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「そういえば、今回はストーリーも大幅に変更するんだっけ」
「ああ。例えば、初代では名前は出てこなかったけど、今回はちゃんとこの事件を引き起こした奴の名前を出すよ。まあ、そいつも命令されたからやったわけなんだけど」
「一応犯人捜しの側面もあるってことね。黒幕は変わらないみたいだけど。あ、すみませーん。ビールください」
「まだビール飲むの?」
「いいじゃん。今日のバイトハードだったんだもん」
「あんまり飲んでたら明日きついわよ。明日の授業一限からでしょ」
突如として甦る記憶の断片は、どうにかならないのかとリーガンはため息をついた。
なぜ今更ながら前世の記憶が甦ったのだろう。しかも、今現在この記憶のほとんどはさして役に立ってはいない。後から遭遇するであろう敵の存在を知っておけることはいいが。
(それにしても、今回の事件を引き起こした犯人……)
ゲーム「ROLE」では、巨大な「敵」により、この学校で禁呪が行われ、ゾンビやゼノといった、本来この世にあるべきでない異形の者たちが襲い掛かってきた。しかし、一作目において、「敵」の存在はわかっても、今回の事件の実行犯の名前は出てこなかったのだ。しかし、名前が出てこなかろうとも、確実に今回ゾンビを呼び出した人物はいる。
(犯人が当初呼び出したゾンビは恐らく数体。死体は、あの墓から呼び出したのなら、犯人は墓の傍にいたはず。それはいつ?)
そこまで考えて、リーガンはさっと顔色を青ざめさせた。今まで、身に降りかかる危険にばかり気を取られて、深く考えていなかった。けれど、ふと浮かんだ考えは、少し頭を使えばすぐにわかるはずだった。
(私たちが初めてゾンビに会った時、まだ犠牲者はいなかったように見えた。もしかしたら既にいたのかもしれないけど、それでもほんのわずかだったと思う。そして控室のすぐ近くに墓地があった。つまり、あの時犯人はすぐ近くにいたかもしれない?)
リーガンはかぶりを振った。
(いえ、そう決めつけるには情報が少なすぎる。大体あの時だって、ゾンビを見たショックで、正確に覚えているかどうか自信はない。これからはもっと状況をきちんと把握しておかなければ。とりあえず、実行犯がどこかにいることは念頭に置いておくべきよね)
隣のダミアンがちらり、と彼女に目をやった。何やら考え込んでいる様子に、少しだけ心配そうな目を向けてくれる。
「何でもないわ」
リーガンはそう言って微笑んだ。さっき、ゾンビを数人、二人の掛け合わせ魔法で倒して以来ゾンビとは遭遇していない。あの後休憩も挟んでいるので、それほど疲労は感じていないが、状況が状況だ。いつ敵に襲われるかわからないこの現状は、精神的にかなり負担を与える。彼が心配するのも無理はない。
「それより、どこに向かっているの」
「生徒会室です。屋上の鍵を見つけなければ。あそこに入るにはエンブレムが必要なのは知ってるでしょう」
生徒会員の一人だったリーガンも知っているが、生徒会室の造りは特別で、中に入るには校章の入ったエンブレムをはめ込む必要がある。そのエンブレムは、卒業前に学校に返却してしまった。それならば、エンブレムは職員室に保管されているはずだ。
(いいえ、ちょっと待って。そもそも、屋上の鍵は職員室にもあるはずよ。ああ、でもゲームでは確か、職員室にも、学長室にも、実行犯の手で保管されていた鍵がごっそりなくなっていたっけ……え?)
職員室のさらに奥まった場所に生徒会室はある。ここからなら、生徒会室へ行くよりも職員室へ行く方が近い。それなのに、ダミアンは一度も職員室へ行くとは言わなかった。なぜか?
考えられることは、職員室に屋上の鍵があることをダミアンが知らない、もしくは考えに至らなかったこと。しかし、それはあり得ない。成績優秀な彼は教師の覚えもめでたく、職員室にはよく関わっていた。しかも、生徒会員の彼がそれを知らないわけがないのだ。考えが至らなかったことも、彼ならまずありえない。
次に考えられるのは、彼がリーガンと同じ転生者だということ。
なにもリーガンだけがイレギュラーだとは限らないのだ。彼も同じく転生者であり、そして偶然ゲーム「ROLE」を知っていたかもしれない。日本ではあのゲームはそれなりに人気だった。リメイク版なんてものが作られるくらいには。元日本人なら、知っていてもおかしくない。
そしてさらに考えられるのは、それはあって欲しくない予想だったが、彼が実行犯であるという可能性だ。
(いいえ、それはない。ありえない。だったら、どうして彼は私を助けてくれたの。それに、あのパーティー会場から、彼は私と一緒にここに来た。あれからずっと離れてないのに、禁呪を唱える時間なんかなかったはず)
とはいえ、リーガンは禁呪がどうやって行われるか、全く知らなかった。呪文を必要するのかどうかもわからない。たとえば、呪文が必要なかったら、事前に用意を済ませておけば。リーガンが傍にいても、気付かれることなく禁呪を完了させることができれば?
「リーガン、見てください。廊下に灯りが灯されている。誰かがここを通ったんだ」
廊下の灯りを見ながら、ダミアンが呟いた。剣の柄に手が自然といっている。
「しかもこの灯り、職員室まで続いている。誰かがそっちを目指しているのか。……リーガン?」
黙りこくっているリーガンに、ダミアンが訝し気に顔を向けた。
「どうかしました?」
「……いいえ、何でもないわ」
できることなら、今すぐダミアンに尋ねたかった。ダミアンは転生者なのかと。もしそうなら、どれほど心強いことだろう。だが、転生者ではなく、最悪の予想が当たっていたら?黒幕の手先であり、今回の首謀者に、リーガンが転生者だと知られることは、非常に危険だった。何しろ、彼の後ろにいる者たちを知っているのだ。ゲーム上ではいずれ明らかになるが、今現在それを知る者はいない。
(とにかく、今はまだ何も結論付けることはできない。ダミアンのことは信じているし、信じたいけど、もう少し様子を見るべきよね)
「リーガン、少し顔色が悪いようです」
「……そうね。今更だけど、いろいろ思い出してしまって、気分がよくないの」
それは本当のことだった。さっきから、ひっきりなしに過去の会話がフラッシュバックするのだ。未だ前世の自分の名前すらも覚えていないのに。
過去の記憶では、いつだって自分は仲のいい友人、一人は男性で、一人は女性だ。その二人と食事を楽しみつつ、ゲームの話をしている。会話の内容から、男性はこのゲームの開発者の一人だ。今さっき思い出した会話で、女性の方は学生ということがわかった。自分もそうだったのだろうか。
(そういえば、さっき思い出した会話では、私が知るほとんどの人の名前が出てた。エスター、アナベル、フレディ、アッシュ、キャリー、後はよく知らないけど男子の名前。ダミアンは?ダミアンはプレイキャラじゃなかった?)
今まで何度も自分を助けてくれ、今も自分を労わるような目で見てくれる心優しい青年を疑うことは、酷く心を痛めた。しかし、一度湧いた疑惑は、なかなか離れなかった。
「生徒会室で休憩しましょう。おそらくあそこは安全です。もうちょっと頑張ってください」
そう言って彼は、リーガンに手を差し出した。ふらつく彼女を心配してくれているのだろう。しかしリーガンは、短く礼の言葉を述べながらも、その手を取ることを躊躇した。




