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男爵令嬢の辺境領主生活  作者: あらまき


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3-24話 大胆不敵の翼竜退治1


 フレイヴの村を出発してから三人は、大盾を持つラステッドを先頭にして速度を合わせ、ゆっくりと森を進んでいった。

 盾を持ち、道に詳しいラステッドを先頭にして、その後ろにハルト。

 そして後方に弓を構えたリカルドという隊列を組み、警戒を怠らないようにしていた。


 前来たばかりだからか以前ほど野生動物の襲来はなく、またフル装備となっている為道中脅威らしい脅威はなく、ピクニックかハイキングに毛が生えた程度の快適な道のりだった。

 動物達の時間である夜でさえも、襲撃は三、四回程度しかなかった。


 そして進みだして二日目、最初()()に気がついたのは先頭にいるラステッドでも狩人のリカルドでもなく、野生的な直観を持つハルトだった。

「いる。というか待ち構えてやがる」

 ハルトは前後の二人に停止の合図を出し、小さい声でそう呟いた。


 その直後に、二人もハルトの感じた物を同じものを感じ取った。

 非常に独特な気配で、引き絞った弓で狙われるような緊張感と自分が獲物になったような錯覚を覚える。

 ソレは三人共過去に感じた事がある感覚……。

 ソレを一言で表すなら――殺意である。


 罠を張って待ち構える動物特有の隠しきれない殺気。

 その殺気の強さは過去に経験したあらゆる動物よりも強く、どう考えても普通の生き物が出せる殺気ではなかった。

 そしてその殺気をハルトは知らないが、二人は最近体験したばかりで、ソレを忘れるわけがなかった。

 殺気の主は間違いなく、今回のターゲットのワイバーンである。


 三人が足を進めない事により見抜かれた事を理解したからか、斜め前の生い茂った森林の奥から轟くような咆哮が響き渡る。

 振動だけで草木が音を立てて暴れるように揺れ動き、鳥や獣が一度に逃げ出し森が静寂と化す。

 その直後、静寂の中からやけに大きな音で、翼を羽ばたかせる音が響いた。




「まずは当初の予定通りで行くぞ」

 ラステッドがそう言うとリカルドは空に飛ぶ翼竜目掛けて弓を引き絞り……矢を放った。

 様子見の一射は翼竜にまっすぐ進み、首辺りに当たるも突き刺さらず鱗に阻まれ地面に吸い込まれて行った。

「……少し距離が遠いか」

 そうハルトが呟くと、リカルドは再度弓を構えた。

「さ、力を貸してくれよ」

 リカルドはそう呟いた後呼吸を整え、妖精石に意識を集中させる。


 矢を直接強化する魔法という物をリカルドは知らない。

 知らないというよりも、恐らく存在しないだろうと考えているくらい、矢の強化方法というのは難しかった。

 風の魔法を使えば飛距離は伸ばせるが、今度は矢に纏っている風が邪魔をして矢としての性能を低下させてしまう。

 リカルドが良く使う炎の魔法もだが、燃えるという性質の為か狙いが疎かになってしまう。

 ブラウン子爵との模擬戦で使った切り札のように、火力という面でなら劇的に強化出来る裏技もあるにはあるが、魔力消費も大きいしアレは射程が非常に短い。

 つまり、矢での攻撃と魔法は相性が良くないと言わざるを得なかった。

 そう思っていた――。


 ワイスという名の偉大な魔法知識者に会わなければきっと今でもそう思っていただろう。

 自由な発想で困難に立ち向かう笑顔の愛らしいあの子に出会わなければ、こんな斜め上の方法思いつかなかっただろう。


 リカルドは風の魔法を、矢ではなく弓の方に使用する。

 効果は特に変わった物ではなく、風を纏わせ弓と弦の硬度をただ増しただけである。

 それも効果は短く、十秒そこらしかもたない。


 その後に魔法を切り替え、炎の魔法を己にかけた。

 体を燃やすのではなく、心を燃やす。

 そんな言葉遊びのような方法だが、自由と遊びを司る存在の妖精を仲介しているからか上手くいってしまうのだ。

 全身が熱くなるのを感じると同時に、力が張り巡らされた。

 単純な強化という万能の魔法ではなく、短期間だけ筋力を上げるだけの魔法である。


 リカルドが発想の転換から学んだ矢の強化方法、それは矢ではなく弓を固くし筋力を増やすという脳筋的かつごり押しという斜め上の発想だった。

 長時間持続する魔法に慣れていない為まだ十秒ちょいしか持続出来ないが、それでも一射撃つ程度の時間としてみれば十分すぎるほどだった。


 強化された弓を強化した肉体で引き絞り――放つ。

 その矢は目にもとまらぬほどの速度で、翼竜に襲い掛かった。


 キン。


 首元に当たった矢は軽い鉱物が当たるような音を鳴らせ、刺さる事なく地面に落ちていっていた。

 間違いなくその矢は強力でかつ高威力であり、射程が足りないという事もなかった。

「……おい。嫌な予感がするぞ」

 リカルドはそう呟いた後、三度目の正直として矢に炎を纏わせ射った――が、矢は刺さる事も燃える事もなく地面に落ちていった。


「俺の直感なんだが、たぶん腹なら刺さるぞ。柔らかそうだし」

 ハルトの言葉にリカルドは頷いた。

「よし。狂犬のような動物の直感だ。あたってるだろう」

 そんな失礼な事を言いながら集中し、リカルドは矢を放った。

 それにワイバーンは翼を軽く動かし、風圧と翼で矢を弾き返した。

 その動作は慌ててというようなものではなく、適当に羽虫を払うような動作だった。


「……これ、矢じゃダメ無理だわ」

 開幕で予定が崩壊した瞬間だった。




「しゃあない。リカルドは魔法で適当にアレコレしててれ。矢がダメなら後は隙を見計らってチクチク攻撃してくしかないだろう」

 ラステッドの言葉にリカルドは頷いた。

「ああ。弱点部位が狙えそうな時に狙いつつ支援を重視していくわ」

 リカルドは翼竜にじっと見つめられながらそう呟いた。


 翼竜の姿は本当にトカゲに良く似ていた。

 全体的なフォルムは細長く、頭や前足は細く小さいが後ろ足や尻尾は太くずんぐりしている。

 トカゲと大きく違うのは翼くらいで、その大きな翼膜に覆われた翼により空を意のままに移動していた。


 翼竜は三人の位置を中央にして旋回するようにくるくる回ったりその場で滑空したりと自由に動き周っていたかと思うと、突然前足を構え急降下して襲い掛かってきた。

 小さく短い、生物として必要かどうかわからない退化したように見える前足。

 だが、その前足の攻撃により、フレイヴ領の三人はボロボロになり、アルトに至っては左腕を失ったのだ。

 油断して良いわけがなかった。


 リカルドを狙う翼竜の急降下にラステッドは合わせて移動し、リカルドは邪魔にならないよう、ラステッドの後方に移動し距離を取る。

 そして急降下の勢いをつけ襲ってくる翼竜の右前足を、ラステッドは盾を斜めに構え受け流した。


 ギャリギャリギャリ!


 ラステッドの両手に金属が削れる不快な音と同時に両手に痺れるような衝撃が加わる。

 威力が強すぎて受け流しが上手くいかなかったからだ。

 それでも倒れないように、盾の角度を固定したまま足を踏みしめ、体の力を使い翼竜の攻撃を受け流し続けるラステッド。

 上手く行くは行ったが、翼竜の攻撃が終わった時には両足のかかと部分が五センチほど地面にめり込んでいた。


「ハルト!」

 ラステッドの叫び声に合わせてハルトは突撃し、その勢いのまま大剣を垂直に振り下ろした。

「うおおおおおおおおお!」

 狙いも何も考えていない吼えながらの豪快な一撃を、翼竜は左前足で掴むように受け取った。


 ギン!


 翼竜の手に当たった大剣は金属音を響かせ静止する。

 ハルトの見てわかるほど力を入れた渾身の一撃は、翼竜の前足は爪以外も固いという事を知らしめる程度の効果しかなかった。


 しかし、攻撃を止められてもハルトは止まらず、大剣を振り下ろすように渾身の力を込め続ける。

「うおおおおおおおおお! おらあっ!」

 ハルトが一歩足を踏み込んだその瞬間、翼竜の体がわずかだが後退した。

 単純に、力比べでハルトは翼竜を押し込んでいた。


「やっぱりお前おかしいわ。どこが凡人だよ」

 苦笑いを浮かべながらラステッドは翼竜に近寄り、後ろ足に槍を突き刺した。


 ドスッと音を立て槍が突き刺さった瞬間、翼竜はぎぃっと小さく奇声を上げ大剣を手放し後方の空に飛びあがった。

 傷口は見えないほど小さいが確かに刺した感触があり、槍の先に燃えるような鮮血が付着していた。


「後ろ足付近は硬くないっぽいな」

 ラステッドは怒り狂った様子の翼竜を前にそう言い放った。


ありがとうございました。

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