2-3話 忙しくて大変でも、蔑ろにしてはいけない日
「第一の計画としてメーリアの農場サクセススト―リー。第二の計画としてリカルドのお魚美味しい作戦。そして、最後の三つを合わせてこの領の方針とします」
プランは残っているヨルンとミハイルにそう伝え、二人は頷いた。
「メーリアさんに任せただけで、しかも最悪クリア教教団に土下座が待ってますがね」
そうヨルンが呟き。
「しかも二つ目はプランを愛しく思っているリカルドをこき使うだけというね。悪女となってしまったプランに兄は心配です」
ミハイルがヨルンの後に続きそう呟く。
二人の呟きと視線を受け、プランは目を瞑り、耳を塞いだ。
「あーあー。聞こえませーん。出来る人に任せただけだから私悪くないですー」
プランは罪悪感を覚えた様子でそう喚き、その様子を二人は微笑ましく見つめた。
本気で責めるつもりはない。
出来る人を信じ任せるというのはそんな簡単な事ではない。
確かな交友関係を持ち、相手に出来ることを任せ、そして自分は何があっても責任を取る覚悟を持つ。
それを軽々と行うプランに二人は尊敬しており、当然貶す意図はまったくない。
むしろ、プランが全て率先した場合の方がある意味恐ろしい事になるからこれがベストな選択である。
だがそれはそれとして、二人はプランを遊んでからかっていた。
「それで、最後の計画とは誰に頼るのでしょうか?」
ミハイルの質問に、プランは細目になり何やら難しい顔を見せた。
「お兄様……実際その通りですがあんまり言いますと泣きますよ? 恥も外聞も捨てて泣きますよ?」
「ごめんごめん。それで、最後の計画を教えてくれないか?」
「はーい。というわけで、ワイス。出てきて」
プランは自分の妖精石をテーブルに置き、そこから女性が宙に浮いた女性が姿を現した。
白いふわふわとしたドレスを着ている金髪ロングヘア―の麗しき女性。
背丈がある為大きめのドレスでも着られている様子はなく、むしろ美しいと評せる面立ちとその微笑は可愛らしいドレスすら見劣りして見えるほどだった。
この中にいる誰よりも高貴に映る彼女こそ、プランの契約妖精のエーデルワイスである。
本来の妖精は人型をしておらず、大体が球体に維持された光に蝶のような四枚羽がついたような外見となっている。
それでも人型に近い妖精ならそれほど珍しくない。小人のような妖精で人を助けるというのはざらにある話だ。
完全に人型で、しかも大きさまで同じとなれば相当珍しいだろう。
そして、それ以上に珍しいのは話せる事である。
話せる妖精という存在は、宝の地図と同じような存在である。
皆が知っているが、本物を実際に見た者はほとんどいない。
そして妖精という存在は非常に長生きで、そして賢い生き物である。
つまりワイスは人以上の知性を持ち、人の知らない事を多く知っている賢者という事だ。
「はーい。うーん。この姿で外に出るのって久しぶり」
そう言いながらワイスはふわふわ浮きながら楽しそうに体を伸ばした。
「話は聞いていたよね? 何か良いアイディアない? ぶっちゃけ一番頼りにしているんだけど」
プランの言葉にヨルンもそっと頷く。
文官の力で運営を行うと確実な衰退が待っている事がわかった時、起死回生の手段を求めたヨルンの最大の期待はワイスだった。
数百年、もしかしたら数千年を生きたとさせる妖精の知恵、これほど頼りになるものはないだろう。
「期待は嬉しいけど……難しいかな。妖精って基本好き勝手生きてるし、領地運営のノウハウとか当然なければ金策も難しいわ……」
ワイスの申し訳なさそうに呟き、それを見てヨルンは表情を暗くさせる。
そんなワイスにプランは微笑みかけた。
「大丈夫! ワイスにしてほしい事はそんな事じゃないから!」
領の危機である事くらいワイスも理解している。
だから必死に知恵を絞り悩みながら答えたが、プランは軽く『そんな事』と言い切った。
その様子に、ヨルンは微笑んだ。
――余裕がない状況とは言え、相手を利用することしか考えていませんでした。だから私はプランさんに全てを任せたんですよね。
ヨルンがそう考えたのと同じように、プランはワイスの手を握り笑顔で言葉をかけた。
「ワイスのやりたい事を教えて。それがきっとワイスの出来る一番すごい事だから。ワイスの出来る得意な事をして私を助けて欲しいの」
妖精とは本来、わがままで自由ないたずらっ子。好き放題して生きるのが当然の生き物である。
それをワイスはプランに遠慮し、我慢して苦手な事を考え助けようとした。
会議室に集まった他の人と同じように。
だがプランの答えは逆で、好き放題して欲しいという物だった。
信頼し、その上で自由に生きて欲しい。それが一番助けになるから。
それはワイスにとって殺し文句に他ならない。
「うぅ……プランちゃん! 本当に大好き!」
ワイスはプランに飛び込みプランを抱きしめた。
「私もワイスが好きよ。 この顔に当たる気持ちの良い柔らかみには若干の怒りと大きな悲しみに襲われるけど」
ワイスの胸に埋もれて見えないが、今プランの顔は相当複雑な心境を現しているとヨルンもミハイルも理解出来た。
「そういう事なのでプランさんはワイス様とお二人で相談してきてください。難しい事はこちらで行いますので」
ヨルンの言葉に、プランもワイスも不満そうな顔を浮かべた。
「領主である私にさん付けで、ワイスには様っておかしくない?」
「――立場的にワイス様の方が上ですので。何もおかしくないですね」
「……間違ってない」
若干不満そうなままプランは納得し頷いた。
「私の方は不満マシマシよ。プランの友達なら私とも友達のはずよ? あ、もしかしてプランのこいび――」
「それはありえません」
ヨルンは無表情のまま即答した。
照れ隠しとかそういう感じではなく、普通に拒絶した感じなのがプランの女性としてのプライドを傷つける。
「私の友人だからねヨルンは。プランの事も妹としてしか見れないのだろう」
苦笑しながらミハイルはそう呟き、ヨルンは頷いた。
実際プランもヨルンの事だけでなく、ハルトも親しい間柄ではあるが男女の仲になるという考えは全くない。
既に肉親同然と考えている為、恋仲になる事を考えると蕁麻疹が出そうになるくらいである。
「まあ何でも良いけど、プランの友達なら私とも友達のはずよ? 様付けはなしにして欲しいわね」
ワイスのぷんぷんと怒る様を見て、ヨルンは微笑み丁寧に頭を下げた。
「失礼しました。ではワイスさん。プランさんの事をお願いします」
その言葉に満面の笑みを浮かべワイスは頷く。
「まっかせなさい! プラン行こう! 皆が驚く領の為になる事を考えましょう」
そう言ってワイスはプランの手を引っ張り会議室を去っていった。
プランが離れた事を確認し、ヨルンはプランの位置にあった少しだけ豪勢な椅子を除け、その位置に普通の椅子を置いた。
そして元の席に座り、ミハイルと二人で静かに時を待つ……。
今日もう一つの大切な会議の為に――。
十数分ほど時間が過ぎると、さきほど立ち去った人達がそっと戻ってきて、無言で自分の席に座りだした。
プランがいなくなったのを確認して、戻ってきたのだ。
再び参加したのはプランとメーリア以外の会議に参加した全員。
メーリアは、話をする前にさっさと村に戻り農業準備を始めた為、残念ながら引き留める暇がなかった。
そして全員は、元々プランのいた位置にある、誰も座っていない椅子を見ながら今回のまとめ役が来るのを待っていた。
ガチャッ。
扉の開く音が聞こえ、その人物は無言で歩き、上座――まとめ役が座る位置の椅子に腰を下ろした。
その人物の名前はフィーネ。
フィーネ・クリアフィール・アクトライン。
彼女はこの領地の者ではない。
侯爵であり、クリア教の枢機卿でもある異様なほどの天上人。
少なくとも、辺境領地に足を運んで良い人物ではない。
今日来た理由は単純に、フィーネがプランの事を親友と思っているからに他ならない。
ワイスに比べたら黄色の強い背中まである長い金髪。
金髪ロングヘアに清楚なドレスというワイスに似た容姿を持つが、十五という年齢の為か身長が低く、また顔立ちも幼い為似ている印象はない。
そして普段なら綺麗で流れるような長い髪なのだが、今日は少々髪が乱れてボサボサになっていた。
相当慌ててここに来たのだろう。
「さて、お呼びくださりありがとうございます。今日まとめ役をさせていただきますフィーネです。まずはお詫びを。領地の危機であるというにもかかわらず、友として全くの支援が出来ぬ事、わが身の恥でしかありませんが、ここに謝罪を――」
そう言いながらフィーネは周囲に深々と頭を下げた。
今回の騒動は他の貴族との問題も兼ねている為、フィーネも安易に手が出せないでいた。
友人の危機で、自分には権力という力がある。
それでも直接手助けができない事がフィーネの強い罪悪感となっていた。
「構いません。それにフィーネ様の事です。直接ではなく、他の貴族から庇う形でリフレスト領を支援して下さったでしょう?」
ヨルンがそう言うと、フィーネは驚いた様子でヨルンの方を見た。
確かにフィーネはクリア教の枢機卿という立場とポケットマネーを使い、リフレスト領に反感を持つ貴族達を大人しくさせていた。
だがそれは誰にも言っておらず、また辺境領主の文官程度が証拠を掴めるようなバレやすい方法でもない。
「どうして――」
フィーネの言葉にヨルンは勝ち誇った顔で宣言した。
「プランさんの御友人ですからね。それくらいするでしょう。もし私が同じ立場ならそうしていますしね」
嫌らしいほどのドヤ顔に対し、フィーネは微笑み、そして笑いながらヨルンにあっかんべーをした。
自分に注目が集まっている事を思い出し、フィーネは小さく咳払いをして本題に入った。
「時間もありませんしさっそく本題に入りましょう」
その言葉に全員が頷き、真面目な顔になった。
特にリカルドに至っては、命を賭けたようなそんな男の顔を浮かべているほどである。
そう、来たるべきその日は明々後日の五月五日――プランの誕生日がすぐそこまで迫っていた。
つまりこの会議はアレである。
プランの誕生日パーティーをどう盛り上げるかを話し合っているに過ぎなかった。
「場所は私の権限で新しく出来た教会とその周囲を使いましょう。プランさんの事です。住民が参加できるようにした方が喜ぶでしょう。食料はこちらで用意してますのでご安心下さい」
支援という名目での長期の食料を送ることが出来ない。
だから誕生日会という形でフィーネは食料を用意した。
多少は余るだろうが、それはパーティーの規模が想定より小さかった為仕方のないことである。
「それでは、議題はいかにしてパーティーを盛り上げプランさんを楽しませるかで、話し合いましょう」
ヨルンはそう呟きフィーネの方を挑発的に見つめた。
フィーネも同じような表情でヨルンの方を見ていた。
全員が立ち上がり、各自で相談をしあっている中、ハルトが椅子に座りながら首を傾げている。
「ハルト、話し合いに参加しなくて良いの?」
そんなハルトの元にアインが話しかけてきた。
「ああアインが。いや、俺が筆頭武官じゃなくなったから騎士アインとかアインさんとか読んだ方が良いか?」
その言葉にアインは震えながら首を横に振った。
「何か気持ちわるいわそれ。ハルトはハルトでしょ。というか私筆頭武官だった頃でもハルト呼びだったし呼び捨てで良いわ。様付けでも良いわよ」
「んじゃアイン。教会でパーティーって良いのか? 確か熱心なクリア教信者だったはずだろ?」
「んー。良いんじゃないかしら? 天地開闢の神様がそんな細かい事でぐちぐち言わないでしょうし、配下であるフィーネ様がいる以上文句はないでしょ」
「そうか。まあ気にしてないなら良いんだ。俺は宗教とか良くわからなくてな」
「そう。んじゃ今度は私が質問して良い?」
アインの言葉にハルトは頷いた。
「ああ。なんだ?」
「いやさ、さっき何か悩んだ様子を見せてたからさ。困ったことなら相談してほしいかなって。言えない事なら何も言わなくて良いわ」
「ああ……その事か。いや、悩みってほどでもなくてな。大したことじゃないんだが、ちょっと違和感というか……」
ハルトの言葉にアインは神妙な顔になり、同じように首を傾げた。
「ああ。私もよ。良かったら何でそう思ったか教えてくれない?」
「んー。ヨルンの事なんだがな……」
ハルトは共にプランの兄代わりであった筆頭文官、ヨルンについて話し始めた。
ヨルンは文官としての能力は文句がなく、その上本人も文官としての生き様に誇りを持っている。
その誇りは非常に大きく、ヨルンが文官であるというよりは、文官であるからこそヨルンだと言えるくらいだ。
つまり、一言で言えばヨルンは偏屈を通り越した頑固な人間である
正式な場であれば親代わりの葬儀だろうと涙は見せず、相手が他所の領の人間なら上っ面以上の表情を見せない。
本当の意味で笑顔を見せるのは領の仲間と認めた者だけである。
にもかかわらず、天上人であるフィーネにヨルンはマウントを取るようなちょっかいを重ねてかけていた。
本来の性格からでも、文官としての性質からでも絶対に在りえない事だった。
「というわけで、こんな偉い人が来た場合のヨルンだったら胃痛で苦しんでいるか上っ面だけでニコニコするだけだったはずなんだが……」
そう呟くハルトに、アインが頷いた。
「私はフィーネ様の方に違和感を覚えたわ。どんな人から聖人君子と呼ばれるフィーネ様が、意地悪な笑みを浮かべ、その挙句人前であっかんべーなんてするの初めて見たわ。フィーネ様も相当人と仲良くするのに時間をかけるタイプよ」
これを合わせて三度しか会っていないヨルンとフィーネの様子を明らかに変であると確信し、そしてその理由が思いついた瞬間ハルトとアインはニヤリとした笑みを浮かべた。
「これってさ、二人は気づいてると思う?」
アインの質問にハルトは首を横に振った。
「いや。どっちも気づいてないと思うぞ。――面白くなってきたな」
二人はニヤニヤした様子でフィーネとヨルンの方を見た。
お互いで表情をころころ変え、ああでもないこうでもないと言い合う様は仲睦まじい様子としか言いようがなかった。
「……どうなるかわからないからしばらく様子見、そして良い感じになったら全力でおちょくりましょう」
アインのそんな言葉にハルトは手を差し出し、アインがその手を掴んで固く握手をした。
ありがとうございました。
更新遅くて申し訳ありません。
それでもお付き合いくださり本当にありがとうございます。




