に、大きな球状のものが床に転がった。それが、誰かの首だと、みんなわかっていた。既に何度も見ているからだ。
フレッドは先を進もうと一歩前に出て、一瞬躊躇した。後ろを振り返り、リーガンたちを意味ありげに見ている。
(何かしら)
隣のエスターと思わず顔を見合わせたが、すぐに気を取り直して先に進む彼の後ろをついて、さっきの視線の意味することが分かった。
「……うっ」
隣のエスターが思わず口元を抑え、無意識だろう、リーガンの腕を掴んだ。
そこには男性の死体が転がっていた。ただの死体じゃない、凄まじい死体だ。至る所を齧られ、噛みちぎられ、顔なんか、目以外の肉のほとんどを食べられてしまっている。
魚は頬肉が一番旨いと聞いたことがあるな、と素晴らしく思い出したくもなかった知識が脳裏をよぎった。それにしても、眼球をきっちり避けるあたり、ひょっとすると、眼球はゾンビにとってあまり食指が動かない部位なのかもしれない。とにかく、その哀れな誰かの目と、リーガンの目が合い、彼女は顔を逸らそうとした。しかしできなかった。その目が、ぎょろりと動いたからだ。
ゾンビに噛まれ死んだ者は、自らもゾンビとなる。
こんな姿になっても、なおもゾンビとなり動こうとしたわけだ。しかし、動くことはできない。なぜなら、足のほとんどが食いちぎられているからだ。
一瞬火魔法を使って燃やしてやった方がいいのだろうかと思ったが、ここは図書館だ。不用意に火魔法を使ってしまい、万が一ここにある大量の本に引火してしまったら、とんでもないことになる。
その時、ダミアンがそっと指さした。横たわるそのゾンビが着ている服は、この学園の職員のものだ。
(司書さんだ……!)
エスターは悲鳴を上げかけたが、声帯すらも凍り付いていたのか、空気が通る短い音しか、その口からは飛び出なかった。図書館に入り浸りだった彼女は、彼には相当お世話になっていた。
「うう……」
罪悪感に苛まれつつも、小さくうめくその人を置いて、一同は再び歩き出した。エスターは未だリーガンの腕を掴んでいた。その頬は涙で濡れており、リーガンは何も言わずに彼女の手を握りしめた。手から伝わる暖かさは、彼女が生きている証拠だった。それが、少しだけ救いだった。




