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男爵令嬢の辺境領主生活  作者: あらまき


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3-2話 好転する未来、犬猿の二人2

 

 プランに手紙を出したのは現在国の要請により軍事行動中の筆頭武官リオと武官のアイン・シュートラの二人だった。

 まだ出会って一年も満たない二人だが、十分に信頼出来仲良くなれているとプランは思っている。


 リオは騎士道という拘りを持ち、武官としての能力が高い。

 そしてそれだけでなく、礼儀作法から武器の製造などプランの知らない事を沢山知っている。

 おそらく高度な教育を受けた存在であり、結構な身分ではないかと予測しているが……本人が苗字を名乗っていない事から家と仲が悪いと考えプランは何も聞かないでいた。


 アインは女性武官で情に厚く、日曜に必ず礼拝する熱心なクリア神信者の騎士である。

 ただ……ちょっと多くの男性といかがわしい雰囲気になっていたり、日曜以外は教会に近寄っても関心を見せず入ろうとしなかったりととても宗教熱心な人には見えなかった。

 そして、プランは何となく理解していた。

 その複数人との男性と触れ合うような交流こそアインの大切な事であり、そしてアインの深い根に繋がる歪みだという事を。

 その事を除けば、アインはとても出来た人で、プランにとっては部下というよりは姉兼友達のように感じていた。


 リオとアインから一通ずつ手紙は届いたが、伝えようとしてる内容は概ね同じ事だった。

 まだ馬車移動をしているだけで何の進展もない事。

 それに、現在地点報告も兼ねた連絡の二点である。


 たったこれだけの要点でも、その手紙の内容は二人の特徴を如実に物語っていた。

 ぐっだぐだになるまで日常的な話を続け、読み応えはあるが本題がどこかわからなくなるアインらしい手紙。

 逆に、前後文の敬語を除くと丁寧口調の本題のみしか書かれていないリオらしい手紙。


 正反対のような二人の手紙だが、一つだけある種の共通点のようなものが見受けられた。

 それは、お互いの事を一切書いていない事である。

 更に付け加えると、手紙をわざわざ分けて書いている辺りで、未だ両者の溝が深い事を読み取る事が出来た。

 リフレスト領に住む者は立場関係なく基本皆仲が良いのだが……この二人だけは例外となってしまっていた。



 リオとアインが手紙を送ってから数週間ほどが経過した頃……。

 二人と十八人の兵士は牛歩のような速度の移動を続けている時、突然後方から馬の足音が響いた。

 その足音を聞き、リオは急いで全員に道を避け立ち止まるように指示を出した。

 馬の足音から恐ろしい速度でこちらに近寄っている。

 何等かの緊急事態で邪魔をしたら悪いと考え、また盗賊や盗人の可能性も十分に考慮し脇に除けてリオとアインは警戒態勢に入った。


 一同が立ち止まるその目の前に、一頭の馬が立ち止まった。

 別段小さいわけではないリオやアインの乗っている馬が小さく見えるほどその馬は雄々しく巨大で、そしてその馬に乗っているの人は背の低い子供のような容姿をしていた。

「あ、すいませーん。リフレスト領の方々ですかー?」

 帽子を深くかぶっている為よくわからなかったが、声色から察するに子供は女の子だったらしい。

 丸い帽子を被り少々オシャレな服を来たボーイッシュな少女は、にこやかにそう尋ねた。


「はい。リフレスト領筆頭武官のリオです。何かありましたか?」

 そうリオが応答すると、馬に乗った少女はひょいっと身軽な動作で馬から下りて手紙を一通取り出した。

「はーいノスガルド手紙配達人でーす。えっと……本人確認も込めて質問なのですが……失礼だったらごめんなさい。『超絶堅物な人となんちゃって魔性の女さんへ告ぐ。私は誰でしょう?』なんて質問受け取ってますが……これ誰の言葉かわかります?」

 少女の言葉にリオは渋い顔を見せ、アインは苦笑いを浮かべた。

「……御当主のプラン・リフレスト様ですね」

 そうリオが言うと、少女は申し訳なさそうに頷いた。

「あはは……すいません。というかこの人本当に領主だったんだ……。えっと、現在ブラウン子爵領にお泊り中のプラン様より皆さまにお手紙です。どぞ。そして忙しいので失礼します!」

 そう言って少女はリオに手紙を預け、馬に飛び乗って道をまっすぐ突き進みだした。


 手紙の配達というのは簡単な仕事ではない。

 道中で盗賊や山賊に襲われるくらいならマシな話であり、情報の為に他国の正規兵に襲われる事すらありえるような過酷な仕事の為、通常手紙の配送は護衛を用いて行う。

 更に言葉を足すならば、軍事行動中のリオに直接手紙が届いたという事はさきほどの配達関係は領関係者ではなく、国家に直接所属している人間だという事になる。

 ちなみに国家運営の配送職は必ず護衛に一人武官を付けなければならないという法がある。

 つまり……あの少女は複数の護衛を必要とせず、たった一人で正規兵と戦い荷物を護る能力を持った武官兼用の手紙配達人という事になる。

 リオはあまりにもあり得ない結論が出てしまい、既に見えなくなった少女と馬の後ろ姿を茫然とした様子で見送った。


「それで、お手紙は何です?」

 アインの言葉にリオは我に返り、手紙を開けようとした後、空を見た。

 日はまだ高いが、偶には兵士達の体を休めるのも大切だと考えリオは小さく頷いた。

「――ついでですから、今日はこの辺りで野宿をしましょう。兵士の皆さんの方が付き合いが長いですし、……当主様の手紙を見たくない人はいないでしょう」

 そうリオが言った瞬間、十八人の兵士は全員腕を振り上げリオを称えだした。

 ――自分には厳しいのに、人には甘い人だなホント……。

 アインはそう思いながらもリオの方を微笑ましい目で見ていた。




 兵士十八名の内八名が元アデン男爵領の兵士で残りがリフレストからの兵士である。

 今回は戦闘が予想されるので選別理由が戦闘力である。

 その為リオは最初十八の枠全員が正しく訓練を受けた元アデン男爵領の兵士達で埋まると予想していたが……結果は大きく異なった。

 アデン男爵領からこちらに移住した兵士は教わった人が良かったのもあり恐ろしいほど優秀である。

 それでも、その優秀な存在は八人だけで、残りの十人は戦闘下手くそ戦うの苦手、農作業なら大得意の元祖リフレスト領兵士である。


 ただ、考えてみたらこうなる理由はある意味当然でもあった。

 複数項目で能力を求める場合、特化した人間が選ばれやすいからだ。


 兵士に求める戦闘力とは直接戦闘だけではなく、補給能力も含める。

 それを考慮に入れたとしても正規訓練を受けたアデン男爵領には勝てない。

 更に、一対一の戦闘でリフレスト兵は単純に、特に何の理由もなく弱い。

 真っ当な部分はアデン男爵領出身が優れているのに、十人もリフレスト領兵士が選ばれる。

 その理由はわかるのだが……その理由をリオはうまく口で表現できない。

 一番近い言葉は『サバイバル能力と体力に優れる』なのだが……あれをサバイバルとはリオは呼びたくなかった。


「それじゃ、後は任せて」

 アインがそう言ってアデン男爵領出身八名を引き連れ、野営場所の設置に入る。

 アインをリーダーにしてうまく連絡を取り合い、手早くテントや簡素な調理場の準備をしていた。


 そしてリフレスト出身の兵士十名はリオの元に集まり――食料調達の相談を始めた。

「んじゃ、今日はどうするよ?」

 兵士一人の言葉に合わせ、他の兵が意見を出す。

「昨日と環境も変わってないし、昨日の改善点だけ合わせて後は昨日通りでいんじゃね?」

「そうそう。無理せず取りやすい獲物狙っていこや」

 そんな事を兵士達は話していた。


 その間リオは一切口を挟まない、というか挟めない。

 普通こういった相談事はリーダーの役割を持った者がいないと話はまとまらないのだが、事こういう状況の時のみなら、リフレストの兵士達は自分達だけで話を完結させる事が出来た。

 ちなみにリオが話に混ざれない理由だが、草の成長具合や野生動物の糞などからの環境を考察し、そこから最適な行動を探り出すその胃袋に忠実な本能による妙に高度な会話について行けないからだ。

 リオの能力は基本、机で学んだ事を忠実に生かすもので、現場経験オンリーでのリフレスト兵の会話は納得は出来るのだが理解することは出来なかった。


「というわけで騎士リオ様。近場に川があるっぽいので三名ほどそっちに行かせて、後はいつもの狩猟しつつ食べれそうな草探しって事になりました。良いでしょうか?」

「はい。任せます」

 リオはそう言う事しか出来なかった。


 もう一つ、リフレスト領兵士の戦闘力が高いと言われる理由がある。

「ほい。コレリオ様の分っす。どぞ」

 そう言いながらさきほどと別の兵士がリオに石槍を手渡した。

 コレは事前に用意したものではなく、彼らが会議中の間に話しながらこの場で作ったものである。

 コレこそが、アデン男爵領の(ツワモノ)達を押しのけてまでリフレスト領の兵士が選ばれた、その最たる理由である。

 彼らは何故かわからないが狩猟時に一切の道具を使わない。

 そして道具を作るとしても、その道具を作る為に元からある剣や槍を利用しようとせず、全て素手のみで一から『現地にある物』だけで道具を作る事が出来る。

 つまり、素手かつ材料なしの状態でも、驚くべき速度で武具を用意することが出来るのだ。

 流石に性能は微妙で壊れやすいのだが、それでも当然素手よりは強い。


 もはや美学や拘りという域ですらある零から何でも作ろう精神とそれを利用しての安定した狩猟。

 更に加えてリオが教育したからか、ちょっとした大工仕事ならこなせるようになったリフレスト兵はもはや兵士と呼ぶよりも工兵と呼ぶ方が近くなっていた。




 石槍だけでなく石とロープで捕縛道具も作り、ついでのように道中歩きながら罠を作って設置しつつ、木陰に休みに来た鳥を投石で打ち落とす。

 道具は即席の為すぐ壊れるが、材料費ただな上製作時間も五分程度、壊れたら作り直す精神でさくっと一時間程度狩りを行い……二十人が満足できる量をリフレスト兵達は調達した。

リオは感心すると同時に、どうしてコレだけ出来るのに一体一の戦闘はあんなに弱いのか訳がわからなかった。




 全員が合流して軍事行動中と思えないほどの食事を堪能した後、アインは全員の前でプランからの手紙を読んだ。

 リオではない理由は、時々女性口調になる手紙をリオが読むと気持ちが悪いという至極当然の理由である。


 その内容は軽い雑談やどうでも良い話だけではなく、国を揺るがすほどの大事件についてが詳細に書かれていた。

 ブラウン子爵冤罪での裁判。

 そしてその下手人である天秤伯が国を裏切り――そして捕縛される。

 その結果忙しくなりブラウン領に滞在する事になっているというプランからの手紙は、リオとアインに強い衝撃を与えていた。


「……騎士リオ。天秤伯に会った事ありますか?」

 その言葉にリオは首を縦に動かし肯定の意を示した。

「騎士とは方向性は違いましたが、誠実で、実直で、尊敬に値する人物だと考えていました。いえ、今もそう考えています……」

 リオの言葉にアインは首を縦に動かした。


「ええ。そうね。私も概ねそんな感じ。だけど、私は捕まったと聞いた時少しだけ、ああ……やっぱりって思ったわ」

 そうアインが言った瞬間、リオは強い不快感を覚えた。

 尊敬する天秤伯の悪口を言っている事も理由の一つだが、単純にアイン自体に気に入らない部分があるからだ。


 リオはアインが来る前までは、高潔な騎士であると想像しており楽しみにしていた。

 クリア神教団の枢機卿と仲が良く、多くの実績を持った若き騎士と聞けばそう思ってしまう事もしょうがない部分もあるだろう。

 だが、実際に会った時は複数の男をひれ伏させ、べたべたと体に触れ合う高潔とは正反対な行動をしていた。

 それは悪い意味で、リオにとって衝撃的な光景となっていた。

 その事を未だリオは引きずり、アインを気に食わないと考えている。


 と言っても、それなりに付き合いが長く、共にリフレスト領を護る為に戦った存在であるのだ。

 感情では納得しきれずとも、尊敬出来優秀で人格者の騎士であると理解はしている。

 その結果、リオの中でアインの印象は『ふしだらで気に入らないけど武官として尊敬出来る女性』という若干マイナス方面で固まってしまった。

 つまり、微妙に嫌いな同僚という修正が難しいある意味厄介な評価である。


 確かにアインの発言に不快に思ったリオだが、その事をリオは表に出さない。

 アインが理由もなく適当な事を言う女性ではないと知っているからだ。


「騎士アイン。どうしてそう思いましたか?」

 きわめて冷静にそう尋ねると、アインはにこっと微笑んだ。

「天秤伯と会った時に私は思ったんですよ。その精神が――綺麗すぎるんです。生き方があまりに綺麗だったから……やらかしたと聞いた時はある意味納得出来ました」

「ふむ……。すいませんが騎士アインの説明は私には良くわかりません。綺麗だとダメなのですか?」

 そうリオが言うとアインは少し考え、こう答えた。

「全く傷のない石ってこの世にある? 綺麗すぎる水に魚が住めないように、私達も綺麗なだけでは生きられないの」

 リオは少しだけ考え、アインの考えに理解を示した。

「私としては潔癖でありたいけど、そんな人はいないと」

 その言葉にアインは頷いた。

「潔癖を求めるって事は問題じゃないよ。ただ、人間離れした綺麗すぎる精神ってのがおかしいの。文句なしに綺麗な心の人なんて、綺麗に見せてるだけの嘘つきか何も考えてない道具の二択よ」

「なるほど。アインは人心という物に詳しい。恐らく正解なのでしょう……という事は天秤伯は嘘つきで何らかの目的の為にブラウン子爵を貶めようとしたという事ですか……」

「確かに違和感があったけど、出会った時に嘘を付いて綺麗になっているなんて思ってもみなかったわ。完璧な偽装をして数十年生きるって……どんな目的があったのかしらね」

「または、完璧に行き過ぎて歪んでしまったのかもしれません」

 そうリオが言うと、アインは小さく頷いた。




 アインは読心と呼ぶに匹敵するほど人の感情に、気持ちに敏感である。

 だからこそ、リオが難しい感情を自分に持っている事を理解しているし、その理由も潔癖であるリオだからこそどうしてかもわかっている。

 それでも、どうしようもない事だとアインは考えていた。

 自分の弱い部分、おぞましい部分、そして支えである部分。

 例え誤解であるとわかっていても、それを否定することはアインには出来ず、もやっとした気持ちのままアインはリオと接し続けていた。


ありがとうございました。

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