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男爵令嬢の辺境領主生活  作者: あらまき


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2-1話 頑張りましたが一周回り、結局また貧乏になりました

ブクマ二百達成記念に少々早いですが復帰します。

といってももう一個が終わる気配をまだまだ見せないので、こちらは不定期な更新となります事をご了承ください。


応援してくださり本当にありがとうございます。


ラノベにして二巻目相当、はじまりはじまり~

 

 アデン男爵領との騒動の跡片付けに追われ、気づいたら五月という時期になっていた。

 本来なら、苦難である冬の生活が終わりを遂げた後の春先の為、生活が安定し始める時期で農作業も本格化し、また獣も良く姿を見せるようになる為狩りも盛んになる。人々の生活に彩りが見え始める時期と言えるだろう。

 それに加え、五月は領主の誕生月でもある。

 今回の誕生月は領主になって最初の誕生日であり、それはただの誕生日というだけでなく、とても重要な意味があった。

 これでようやく十六歳。

 大人として認められる最低限の歳であり、今まで特別措置として認められていた領主の権利が正式にプランの物となる。

 明るく希望に満ちた五月という月……そうだったら良かったのだが、現実はそうはいかず、今回は誕生日を祝う余裕すらなさろうだった。


 アデン男爵領との騒動は粗方決着を迎えた。

 しかし、その騒動は間接的にではあるが予想外の部分で大きな爪痕を残し、それがリフレスト領過去最大の危機をもたらしていた。




 領主の館での一室、今まで使ったことのない会議室に関係者が(つど)っていた。

 いつも大人数での会議は大体客間で済ませている。

 一階の正門付近に客間が位置する為、出入りが楽で利便性が高かったからだ。

 しかし、今回はあえて普段使わない二階にある専用の会議室で話し合いをすることになった。

 リフレスト領の未来がかかっている重大な会議だからだ。


 赤い絨毯に豪華なシャンデリア。

 見た目だけは豪勢だが、実際はそれほど高価なわけではない。

 それでも、見た目に気を付けている分他の部屋よりは金がかかっている。

 長方形で角を丸くした大きなテーブルに一同は揃って座り、重苦しい表情を浮かべていた。

 一人はため息を()き、一人は睨むような鋭い視線で正面を見据え、一人は眉をしかめ苦悶の表情を浮かべていた。


 ここにいるのは、領主のプランに筆頭文官のヨルン。

 筆頭武官となったリオにその部下となる武官のハルトとアイン。

 そして食客のリカルドとミハイルの計七人である。


 座っている椅子は大体同じなのだが、一つだけ若干大きな椅子が混じっていた。

 一回り大きく、職人が意向を凝らした細工のされている木製の豪華な椅子。

 その椅子に座るということは、この中で一番立場の高い人物という証左でもある。

 そんな椅子に座っているのは、もうじき十六になろうという若い少女だった。

 ここにいるのは若い人しかいないのだが、その中でも特に若く、見た目が歳以上に幼く見える為なお子供に見える茶髪のショートカット。

 その少女こそが、このリフレスト領の領主であるプラン・リフレストその人だった。

 領地運営の才はからっきしなく、全てを人任せにしている領主であり、そして領民の痛みや苦しみを知る誰よりも優しき領主である。


 そのプランの右手に座っているのが筆頭文官のヨルン・アイス。

 領地運営の中心人物であり、プランがハンコを押すだけで領地運営が何とかなっているのは彼のおかげでだった。

 実質的には権力の頂点に位置するのだが、こんな辺境でしかも貧乏な領だ。

 旨味など一切なく罰ゲームすらも生ぬるい地獄のような環境――。

 しかも失敗した場合責任を負うのは、ヨルンではなく領主であるプランとなる。

 自分にとって妹のような存在でありプランに失敗の責任を押し付けるようなことは絶対にしたくなく、更に元領主であるプランの父に大恩あるヨルンは、文官三名と協力者一名というたった五人で毎日ギリギリの領地運営を続けていた。


 その反対側、プランの左手にいるのが筆頭武官のリオ。

 最年長の二十二歳という歳の割には幼い顔立ちであり、そして誰よりも騎士に憧れを持つ男である。

 器用万能を地で行くリフレスト領の中でも特に有能な人物であり、直接の戦闘はもちろん、部隊指示から兵士教導までそつなくこなす。

 リフレスト領に来て一年も経っていないが、アデン男爵領との内乱の危機を救った功績と実力から、文句なしで筆頭武官に任命された。

 少々堅物で真面目が過ぎるのだが、それを引いても文句なしの頼れる騎士であった。


 リオの席に続いて、ハルトとアインという二人の武官が椅子に座っている。


 領地運営における領主の手足となる文官と違い、武官には領を守る手足としての役割に加えてもう一つ、特別な役割がある。

 文官は国に金銭に絡む功績を残し騎士と認められたらなれる為、能力さえあれば文官になるのはそれほど難しいことではない。

 しかし、武官は正式に中央で直接任命されないとなれず、また任命される為には厳しい試験が存在する。


 毎度違う試験ではあるのだが、試験には絶対決まっている最低条件があった。

 中央で鍛えられた屈強な兵士二十人を練習用の木製武器で相手取り、全員を殺さず倒すことだ。

 それに加えて、暗所だったり閉所だったり、三日間のサバイバルだったりといった様々な条件が試験には付け加えられる。

 武官に求められるのは指揮能力でも、有能性でもなく、強さその物である。

 いついかなる時でも強くあり、そして有事の際には国を守る兵器と化す。

 それが武官の役割だった。


 それでもこの国『ノスガルド』では文官よりも武官の方が圧倒的に多い。

 これだけなるのが大変で、文官は緩い条件に緩和されているにもかかわらずだ。

 理由は単純で、この国は学ある者が少なく『頭を鍛えるよりも体を鍛えた方が手っ取り早い』という脳みそまで筋肉とトレーニングに汚染された考えがこの国に蔓延っているからだ。


 そんなノスガルド的脳筋思考に染まっている武官のハルト・ゲイルは領主であるプランととても親しい。

 と言っても、そこに恋愛感情は一切なく、兄妹、というよりは兄弟という関係の方が近いだろう。

 十八歳というプランと近い年齢であるハルトは、幼い頃からプランの兄として一緒に遊んでいた。

 領主の娘なのに自由なプラン、それと共にいる同じく自由なハルト、そして生真面目で二人の兄となり二人を良く叱っていた筆頭文官のヨルン。

 この三人は子供の頃いつも一緒に居て、今でも幼馴染として深い友情で結ばれていた。

 長い事一緒にいたにもかかわらず、三人の間で一切の恋愛感情が生まれなかったのはプランの良い部分であり、悪い部分でもあった。


 武官という騎士としての階級を預かっているハルトだが、武官という貴族や騎士としての見た目や態度からは大きくかけ離れていた。

 黒のオールバックに鋭い目つき、背が高く肩幅の広いハルトは盗賊や強盗といった方が近い外見である。

 そんな見た目でもハルトは領民から、特に子供達から好まれていた。

 怖い風格に加え態度が悪い。しかし性根が優しく面倒見の良い青年。

 それがハルトの総合的な評価だった。

 そんな彼には本来頼れる先輩や尊敬できる上司である武官達がいた。

 しかし、不幸があり、生死問わずに武官は全員いなくなってしまった為、望まないながらもハルトは最古参の武官となってしまった。


 アイン・シュートラは一番の新入りで、少々問題がある女性だった。

 複数の男性と付き合いがあるらしく、二桁の男性と共に領に入り、そしてアインの男全員が、村の中で生活を持った。

 そんな良くわからない人物の為、潔癖なリオとは少々相性が悪い。

 しかし、領主のプランとは何故か仲が良かった。

 プランにとってアインは、かっこよくて綺麗で優しくて強い。

 自分の理想の姿だったからだ。

 男を複数侍らせているのは見習いたくはないが、それも何か理由があるのだとプランは感じていた。

 だからこそ、アインはリオともいつか仲良く出来るだろうとプランは信じている。


 この五人が領の中枢人物であり、正規の陣営である。

 そして食客、一言でいうなら外部からの手伝いが二人いる。

 ただし、食客ではあるのだが少々込み入った事情があり、ただの食客という立ち場ではなく、副運営陣と言える存在である。


 一人目のリカルドはこの領内にいた元盗賊である。

 と言っても、老人や子供を守る為に立ち上がった義賊に近い人物だ。

 そんな彼は領主であるプランに何故か一目ぼれし、全ての罪を認めて濯ぎ落とし、リフレスト領の食客となった。

 弓を主に使い狩猟を得意とし、また同時に魔法使いでもある。

 見た目から能力、その行動理由まで全てが他の人とズレている。

 不思議な魅力があり、以外と真面目な為プランとも悪い関係ではない。

 ただし、プランはリカルドに対して友情より上の感情は持っていなかった。


 二人目の食客の名前はミハイル。本当の名前はミハイル・リフレスト。

 プランの兄ではあるのだが、公的には死亡したことになっており、また色々ややこしい問題が残っている為、別人の()()()()()()()として暮らしている。

 武官と違い文官は就任するのが難しくない為、ただのミハイルとして文官になり、領を、妹を支えるのが今の目標である。

 そんなミハイルはプランと血がつながっていると信じられないほど美形だ。

 童顔で若干くせっ毛のプランと違い、薄い金髪で整って大人びた顔立ち。

 そして性格も能力も正反対である。

 常に冷静で領地運営としての能力は元領主である父よりも優れ、同時に政治の細かなバランス感覚も優れていた。領主となるべき能力を全て備えた人物といえるだろう。

 ただし、本人は自覚があまりないが冷徹で表情をほとんど変えない為、人に冷たい印象を与えている。

 例外として、妹であるプランと一緒にいる時だけは彼は柔らかい微笑みを浮かべていた。

 破天荒で自由なプランと、生真面目で冷徹なミハイル。

 正反対だからこそ、バランスの取れた二人の兄妹だった。

 唯一欠点を上げるとしたら、冷静な表情が崩れるほどシスコンであるということだけだろう。



 そんな領地運営の主要人物が勢揃いの中、プランは遂に重たい口を開いた。

「それでは、緊急会議を始めます」

 普段会議を取り仕切るのは筆頭文官だるヨルンの仕事だが、今回は何時もの比ではない程重要な会議の為、領主であるプランが取り仕切ることになっている。

 議題内容はもちろん、領の未来について。

 有体に言えば、貧困についてだ。リフレスト領にとって貧困とはいつもの事である。

 辺境の地であり、ないない尽くしのリフレスト領が貧乏なのは何時もの事なのだが、今回はその何時もの事で済まなくなっていた。

 一言で纏めるなら――領存続の危機レベルである。


「筆頭文官、事情説明を――」

 いつになく真剣な様子でプランはヨルンに話しかけ、ヨルンも真剣な様子で頷き立ち上がる。

「では――説明します」

 眼鏡の位置を直しながらヨルンは資料を見つつ、全員に詳しい状況を話し出した。




 アデン男爵領の内乱で手に入った物は売り払い、それでも資金は足りずに国に対し借金をしたリフレスト領。

 ここまでなら、痛くはあるがまだ問題のない範囲である。

 これに加え、国内の不作と戦争準備による物価の高騰が発生し、計算が若干狂った。

 そしてリフレスト領の内情にとどめを差したのは――奇しくもアデン男爵領との内乱が原因であった。

 本来なら困難であるはずの相手に、あっさりと勝ってしまったのがまずかった。

 圧倒的に勝ちすぎてしまった為に、免除されていた国への軍事的奉仕義務、つまり兵役が復活してしまったのだ。


 ある程度は中央も納得しているので何とかなる範囲ではあるのだが、兵役には色々と準備が必要である。

 特に問題なのが兵の食料、軍事行動には大量の保存食が必要となっていた。

 当然、中央は用意してくれない為自前で準備しないとならない。


 元アデン男爵領兵士が一部兵に加わり、また農家兼用ではあるが村人も兵士に志願してくれた為、兵士の数は増えて三十人となっている。

 ただし、この兵士の半数以上は中央に送らないとならず、生活は楽になるとは言えずむしろ大きくマイナスとなるだろう。


「それで、時期と期限、それと人数はどうなっているのでしょうか?」

 リオの言葉に、ヨルンは資料を見ながら答えた。

「まず、送るのは今月です」

「今月!? 準備間に合うのですか?」

 声を荒げリオが尋ねると、ヨルンは平然と頷いた。

「はい。今でも裏で文官達が必死に準備してくれています。本当の意味で必死に」

「…………」

 三徹くらいなら軽くこなすヨルンが必死という言葉を使うあたり、裏ではどのような地獄が繰り広げられているのか想像すらできず、リオは黙る事しか出来なかった。

「それで帰還日は十月から二月の間ですね。雪の具合次第では雪止めまであちらで生活していただきますが、どれだけ長くても二月には帰ってこれると思います」

「了解しました。人数はどの位用意しますか?」

 リオの質問にヨルンが応える。

「二十人と武官二人を送ろうと考えています。確かにしんどいですが、ギリギリまで送らないとならない訳がありまして」

 半数以上の兵士と三人の武官の内二人を送るというのは、はっきり言えば異常な事である。

 リフレスト領の規模なら武官一人と兵五人くらいが本来なら妥当なところだろう。

 人数が多ければ多いほど、かかる出費が増え、領の防衛力が落ちるからだ。

「それで、無茶をして人を送る理由は何?」

 アインが話に混ざり、ヨルンはそれに少々困った顔で答えた。

「当主様によるリフレスト領の正当性を示す為と、二度目の兵役を免除してもらう為です」

 今回のリフレスト領からの兵役は中央も望んでの事ではない。

 しかし、他の領主との兼ね合いで兵役を免除することは中央政府でも出来なかった。


 父親の問題に加えて年齢が若く、また女ということでプランは領地を継ぐ正当性が薄い。

 その為、他の領主が合法的にリフレスト領を食い物にしようと色々画策した。

 中央政府はリフレスト領が食い物になることを望んでおらず、出来るだけ有利な条件を付けようと領主達と舌戦を繰り広げ、その結果今回の兵役という形になった。

 中央政府はお詫び代わりに『今回で戦果をしっかりと稼げば、兵役を当面の間免除する』という確約をおまけとして付けた。

 『ギリギリではあるが、リフレスト領に頑張って欲しい』という中央政府並びに王からのメッセージだとヨルンは今回の事を受け止めた。

 もし、来年に兵役に兵を出す羽目になった場合、間違いなく今より悲惨なことになる。

 そのためこの兵役では絶対に戦果を出さないといけなかった。


 全ての事情を考慮した上で話し合った結果、リオとアインの二人に、戦闘能力が高い順に十八人の兵士と四頭の馬を兵役に連れていくことが決まった。


ありがとうございました。

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