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ホラーゲームですから!  作者: うばたま
第四章 錯綜する記憶
34/45

 「で、どこまで進んだ?」

 「まだ序盤しかやってないわ。最初のゾンビを倒しただけ。あ、そういえば火属性は確かに倒しやすいわ」

 「もう!そっちじゃないわよ。この前二人で飲んでたんでしょ。その時何か言われなかった?ほら、何か」

 「そ、それはその……。な、何でそう思うの?」

 「そりゃわかるわよ。でもその反応ってことは。やっぱり何かあったんだ。何があった?」

 「……好きだって言われた」

 「やっと!やっとか!あ、すみませーんビールください。ああ、これで、私もヤキモキしなくて済むわあ。気分いいから手羽先とからあげも頼もうっと。あ、あとぼんじりも」

 「どんだけ鶏肉好きなのよ。ああ、でも返事はまだしてない」

 「はあ!?何で。まさかとは思うけど、振ったの?」

 「……いきなりだったし。次に会う時に返事するって言った」

 「なんでそうなるのかね。まあ、次に会う時って、明日じゃん。じゃあ明日決まるのか。付き合うんでしょ?」

 「……うん」



 何だって自分は、顔中血まみれのゾンビと対峙しながら、どことなくこそばゆい会話を思い出さなければいけないのか。しかも、その会話は自分のものというにはいささか語弊がある。

 「リーガン!こいつはバブ化したゾンビです。気を付けて!」

 ダミアンがそう言うなり、緑色の魔法陣を浮き上がらせた。彼はもう剣を使わない。何度かゾンビを斬っているうちに、血と脂にまみれ、すっかり使い物にならなくなったのだ。どこかに水魔法の使い手でもいれば、浄化させてもらえるが、そんな相手は今のところいない。

 ゾンビは()()()()だったらしく、その顔は血まみれ、ところどころ肉片と思しき赤黒い塊まで付着させている。そのすぐそばに、ぐったりとした様子の、青白い肌の男子生徒が横たわっていた。おそらく犠牲者だろう。体の中央部分は真っ赤に染まり、ここからではよく見えないが、その体には、大きな空洞ができていた。間もなく彼も立ち上がって、こちらに襲い掛かってくるのだろう。

 ダミアンが、新たな獲物を前に立ち上がったゾンビに風の刃を飛ばす間、リーガンは、横たわる哀れな亡骸に火球を投げつけた。ゾンビ化される前に燃やしてしまうのは、リーガンたちにとっても、そしておそらく()にとっても、最も救いのある結末だ。

 バブ化したゾンビの動きは素早い。人ならざる者の声を上げながら、ダミアンの放った刃をかいくぐって来た。鋭い風の刃が、その不健康そうな肌を斬り裂こうとも、ものともしない。

 (こいつ、強い!)

 最初に出逢ったバブ化したゾンビは、相手が自分を殺せるほどの実力者だと知ると、一目散に逃げだした。食欲だけで動くはずのゾンビが、だ。飢えを満たすか、倒されるか。その二択で、彼は飢えを満たす方を諦めたのだ。それは、バブ化したゾンビならではの知性を伴った決断だった。相手は二つの選択肢からコストを計算し、より実利のある方を取ったのだ。それは、バブ化したゾンビの特徴だ。しかし、こいつはそれをしなかった。普通のゾンビの様に考えもしなかったのではなく、この程度ではやられないという自信があるのだ。リーガンが、彼の()()()()をあっさり燃やして、一瞬で駄目にしたのも見ているだろうに。

 「リーガン下がって!」

 ダミアンが、彼にしては珍しく焦った声を上げた。先ほどから何度も風の刃をぶつけるが、どれもわずかに避けられ、多少の傷をつけても、致命傷には至らない。リーガンが火球をぶつけようとするも、素早くかわしてしまう。おまけにその動きは今まで出会ったどのゾンビよりも素早く、二人で掛け合わせ魔法を唱えることもかなわない。

 ゾンビが最初に狙いを定めたのはリーガンだった。やはり弱点である火魔法を使う彼女は目障りだったのか、それとも柔らかそうな彼女を極上の獲物と捉えたのかはわからないが、ゾンビが、その汚れた歯を剥きだしにした。口元から、濁った涎が廊下を汚し、恐怖とおぞましさに彼女の体がすくんだ。

 「リーガン!」

 飛びかかったゾンビの前に、ダミアンが腕を突き出した。

 「ダミアン!」

 血が飛び散り、リーガンの甲高い悲鳴が廊下に響いた。その声を聞きつけ、遠くからもう一体ゾンビが走ってきた。普通のゾンビなら、対処さえ間違えなければけして強敵ではないが、さすがに強化したバブ・ゾンビは手ごわい。

 ダミアンは腕を齧られはしたが、その瞬間にゾンビを思い切り蹴りつけた。血の味に興奮し、一瞬防衛も何もかも忘れていたゾンビはそれをもろに食らい、後ろへ倒れた。しかし、その目は新鮮な血にらんらんと光り、すぐさま身を起こした。

 (ダミアンが噛まれてしまった!ああ、何てこと。私のせい、私なんかを庇ったせいで!)

 先ほど、リーガンは彼のことを疑ったというのに。彼は躊躇うことなく、彼女を守るためにその身を差し出したのだ。

 「ダミアン!」

 「リーガン、僕はもう間に合わない。こいつは何とかするから、あなたは逃げてください」

 「いやよ!」

 反射的に叫ぶと、彼は眉間にしわを寄せ、苛立ったように「早く!」と叫び返した。

 「いや!」

 「わからないんですか!?早くしないと、僕もゾンビになる!そうなると確実にあなたを襲いますよ!」

 「それより先に助けるわ」

 突然後ろから声がした。涼やかな少女の声だった。二人が振り返るより先に、一陣の風が二人の横をすり抜けた。

 「はっ!」

 短い、気合の入った声と共に、二人を苦しめたゾンビの首が廊下に転がった。

 「フレディ!?」

 「無事だったか、ダミアン」

 フレッド・クルガー・クレイブンは、剣についた血を振り払い、しかし剣をちらりと見て、床に放った。代わりに、その籠手を軽く振って鉤爪を出し、走ってくるもう一体のゾンビに躍りかかった。

 「すごい」

 思わずリーガンが呟くと、「ご無事でしたか」と声がかけられた。

 「ああ、アナベル。あなたも無事だったのね」

 「全く、無茶をしますね、リーガン様」

 そう言うアナベル・ウォーリスの横では、エスター・ファーマンがダミアンの腕に手を当て、青い魔方陣を作り上げていた。浄化の魔法をかけてくれているのだろう。

 「エスター、あなたも無事でよかった。ダミアンの傷は……」

 「大丈夫。ゾンビ化する前に浄化させることができました。ですが、回復魔法というわけじゃないですからね。傷を治したわけじゃありませんよ」

 エスターが、床にしたたり落ちた血を見ながらそう言った。傷は結構深かったらしい。リーガンは慌てて自分の、無駄に裾の長いドレスを破った。

 「リーガン!何してるんですか!」

 傷は浄化されているので、血を止めるのが先決だ。焦るダミアンを無視し、リーガンは破ったドレスの切れ端で、傷口をぎゅっと縛った。彼の呻き声は聞こえないふりをした。

 「歩けるか?」

 ゾンビを片付けたフレッドがこちらに戻ってきた。エスターは彼が投げ捨てた剣を拾い、再び浄化の魔法をかけている。もう慣れたものだった。

 「よかった。リーガン様とダミアンが見つかって」

 彼はエスターに感謝の視線を向けつつ剣を鞘に収め、注意深く辺りを見回した。

 「結構音がしたから、またゾンビが来ないとも限りません。とりあえずここから離れましょう」

 全員その意見には賛成だった。

 

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