3-3話 鎧の街1
「お。目的地ってあそこ?」
アインは遠くの方を指を差しながらそう尋ね、リオをその方角を確認した後頷いて見せた。
「そうですね。あそこが今回の目的地である【ブリックメイル・ガイアス子爵領】内の首都【メイルタウン】になります」
そんなリオの言葉にアインは興味深そうに街を見つめた。
「はー。何と言うか……とても武骨な街ね。いや嫌味とか悪口じゃなくて」
「メイルタウンの名前通り、鎧が有名な土地ですからね。職人を中心とした街作りになっているのでその感想は間違いではありません」
リオの解説にほほーと同意の声を上げながらアインは楽しそうにしていた。
リフレスト領から北西に位置する領で、国境を有するブリックメイル子爵領は金属製の武具調達を主目的として建設された。
その為周囲には多くの炭鉱街が並び、ブリックメイル領だけで材料の調達から武具の仕上げまで行う事が出来るようになっている。
その首都であるメイルタウンも当然武具の製造に特化した街作りとなっており、この街で製造された鎧に至っては最高峰の品質であり、ノスガルドになくてはならないと言っても過言ではない場所となっていた。
ブラウン子爵領の食事がこの領にとっての武具、特に防具作りであると言えばその力の入れ具合が理解出来るだろう。
国境を有すると言ってもブリックメイル領国境先はどの国家にも属しておらず、国を持つに至っていない遊牧民がそこで生活をしているだけである。
その為ブリックメイルは国境を持ちつつも安全な地域であると認定され、ディオスガルズとの国境を中心に武具を送る任務を担っていた。
「というわけでこの辺りが紛争地域になる可能性は低いのですが……呼ばれたという事は何かあったという事なのでしょう」
リオは不安げにそう呟いた。
「――とりあえず行ってみましょう。国の為にも、ブリックメイル領の方々の為にも、そして我らがリフレスト領やプランちゃんの為にも、働かないといけないんだしね」
わざとらしく明るく振舞うアインにリオは苦笑いを浮かべ頷いた。
「そうですね。とりあえず行ってみましょうか」
そうリオが呟いた後、一同はリフレスト領では絶対に存在しえない職業――門番という存在の元に出向いた。
「メイルタウンにようこそ!」
フルプレートメイルを着込み、槍を持った四人の男達は背筋を伸ばしながらこちらに敬意を示し、声を揃えて歓迎の意を示してきた。
「徴兵で来ていただいた方ですね? 確認をしますので所属を教えていただけないでしょうか?」
門番の一人がそう尋ねると、リオは一歩前に出た。
「リフレスト領筆頭武官のリオ、ならびに武官アイン・シュートラ。そしてリフレスト領兵士十八人となります」
門番の一人が紙を取り出してリオと紙を見比べ……そして頷いてみせた。
「確認終わりました。……ですがもう一つ確認をしないといけない事がございまして……」
そう言いながら門番達は脇に避け正門の大きな扉を開いた。
「入門する際に、『なになにに忠誠を誓います』と宣言してください。何でも良いですよ」
「――どういう事ですか?」
リオが首を傾げながらそう尋ねると、門番の一人が門の前に立ち、高らかに声を張り上げた。
「私は、メイルタウンに忠誠を誓います!」
そう宣言した瞬間、開かれた門の前に赤い光の壁が生まれた。
どう見ても通れそうにない。
「と、こんな風に嘘を付くと塞がるようになっています」
そう言ったと、男は再度声を張り上げる。
「私は、ブリックメイル子爵に忠誠を誓います!」
次の言葉の瞬間に赤い光は消え、門は何事もなかったかのように通れるようになった。
「要するにアレです。他国のスパイ対策ですよ。本当に失礼な話なのですが……色々ありまして」
「いえ。理解しました。では私から」
申し訳なさそうな兵士達に軽く頭を下げ、リオは門の前に立った。
「私は我が愛すべき祖国ノスガルドに変わらぬ忠誠を誓います」
そう宣言するリオに対し、扉は何ら反応を示さなかった。
「……これ、入って良いですか?」
そうリオが尋ねると、門番たちはどうぞどうぞとジェスチャーをして見せ、言われるままにリオは門の奥に移動していった。
「……コレ、何でも良いのよね? 国に誓ってないから失礼とかないよね?」
アインがおそるおそるそう尋ねると、門番はガチャンと鎧を動かしながら大きく同意をしてみせた。
「さきほどの宣言通り、私が忠誠を誓うに相応しいと思っているのはブリックメイル子爵です。ですので、あなたが思う忠誠を誓うに相応しい相手で構いませんよ。流石に他国を出したら即捕縛しますが」
その言葉にアインは頷き、高らかに宣言した。
「私は――リフレスト領の当主プランちゃんに忠誠を誓うわ」
そう宣言した後、アインは門を通りリオの元に移動した。
「……少し驚きました。そこまでリフレストの事を想っていたのですね」
リオの言葉にアインは恥ずかしそうにはにかんだ。
リオもアインも昔からリフレスト領にいたわけではなく、一年程度の関係である。
呼ばれて出向いた関係に過ぎず、国ありきの契約であるとリオは考えていた。
決してリフレスト領にいる事が嫌ではない。
むしろ心地よいし自分のすべきことも多くある。
そしてプランに対しても確かに尊敬する部分もあるのだが……それでも忠誠を誓うに相応しいかと言えば否である。
単純に、共にいた時間が短すぎるのだ。
そうリオは考えていた。
「大切な物ってのは人それぞれよ。そして、私の大切な物をあの子は大切にしようとしてくれる。私が忠誠を誓う理由なんてその程度よ。……軽蔑するかしら?」
そうアインが尋ねると、リオは苦笑いを浮かべた。
「まさか――むしろ尊敬して……そして少しだけ嫉妬してしまいそうです」
そんなリオにしては珍しい言葉にアインは驚いたが、それ以上深く聞く事が出来ず曖昧な笑みを浮かべ誤魔化した。
残った兵士達のうち十人、リフレスト領生まれの者はリフレスト領に忠誠を誓い、残りの八人、アデン男爵領だった者は自分達を指揮してくれた元隊長『難攻不落の鉄壁ガドラ』に忠誠を誓い門の中に入っていった。
『申し訳ありませんが領主様は忙しくて……。更に言えばあっちもこっちもしっちゃかめっちゃかになっておりますので申し訳ありませんが訓練所の方に……』
全員が門を通った後、門番は申し訳なさそうにそう言葉にした。
それに頷いた後、一同は言われるままに訓練所の方に出向いた。
「これは……思ったよりもマズイ事態になっている可能性がありますね」
リオの呟きにアインは首を傾げた。
「ん? 何がマズイの?」
「訓練所の方に兵を集めている事です」
「どして? 訓練する場所なんだし兵集めたり色々と都合が良いんじゃないの?」
「いえ……。訓練所に人を、徴兵された人を集めるという事は多くの兵、武官がそこに集まるという事になり、必然的に訓練所が止まってしまうという事を意味します」
「ふむふむ」
「わざわざ訓練所を指定したという事は、訓練所が止まっても困らないという事でもあります。つまり、兵士としての訓練を受けているはずの方々すら任務に就いているという推測が出来てしまうという事です」
「あー。確かにソレはまずい。見習い全員が何か仕事をしてるって事は、仕事が飽和してパンクしかかっているという事……だよね? 具体的に言えばリフレストスタイル」
その言葉にリオは頷いた。
「つーまーりー。逆の見方をすれば、手伝う仕事が沢山あって功績を稼ぎやすい……という事にもなるんじゃない?」
そう明るく言ったアインを見て、リオは苦笑いを浮かべた。
「その発想はありませんでした。ですが……確かにその考えも正しいです。一緒にがんばりましょうか。我々の領主と領民の為に」
「うん!」
リオの言葉に賛同し、アインは満面の笑みで頷いた。
ありがとうございました。




