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ホラーゲームですから!  作者: うばたま
第三章 少女は誰かに貸しがある
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 母親が自分を愛していないのではないかという恐ろしい疑惑は、常にキャリーの中にあった。

 母・マーガレットの父母、キャリーにとっての祖父母はいつだって慈愛の目で彼女を見てくれていたが、マーガレットの方は、大体冷たく睨むか、その辺の石ころでも見る様な、無機質な目を向けるだけだったから。

 正確には、キャリーではなく、彼女の中にいる誰かを見ているのだが、それが誰なのか、キャリーにはわからなかった。父親については、優しい祖父母も何も言わなかったし、一度など、母親に無邪気に「どうして私にはパパがいないの?」などと言ったせいで、母から酷い折檻を受けた挙句に、クローゼットに数時間も閉じ込められた。以来、キャリーは父親に関するあらゆる質問を抱くのも、口にするのもやめていた。

 そうやって、母親の顔色を窺って生きてきたキャリーは、自分でも嫌になるほどよくわかっていたが、常におどおどとした、引っ込み思案な女の子になっていた。誰とも喋らない、笑わない。それだけで、周囲の子供たちは彼女を異端とみなしたし、そういった者に対して、子供がどれほど残酷か、キャリーは嫌というほど味わった。

 ギルバートと知り合ったのはそんな頃だ。彼はよく笑う、快活な少年だった。ちょっぴりわんぱくだが、それすらも彼の魅力であり、彼はたいそう人気者だった。そんな彼は、なぜかキャリーのことはいじめたりせず、それどころか気にかけており、たまにこっそり話しかけてくれたりした。それに対してまともに返答できたためしはなかったが、キャリーは少しばかり、ギルバートには気を許していた。

 しかし、一年ほど交流があった頃、その頃にはキャリーもぽつりぽつりと、彼と会話らしきものをすることができるようになったが、そんな頃に、彼は姿を消した。親の仕事の都合だと言っていたが、周囲の大人は、彼が実はどこぞの貴族の子だったとか、貴族の隠し子だったとか、好き勝手言っていた。

 そうして、再び一人ぼっちになったキャリーは、十になる前から魔力の才能が少しずつ芽生えており、正式に魔力持ちと認定された後、十五になる年に魔法学校へ入学することになった。

 マルコス学園を選んだのは彼女だったが、珍しいことに、母親は反対しなかった。常に母はキャリーの望みを叶えたりはしなかったのに。マルコス学園が全寮制で、母親と物理的に離れることになるからかもしれないと、キャリーは胸の痛みを感じつつも思った。母は、娘の顔も見たくはなかったのだろう。その気持ちはわかる。いいかげん、キャリーもうんざりしていたから。

 そうして、マルコス学園でギルバートと再会したのは、喜ばしい偶然だった。

 彼は相変わらず明るく人気者で、でも穏やかな空気をまとうようになっていた。彼は今度は以前みたいにこっそりキャリーに話しかけるではなく、ごく自然に話しかけてきた。キャリーもたどたどしくだが、それに答えた。


 「君って属性は?」

 「……風よ。あなたは?」

 「水。そうか、君は風属性なのか。いいよなあ。水属性はよほど魔力が高くないと、うまいこと利用できないんだよ。あのエスター・ファーマンみたいに魔力が高ければ、水だけじゃなく氷も扱えるんだけどね」

 学園のカフェの中、彼はどことなく優雅な仕草で紅茶にミルクを入れた。その所作に、やはり本当なのだなとキャリーは納得していた。

 「やっぱりあなたってお貴族様だったのね」

 こんなに優雅に紅茶を飲む人間を、キャリーは他に知らなかった。

 「お貴族様ってのはやめてほしいな。でも、半分当たりで半分はずれ。僕は母親が子爵家の出身なんだ。父は平民なんだよ」

 貴族と平民の結婚。それは、珍しくはあったが、聞かないわけでもない話だった。平民でも、貴族よりも豊かな家だってあるし、それほど地位が高くない貴族なら、そういった平民と婚姻を結ぶこともある。

 「身分違いの恋ってわけね」

 「そう言うとものすごくロマンチックな感じがするね。でも、現実はもっと非情だね。母が体が弱く、子供が産めないだろうと言われていたんだ。実際、僕を出産してすぐ亡くなってるしね。そんなわけだから、同等、もしくは上に地位の家には嫁げない。家では肩身が狭かったみたいだよ。そこで、彼女は家の地位とか関係なく、魔力の高い男に目を付けたんだ。うちの家って、魔力持ちが極端に少なかったからね」

 彼はそう言って紅茶と一緒に買ったクッキーを口に含んだ。食堂の安っぽいクッキーでは、彼の口に合わないのではとキャリーはひやひやしたが、彼は美味しそうに目を細めているだけだ。

 魔力を持つ人間は貴重だ。国中を見ても、高い魔力を持つ人間ならかなりの確率で、要職についている。平民と貴族では、若干貴族の方が魔力持ちの比率が多い。そうなると由緒正しい子爵家で、魔力持ちが極端に少ないのは、当主にとってきまりが悪いのかもしれない。

 「父はころっと騙されたらしいよ。儚げな貴族のお嬢様が自分に想いを寄せてくれてるって。他に婚約者もいたってのに、あっさり捨てて母に乗り換えたんだ。ちゃっかり、結婚前に母を孕ませてさ。これで子爵家と縁続きになれたと思っていたんだろうが、母が死んだことで状況は一変さ。まず、父がかつて元婚約者と起こした()()()()を理由に子供、つまり僕を子爵家に取り上げられ、そのまま追い出された。まあ、祖父は最初からそうするつもりだったんだろうね。僕は伯母、母の姉のとこの養子という形で収まり、こうしている。放り出された父は醜聞まみれでいろいろ苦労したみたいだけど、それでも魔力持ちだからね。何とか食べて行けたみたいだけど、数年前に病気でぽっくりさ。孤独な死だったらしい。父の元婚約者が聞いたら何て言うんだろうね?」

 あまりにもあっさりと、どころか冷淡に、身内の話をするギルバートに、キャリーはしばらく呆然としていた。こういう時、何と言っていいのかさっぱりわからない。ただでさえ他人と会話なんて高等技術は難しいというのに、気の利いた返しなど、できるはずもない。しかし、ギルバートは何か意見を求めているわけではないらしく、話し終えてどことなくすっきりとした顔で残りの紅茶を飲みほした。

 「つまり、人生いろいろってことさ」

 キャリーは、彼のその言葉にどんな思いが込められているのか、何もわからなかった。家族はいつだって、父親の話をしてくれなかったから、彼の話に、何も気付くことができなかったのだ。


 その後もギルバートとの奇妙な友情は続いた。

 彼はなかなかにハンサムで優秀な子爵家の子息で、それでいてお高くとまったところのない、気さくな人柄だった。当然女子からも人気のあった彼だが、不思議なことにキャリーは、学園内でおそらく一番彼に近い位置にいるはずの彼女は、彼に対して他の女子が抱くような想いをついぞ抱くことはなかった。

 彼のことはとても好きだった。けれどそれは、まるで血の繋がりのある兄や弟に向ける様な、親しみと気安さを伴った好意だけなのだった。

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