3-23話 不撓不屈の愚か者
プランは治療の手伝いの為に教会の方に向かった。
ただでさえ忙しいメーリアに負担をかけるのだから手伝いをするのは当然だと考えたからだ。
そして館に残されたラステッド、リカルド、ハルトの三人はお互いに顔を合わせ、楽しそうに笑った後全員で同じテーブルに着いた。
これより三人はたった一つの目的の事だけを考え、それ以外の事を全て忘れる。
そう――これより、この三人でワイバーンを討伐する。
彼らはこれより、命運を共にする運命共同体となった。
「つーわけで、とりあえずお互いの戦い方の確認からしていこう。今のままだと連携を取るも何もないからな。特に俺は違う領の人間だしな」
ラステッドの言葉に二人は頷いた。
お互いの事を知らないと連携どころか自滅する恐れがある事は良く知っている。
兵士と武官の連携ならば戦術を中心にある程度規則性があるのでお互いの事を知らなくても何とかなったりする。
だが、武官同士の連携は兵士のソレとは違い明確な答えがない。
だからこそ、お互いの理解度を高める事はとても重要だった。
リカルドはテーブルに短刀と弓を置き、そして妖精を召喚した。
ワイスよりも一回り小さな赤い球体に、蝶のような羽の生えた生き物はリカルドの周りをうろうろと回り楽しそうにしていた。
「使える物は見ての通り。一番戦いの幅が広いのは俺だと思うが……さすがに今回近接は無理だ。二人と比べたら俺の守りは微妙だし、何よりこのリーチで戦いに挑むのは自殺行為にしか思えん」
そう言いながらリカルドは短刀を持って見せ、そのまま短刀でジャグリングを始めた。
「んじゃ次は俺か。その前に、お前とはちゃんと挨拶してなかったな。俺の名前はラステッド・フレイヴ。ラストと呼んでくれ」
ハルトに向かってそう言った後ラステッドは手を伸ばした。
それを受け、握手をした後獰猛な笑みを浮かべるハルト。
「おう。俺はハルト・ゲイル。ハルトと呼んでくれ。悪いが今だけは領主とか立場とか気にしねーぞ。俺達は共に戦う仲間だからな。上下関係は置いていく」
そんなハルトの言葉にラステッドは微笑む。
「いや。今だけじゃなくてずっとそうしてくれ。堅苦しいのは性に合わん」
そうラステッドが返すとハルトは笑ったまま頷き、二人は拳をぶつけ合った。
「というわけで改めて、俺は弓とか魔法とかは使えないが近接武器なら大体使える。ただ、自分の能力とか客観的にはわからないな。リカルド、客観的に俺の戦い方とか教えてくれ」
ラステッドに尋ねられ、リカルドは模擬戦の事を思い出し口にした。
「そうだな。今の立ち振る舞いからは考えられないが、ラストは文句なしの技量系戦士で、そして天才だ。一を知って十を知るタイプと言えば良いか。器用貧乏ではなく、器用万能。どの武器でも一流に近いほどの技量を持ち立ち回りは丁寧。理詰めの戦法はリオに近いな。そしてぶっちゃけ俺よりはるかに強い」
「まじかよ凡才なのは俺だけか」
ハルトはリカルドの言葉にそう言って大きく溜息を吐いた。
「いや。お前はお前で凡才じゃないだろ……」
リカルドはぽつりとそう呟いた。
「というわけで俺は何でも使えるし領には使ってない色々と武器が残ってるからハルトの武器を見てから使う武器を決めるわ。だからワイバーン退治の前に俺の家に寄ってくれ」
その言葉に二人は頷いた。
「最後に俺だが……ちょっと待っててくれ。見せたい物がある」
そう言った後ハルトはテーブルを立って部屋を出て走り、数分してから戻ってきた。
巨大な鉄塊を両手に抱えて。
その鉄塊――両刃の大剣をテーブルに置き、ハルトはドヤ顔を二人に見せた。
「……それ、どうしたんだ?」
リカルドの質問に、ハルトはニヤリと笑った。
「無理を押し通し、頭を何度も下げ、借金してブラウン子爵から買った。事後承諾だがプランからも許可は出してもらってる。ワイバーン討伐と聞いたからな。色々と無理したしブラウン子爵にも無理してもらったわ」
そこにある大剣は特殊な能力があるような物ではないが、一目でわかるほど質の良い剣で、決して安い買い物でないという事は一目で理解出来るほどだった。
武官の借金という物は領の責任にもなるのでハルトが一人で決めて好き勝手して良い事では決してないのだが……ソレをプランもリカルドも責める気なかった。
そうでもしなければならない相手……いやそれでも届かない相手と戦うのだから当然の事だった。
「というわけで俺はリカルドのように多才でもなければラステッドのように色々出来る天才でもない。出来る事と言えばヘッタクソな剣を振り回す程度だ。ただ人より少々力が強いからこういった剣を振り回すのだけは得意かな」
ハルトがそう言うと、ラステッドはリカルドの方を見た。
「んで、実際はどうなんだ?」
自分の事を卑下する良い奴ってのは、大体自己評価がおかしいという事をラステッドは良く知っていた。
「言っている自体は確かに間違いはない。剣の技量はヘッタクソで技量で見るならラストの十分の一もないし、直剣以外の武器はほとんど使えない。ただし、身体能力は化け物級だ。小さい傷なら十分程度で治るし蹴りで木材を切断する。折るんじゃなくて切るんだコイツ。ヘッタクソな技量でも馬鹿力でぶん回すからめちゃくちゃ威力出る。ある意味では剛剣使いの極地と言って良いなコイツは」
「だよな。凡才なわけないわな。というか人間なのか怪しくなってくるなそこまで行けば」
「俺はゴリラの仲間か何かだと思ってる」
そう呟いたリカルドに、ハルトはコンと頭を軽く叩いた。
「そう言う事なら俺は軽い槍と大盾を選択しよう。そこそこ質の良い盾を持ってるし防御に長けた奴が一人いた方が良いだろ?」
ラステッドの言葉に二人は頷いた。
その後の作戦会議はかなり適当に終わらせた。
全員が雑な性格だから――ではなく、相手が未知数の為下手に行動を縛った作戦を取ると逆効果となる恐れがあったからだ。
なので作戦の大前提として『臨機応変』である事を第一とした。
その上で当初の予定として。
飛行する相手の為弓での攻撃が主な手段となる事を想定し、リカルドは出来る限り攻撃を続けてダメージを与えるという役割。
ラステッドはシンプルに、爪などの攻撃を受け流しリカルドへの攻撃を阻止する役割。
ハルトはラステッドが攻撃を受け止めた後のカウンターの一撃。またはラステッドがミスった時のカバーリングをする役割。
大まかではあるが、これを方針と定めた。
ただし、もう一つ重要な事がある。
作戦でも前提でもなく、当たり前の事。
『絶対に生きて帰る』
負けても、失敗しても、ボロボロになっても次はあるが、死ねば次はない。
また、領主であるラステッドは当然として、ハルトも死ぬわけにはいかない理由があり、リカルドも当然、死ぬ気はさらさらなかった。
――せめて死ぬなら、プランちゃんに良い人が見つかってから死にたいもんだ。それが俺なら文句ないんだけどな。
リカルドはそんな事を、至極真面目に、本気で考えていた。
死にたくないが危険な事には変わりない為、三人は撤退については合図からタイミング、何の道具を持って行くかまで徹底的に話し合った。
語り明かした翌日、各自で荷物を整えた後どうしてこんな酷いのか理解に苦しむような過酷な道を進み、一週間ほどかけてフレイブ領の村に到着した。
「ちなみにハルト。この領にはハルトという名前が三人いるそうだ」
ラステッドが準備をしている間を待つ暇つぶしにリカルドは突然そんな事を口にした。
「おう。俺名前変えた方が良いか?」
「いや別に良いんじゃない? そういうものだし」
「そうか。良い場所だなココ。空気は綺麗だし風は心地よい。そして寒くもないしな。でも……正直居心地悪いわ。いや誰かが悪いわけじゃあないんだが……うーん」
ハルトは困り顔でそう呟いた。
この場所に両親がいて、そしてこの場所で捨てられた。
そう考えると、どうしてもこの場所に否定されているように感じ、ココに自分はいてはならない気さえしてくる。
ハルトはそんな事を感じずにはいられなかった。
「ちなみに俺らが最初にあったフレイヴのハルトは若手ながら村一番の畜産技術を持っていて、めっちゃ美人の彼女作ってた」
「まじかよ。俺もここに住めば美人の彼女出来るかな?」
ハルトの言葉にリカルドは驚き、苦笑いを浮かべた。
確かに……ハルトはこの場所に強い苦手意識を抱いている。
だが、そんなものハルトのモテたいという強い気持ちの前には塵同然だった。
良く接する相手が妹であるプランと真面目人間のヨルンの為あまり表に出せないが、ハルトは心の底から、とてもモテたかった。
「お前、強いな本当に」
「そうか?」
よくわからず首を傾げるハルトにリカルドは感心しつつも阿呆らしくて溜息を吐いた。
「ちなみに、俺も超モテたい」
底からぬっとラステッドが現れ、そう呟いた。
ラステッドは大量の荷物と短めの細い槍、それと逆三角形に近い形で体の大半が隠せるような大きな盾を持っていた。
「あれ? ワイスは良いのか?」
リカルドがそう尋ねると、ラステッドは眉毛をハの字して肩を落とした。
「こっちに帰る前に告白して、そしてフラれた。完膚なきまでにフラれた。さすがに目がない相手に付きまとうほど迷惑な事は出来ん」
ラステッドの言葉にリカルドは耳が痛くて苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
「別に野郎の恋愛話なんて聞きたいわけじゃないけどさぁ。俺含めてもう少し聞いてて楽しい状況の奴いないのか」
ハルトは重苦しくそう呟いた。
ハルトは誰でも良いからモテたいけど顔が怖いからか全くモテない。
ラステッドは二度目の告白で玉砕。
リカルドは好意を伝えているが目が一切ない。
あまりに酷い状況で、全員は溜息を吐く事しか出来なかった。
ありがとうございました。




