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男爵令嬢の辺境領主生活  作者: あらまき


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2-2話 何にもないけど頼れる仲間はたくさんいます。だけどみんな変人です

 出兵の手配に入る為、リオとアインは会議室を出て二人で作戦会議に向かった。

 さあ、これで話し合いは終わり!さあ安心して明日から生活しよう!

 残念ながら、そんなわけにはいかない。

 そもそも国に言われて兵を出さないと行けない事が問題なのではない。

 借金と小麦、大麦の値上がりにより飢える可能性があるほど貧乏なのが問題なのだ。


「筆頭文官。領民の心配は――」

「そこだけは問題ないです。再来年までは領民の食事情を心配する必要はありません」

 プランの質問にヨルンが答えた。

前領主の時代からだが、リフレスト領は領民、それも農民に食料を最優先で回している。

 食が細ると働けない。

 食に心配があると子供を残せない。

 だからこそ、食料の配給割合を領民最優先としている。

 つまり――真っ先に飢えるのは領主の館に住む我々である。


「筆頭文官。何か手は――」

「ありません。文官として告げます。もはや現状維持すら不可能な領域に達しており、最良の未来はブラウン子爵に領を明け渡す事と想定しております」

 それは事実上の降参である。

 そのヨルンの言葉にその場にいる全員を動揺させた――プラン以外。

「ですので、手段は選んでいられません。プランさん。恥も名誉も全て捨て、出来ることをしてください」

「オッケー! とりあえず足掻こう!」

 ヨルンの呼び方が変わったということは、ここからは領主としてのまじめな会議ではなく、リフレスト領のプランとしてのやり方を行えという意味である。


 ヨルンは知っていた。

 どうしようもなく、限界を過ぎた状態……だとしても、プランの極端かつ斬新な考えに付き従えば奇跡が起き何とかなるということを――。




「というわけで、私の一つ目の作戦が来るまで時間があるので、それまでにこの中で誰か何か良いアイディアよろしく!お金と時間がかからず領の未来が明るくなるような意見はよ!」

 ニヤニヤしながらばんばんと机を軽く叩き、テンションを上げていくプラン。

 半ば無理やりテンションを上げているだけだ。

 既に状況は笑わなければやっていけないというレベルにまで到達していた。

 それでもプランは笑った。皆と力を合わせたら何とかなる――そんな自信があるからだ。


「意見ではないんだが、一つ聞きたいことがあるんだが」

 そう言ってハルトが手を上げり。

「はいハルト。質問どうぞ!」

「お、おう。リカルドの事なんだが、お前領の為に何かしてなかったっけ?」

 プランのテンションに若干引きながらハルトはリカルドに質問し、リカルドは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「ああ……本当は終わった後驚かせたかったんだが、もうそうは言ってられないしな。俺は池の魚を狙ってる」

 リカルドの言葉に、プランはぴくっと耳を大きく動かした。

「ほうほう。続けて」

 プランの言葉にリカルドは頷いた。

「ああ。他の兵士が昔外資の五割があの大きな池からの出品だと聞いてな。それなら俺が兵士と協力して取ることが出来たら、助けになるかなと。後プランちゃんに魚を食べて欲しかったからな」

 ――お、おう。ストレートな好意がくすぐったい。

 プランは若干照れつつも、その意見を考えてみた。

「……ヨルン。二つ聞くわ。一つはどうして今まで漁業を再開してなかったの?もう一つはどうして父の代の時、食卓に魚が出る割合が少なかったの?」

 ヨルンは頷きながら答えた。

「そのどちらの質問も結論は一つの答えに行きつきます。あの大きな池は半ばダンジョン化しているからです」




 ダンジョン。

 突然地面から湧き上がる未知の迷宮。

 何が起こるかわからない不思議な空間であり、そこから現れる魔物は人を襲う。

 つまり、ダンジョンを放置すると際限なく魔物が溢れ、地上に出てくる。

 領どころか国すら滅びかねない危険なものである。

 しかし、大きなメリットも存在する。

 武具や宝石など貴重な品がダンジョン内に落ちてあり、更に奥に住む(ヌシ)は宝物を集めている。

 それだけでなく、魔物は素材ともなる為、安定して冒険者を供給出来た場合は無限の資源にもなる。

 主が不在のまま三、四日ほど経過したらダンジョンは消滅するのだが、わざと主を残してダンジョンを資源とする領も少なくはない。


 と言っても、あの大きな池はそんな良くあるダンジョンとは意味が異なる。

 何故かダンジョンのような有様に成長してしまっただけで、ダンジョンではなく結局はただの大池である。ただし、不思議な大池ではあった。

 普通の大池とどう違うのかと言うと、(おも)に存在する魚の種類が異なる。

 淡水のはずだが、そこにいる魚は淡水魚だけでなく海水魚も混じっていて、そもそも魚なのかわからない存在からサメやクジラ、挙句の果てには魔物まで存在していた。

 もはやびっくり箱という有様であり、何が捕れるかわからない為そう易々と手が出せなかった。

 先代の頃は予算に困る度に兵士をかき集めて漁業と言う名の狩猟を行っていた。

 何が出てくるか予想できないが、当たった場合は非常に大きい儲けが出る。

 以前十メートルを越える魚が釣れた時は、それ一匹で年間予算の三割ほどとなったくらいだ。


 では何故プランになってから漁を行っていないのかと言うと、単純に危険すぎるからだ。

 担当していた武官全員がこの領に返ってこれず亡くなった為、漁業のノウハウが消失している。

 それに加えての兵士不足である。以前の領主のように人手を集めてごり押すという作戦が取れない。

 そんなに強い魔物は出ないとは言え、魔物との戦闘経験を有する者がいない為、相当危険と言わざるを得ない。




「それで、大池の問題は何とかなりそうなの?」

「まだ挑戦するのは危ないな。こそこそと準備や訓練をしていたからまだ五割くらいしか進んでいない」

「なるほど。何が足りない?」

「戦力。特に人数だな。兵士との連携訓練が出来るなら計画は相当楽になる」

 プランの質問にリカルドはそう尋ね、プランは考える。

「……もし、ハルトを使って良いならどのくらいの期間で実行できる?」

「――準備期間一月以内で実行に移せるね」

「わかった。ハルトと相談して準備に当たってくれる?」

「りょーかい。じゃあプランちゃん。行ってくるね。ハルト、兵士んとこ行くぞ」

 リカルドは座っているハルトの方に向かいハルトの背中をとんと叩いた。

 それに対し、ハルトを冷たい目をした。

「俺の意志はどこに行ったんですかね……」

 そんなハルトの言葉に、プランは微笑んだ。

「あら? この場に残って意見を出していただけますか?」

 プランの言葉にハルトは残されたメンバーを確認した。


 領主であるプランに筆頭文官であるヨルン。

 そして一応食客ではあるが文官相当のミハイル。

 生真面目な空気の男を見て、この場に残るのは悪手でしかないとハルトは理解した。

 そして何より――ハルトは考えることが嫌いだった。

「おっし。リカルドの協力しつつ、少ない人数で見回り出来るよう兵たちと相談してくるな」

「いってらっしゃーい」

 にこやかな顔で逃げるようにリカルドの後を追うハルトを、プランはとても良い笑顔で見送った。




「さて……。ヨルンと兄さんにここに残ってもらいましたが、二人にはお願いしたいことがあります」

 プランは机に肘をかけ、両手を顔の前に組み神妙な面持ちをした。

「ヨルンはまだわかりますが、今や身分のない私にもですか?」

 ミハイルの質問に、プランは頷いた。

「とりあえずヨルンと協力して文官代理相当の身分をもぎ取ってまいりました。これより兄さんは文官代理のミハイルとなってもらいます」

 平民である身分なしが、一気に準貴族相当の身分を手に入れたことになる。これも手続きやら何やらで相当苦労したが、それでも必要なことだった」

「わかりました。元々文官目指していたのでありがたいことです。それで次は?」

 ミハイルの言葉に、プランは頷く。

「はい。続いて文官代理のミハイルには領主補佐の任を就けます。正式な文官でしたらナンバーツーの立場ですが、文官代理ですのでナンバースリーとなりますね」

「はい。食客から三位まで上がるとかシンデレラも真っ青な昇進ですね。そこまでするのは、一体何が目的でしょうか?」

 ミハイルの言葉にプランは険しい顔をした。

「実は私も聞いてないんですよ。プランさんは何がしたいのでしょうか?」

 ヨルンの言葉に、プランは小さい声でゆっくりと話し出した。

「私のしたかった事は、いざという時に、下げる頭の価値を極限まで上げておきたかったのです」

「は?」

 ヨルンとミハイルの声が綺麗にハモった。

「バレなかった場合は大丈夫ですが、もしバレた場合は全員で頭を下げる必要があります。首を斬られるのは私だけですが、それでも多少は御覚悟下さい」

「一体……どんな計画を考えたのですか……」


 ヨルンがそう尋ねた瞬間、ノックの音が響いた。

 丁寧な四回ノックの後、ドアを開けて静かに一人の女性が入ってきた。

「失礼します。プランさ――領主様に呼ばれたので来ましたが、ここで合ってますか?」

 心配そうに入ってきた女性の名前はメーリア・ダルジーナ。

 リフレスト領第一の村、ファストラに住むクリア教の司祭である。

 彼女を見た瞬間――ヨルンとミハイルは土下座する相手を理解した。

 

 ブロンドのロングヘア―をなびかせる美しい女性、メーリアは若い身ながら司祭という位についている。

 宗教というものは重要なこの世界において、司祭になるということはとてつもないことだった。

 具体的な地位というわけではないが、それでも準子爵相当の地位であると思って良いだろう。

 つまりメーリアは生粋のお嬢様であり、未来の約束されたエリートでもあるということだ。

 そんな蝶よ花よと大切に育てられたメーリアに変な事でもさせようものなら、クリア教の教団からどれほどの怒りを買うか想像も付かない。

「あってるよメーリア! 突然だけど、大規模農場とかやってみない?」

 プランの言葉にメーリアが瞳を輝かせた。

「え!? 良いんですか?」

 素晴らしい食い付きを見せるメーリアに、プランは微笑み頷いた。

 育てるのが好きと聞いていたが、どうやら本格的な農業も好きらしい。

 この瞬間――ヨルンとミハイルは教団に土下座する覚悟を終えた。


 多少の農作業ならともかく、領地運営に関わる土いじりなんかを司祭にさせたとなると怒られるで済まないことはプランも理解している。

 しかし、それに鑑みたとしても、メーリアの持つ農業技術と知識に頼る価値を見出していた。

 メーリアが趣味で育てたというプチトマトは、少ない面積の畑にもかかわらず領内全員に行き届いた。はっきり言って異常である。

 だから、今はその技術に是非とも頼りたかった。

 来年の、再来年の領の未来の為に――。


「これから余った兵と人を使って出来る限り畑を開拓していくわ。開拓最初だから土の質は良く無いでしょう。それでも、出来ることをしてほしいの。ぶっちゃけて言えば、再来年にリフレスト領がなくなってる可能性があるの」

 プランの真剣な様子に、メーリアも真剣な様子で聞き、そして尋ねた。

「私に何を求めますか?」

 メーリアの質問に、プランは答える。

「出来ること全てを、麦畑にぶつけて欲しい」

「全力ということですか?」

 プランはこくんと頷き、その様子を見たメーリアは酷く邪悪な笑みを浮かべた。

「うふ。うふふふふふ。ああ。色々していいのね。もう我慢しなくていいのね。うふふふふ」

 この一年、ずっと真面目な人だと思っていたが、どうやら彼女()変わり者だったらしい。

 農業が出来ないことに相当鬱憤を溜めていたように見える。

「こほん。失礼しました。では、二つほど条件をつけていいでしょうか?」

「ええ。といっても、金も人もないから大したことは出来ないけど」

 その言葉に頷き、メーリアは指を二つ立てた。

「一つは、食料が出来るまでの間の聖水全てを、農作業に使わせて欲しいということです。成長促進はもちろん、病気耐性や安定性などと色々効果があるのは研究済みです」

「ええ。それはこっちからお願いしたいくらいよ。もう一つは?」

「二つ目、畑を二割ほど自由に使わせて下さい。研究兼用として何か栽培したいので。絶対に役立つ物を用意しますから」

 メーリアはすがるような瞳でプランを見ていた。

「それも問題ないわ。じゃあ、お願いして良いかしら?」

 プランのことばに、メーリアは満面の笑みを浮かべて頷いた。

「はい! 領の為、国の為に農業が出来るなんて、本当に夢みたいです!」

「うむ! というわけで今からメーリアはファストラ村の農業従事者総監督に任命します。農業に携わっている人で農業関係なら誰にでも命令して良いわ」

「ええ!? 私ごときが命令しても誰も聞いてくれないですよ……」

 驚いて困惑するメーリアに、プランは微笑み首を横に振った。

「大丈夫。皆協力してくれるよ」

「……そうでしょうか。でも、確かに皆良い人ですし……わかりました。がんばってみますね」

 そう言ってメーリアは部屋から立ち去った。


 もちろん、農民は皆メーリアの言うことを聞いた。

 農業の知識や技術があるのを村人が知っているのもだが、何より綺麗な女性に命令されて嫌がる男はこの村に一人もいなかった。



ありがとうございました。


次でキャラ紹介兼用のプロローグは終わると思いますのでもう少々お付き合いください。


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