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平民出身の転生執事、最強王女を育成する  作者: アカメノコバチ


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第11話① 火事は殴っても消えません

 建国祭が終わって、数日が経った。


 僕は今日、エクレシア殿下と王都の商業地区を訪れていた。


「ねえねえ、トルーキン!」


「はい、殿下」


「今日は何を勉強するの?」


「王都で暮らす人々の生活についてでございます」


「だから外なんだね?」


「はい。実際に見た方が理解しやすいこともございますので」


「やったぁぁ!」


 殿下が嬉しそうに跳び跳ねる。


 先日、殿下は自分から勉強したいと言い出した。


 僕としても、その意欲は大切にしたい。


 もっとも、外へ出れば出たで、別の心配が増えるのだが。


「ねえ、トルーキン!」


「はい」


「あっちのパン、おいしそう!」


「殿下。今日は勉強でございます」


「わかってるって!」


「では、まず市場の様子を――」


「だから、パン屋さんを勉強するの!」


 ……。


 実に都合のよい解釈だ。


「一個だけ!」


「……一個ですよ」


「きゃははっ! やったぁ!」


 僕の教育方針は、早くも危機を迎えていた。


 ◇


 商業地区は今日も賑わっていた。


 建国祭の飾りはすでに取り外され、普段どおりの生活に戻っている。


 荷馬車が石畳を行き交い、商人たちが店先で客を呼び込んでいた。


 エクレシア殿下は買ったばかりのパンを頬張りながら、周囲を興味深そうに眺めている。


「ねえ、トルーキン」


「はい」


「この辺のお店って、みんなくっついてるね!」


「土地が限られておりますので。特に商業地区は、店や工房が密集しております」


「ふーん!」


 殿下が建物を見上げた。


 通りの両側には、二階建ての木造家屋が並んでいる。


 下の階が店舗や工房で、上の階が住居になっている建物も多い。


「ねえねえ!あのお店、煙が出てるよ!」


 殿下が指さしたのは、小さな工房だった。


 屋根の煙突から、薄い煙が上がっている。


「あちらは金属加工の工房でしょう。炉を使っているのでございます」


「へえ!じゃあ、火を使ってるんだ!」


「そうでございますね」


「火って、便利だよね!」


「はい。ただ、扱いを間違えれば大変危険でございます」


「そうだよね」


 そんな会話をしていると、近くの商人たちの声が聞こえてきた。


「そういや、昨日も裏通りで小さな火事があったらしいぞ」


「ああ、聞いた聞いた。鍋を火にかけたままにしたんだってな」


「近所の連中がすぐに水をかけたから、たいしたことにはならなかったらしいが」


「この辺で大火事になったら、たまったもんじゃないな」


 王都で生活する人にとって火事は避けられない問題だ。


「ねえ、トルーキン!」


「はい」


「火事って、どうやって消すの?」


「一般的には、水を使って消火いたします。ただし、燃えているものによって方法は異なります」


「じゃあ、すっごく大きな桶を作ればいいんじゃない?」


「……運ぶのが大変そうでございますね」


「私なら持てるよ!」


 ……。


 それはそうだろう。


 この方なら、水を満たした大きな樽でも軽々と持ち上げかねない。


 だが、殿下一人が運べることと、王都の火災対策として役立つことは別だ。


「殿下。火事は、殿下がいらっしゃらない場所でも起こりますので」


「そっか」


「ですから、誰でも使える方法を考えることが大切でございます」


「なるほどぉ!」


 そんなことを話していた、そのときだった。


「火事だぁぁぁ!」


 突然、通りの向こうから叫び声が響いた。


 人々が一斉に振り向く。


「火事だ! 工房から火が出たぞ!」


 建物の屋根の向こうに、黒い煙が立ち上っていた。


 ……何?


 先ほどまで薄かった煙が、急に濃くなっている。


 それに、煙突だけではない。


 屋根の隙間からも煙が噴き出していた。


「トルーキン!」


 殿下の声が変わった。


「行こう!」


「はい!」


 僕たちは、煙の上がる方へ駆け出した。


 ◇


 火元は、先ほど見かけた金属加工の工房だった。


 一階の窓から黒煙が吹き出し、屋根の軒先には炎が見え始めている。


 周囲には大勢の人が集まっていた。


「水だ! 水を持ってこい!」


「誰か、衛兵を呼んでくれ!」


「隣の店にも燃え移るぞ!」


 男たちが桶を抱えて走り回っている。


 だが、火勢は衰える様子がない。


「おい!誰か助けてくれ!」


 一人の男が、工房の前で叫んでいた。


 顔や服が煤で汚れ、右腕には小さな火傷がある。


「どうなさいました!?」


 僕が駆け寄ると、男は振り向いた。


「中に弟子がいるんだ!」


「弟子?」


「まだ十二歳の見習いだ!俺は逃げられたが、あいつが出てこない!」


 ……まずい。


 建物の中に子供が残されているのか。


「どこにいるのですか!?」


「たぶん、裏の作業場だ!だが、表の入口はもう……!」


 男が振り返る。


 正面の扉からは、すでに煙と炎が噴き出していた。


「トルーキン!」


 殿下が拳を握る。


「あの壁、壊せば入れるよね!」


「お待ちください!」


「ええっ!? どうして!?」


「今、壁を壊すのは危険でございます! 崩れた木材や火の粉で、かえって危険になる恐れがございます!」


「でも、中に子供がいるんでしょ!」


「はい。ですから、まず別の入口を探します!」


 ……落ち着け。


 相手は人間ではない。


 どれだけ殿下の拳が強くても、炎や煙そのものを殴って消すことはできない。


「工房の裏側は、どうなっておりますか!?」


 僕は主人に尋ねた。


「裏口がある! だが、資材置き場からしか行けない!」


「資材置き場?」


「ああ! 荷車や木材が積んであるんだ!」


 ……なるほど。


「殿下!」


「なに!?」


「裏へ回ります!」


「うん!」


 僕たちは工房の脇にある細い路地へ走った。


 すると、奥に荷車が見えた。


 さらに、その周囲には長い木材が積まれている。


 確かに、人が通るには狭すぎる。


 だが、その先に裏口らしい扉があった。


「トルーキン!あれ、どかせばいいんだね!」


「はい!建物には触れないでください!」


「わかった!」


 殿下が荷車へ駆け寄る。


「よいしょっと!」


 両手で荷台をつかみ、そのまま持ち上げた。


 ……。


 水や資材を積んだ重い荷車が、あっさりと宙に浮いた。


 ……何度見ても、慣れない光景だ。


「どこに置けばいい!?」


「通りの広い場所へ!周囲に人がいないことをご確認ください!」


「はーい!」


 殿下が荷車を運び出す。


 続いて、積まれていた木材も移動させた。


 あっという間に、裏口までの通路が開いた。


「お見事でございます!」


 僕は裏口へ近づいた。


 扉の隙間からは、灰色の煙が漏れている。


 ……危険だな。


 火元がどこにあるかわからない以上、不用意に扉を開けるわけにはいかない。


「誰かいますか!」


 僕は離れた位置から叫んだ。


「中にいるなら返事をしてください!」


 ……返事がない。


「トルーキン! 壊す!?」


「いけません! 今は中の状況がわかりません!」


 そのとき。


「……た、助けて……!」


 かすかな声が聞こえた。


 ……いる!


「どこにいますか!」


「……う、裏……!」


 声は、裏口の向こうからだった。


 だが、姿は見えない。


 僕は周囲を確認した。


 ちょうど、騒ぎを聞きつけた衛兵が三人駆けつけてくる。


「何があった!」


「建物の中に子供が取り残されています!」


「何!?」


「裏口付近から声がします!ですが、扉の隙間から煙が漏れております!」


 衛兵たちの顔が強張った。


 先頭の男が、ほかの二人へ指示を出す。


「お前は通りへ戻って、応援を呼べ!お前は周囲の人間を下がらせろ!」


「はっ!」


 男は工房の主人にも声をかけた。


「裏口の先はどうなっている!?」


「細い通路だ!その先が作業場になっている!」


「火元は!?」


「炉は奥の方だ!だが、今はどこまで燃えているかわからねえ!」


 ……なるほど。


 火元が奥だとしても、すでに煙は裏口まで回っている。


 安全な救助経路だとは言い切れない。


 僕は扉を見た。


 表面はまだ燃えていない。


 だが、それだけで中が安全だとは判断できない。


「おい!聞こえるか!」


 衛兵が扉へ向かって叫ぶ。


「そこから離れずにいられるか!?」


「……はい……!」


「扉は開けられるか!?」


「……開かない……!」


 ……何?


「どうしてだ!?」


「……何かが、つかえて……!」


 衛兵が工房の主人へ振り向く。


「扉はどちらへ開く!?」


「外側だ! だが、古くて立てつけが悪いんだ!」


「……くそっ!」


 衛兵が顔をしかめた。


 裏口の周囲に強い熱は感じられないが、煙は少しずつ濃くなっている。


 時間はない。


 そのときだった。


「トルーキン!」


 殿下が僕の袖を引いた。


「私、何かできない!?」


 ……殿下。


 今度は勝手に殴ろうとはなさらないのか。


 だが、感心している場合ではない。


 衛兵が扉を確認し、短く告げた。


「蝶番の金具が外から見える。扉を丸ごと外せるかもしれん」


「では、私が!」


 殿下が元気よく手を挙げた。


 衛兵は驚いた顔をしたが、僕が小声で説明する。


「こちらのお嬢様は、非常に力が強いのでございます」


「……そうなのか?」


「はい。ただし、加減は必要ですが」


「わかった。だが、まずは中の子供を扉から離れさせる」


 衛兵が再び叫ぶ。


「聞こえるか! 扉から少し離れられるか!?」


「……うん……!」


 扉の向こうで、かすかな物音がした。


 衛兵はさらに、開放した場合の危険を確かめようと工房の主人に間取りを確認する。


 その間にも煙が漏れてくる。


 ……急がなければならない。


「扉を開けたら、すぐに子供を外へ出す。中には踏み込むな!」


「承知いたしました」


 僕はうなずいた。


「お嬢様。衛兵の方のご指示に従ってください」


「うん!」


 殿下は蝶番の金具を見つめた。


「これを外せばいいんだね?」


「ああ。ただし、扉を吹き飛ばすなよ!」


「わかった!」


 殿下が慎重に手を伸ばす。


 そして、金具に力を込めた。


 バキンッ!


 金具が外れた。


 もう一か所。


 バキンッ!


「取れた!」


 衛兵が扉を支えながら、ゆっくりと外側へ引く。


 灰色の煙が流れ出した。


「いたぞ!」


 裏口のすぐ近くに、少年がうずくまっていた。


 衛兵が手を伸ばす。


「こっちへ!」


 少年がふらつきながら近づく。


 衛兵はその腕をつかむと、外へ引き寄せた。


「よし!離れろ!」


 全員が急いで建物から距離を取る。


「げほっ!げほっ!」


 少年が激しく咳き込んだ。


 顔は煤だらけだ。


「大丈夫か!」


 工房の主人が駆け寄る。


「おい!しっかりしろ!」


「……親方……!」


「よかった……!本当によかった……!」


 男が少年を抱きしめる。


 近くの衛兵が声をかけた。


「煙を吸っている!治療師を呼んでくれ!」


「はっ!」


「助かったね!」


 殿下が嬉しそうにこっちを向いた。


 ……よかった。


 ひとまず、人命は守ることができた。


 だが、問題はまだ終わっていなかった。


 ◇


「火が広がってるぞ!」


 通りから叫び声が響いた。


 工房の屋根に、炎が大きく上がっている。


 しかも、隣の建物との距離はわずかだ。


「まずい!隣の店にも燃え移る!」


「水を持ってこい!」


 住民たちは懸命に桶を運んでいる。


 しかし、水をくんでは走り、空の桶を持って戻る。


 それぞれが思い思いに動いているため、通りでは何度も人がぶつかりそうになっていた。


 これでは効率が悪い。


 僕は周囲を見回す。


 《算神》を発動。


 井戸までの距離は、およそ八十歩。


 水を運べる大人は二十四人ほど。


 桶の容量は、どれも大きくはない。


 さらに、一人が水をくんで戻るまでの時間。


 ……この人数なら。


 全員が走って往復するより、運び方を変えた方がよさそうだ。


 僕は衛兵の責任者へ駆け寄った。


「衛兵殿。水の運搬方法を変えてはいかがでしょう」


「何?」


「今は皆が井戸と火元を往復しています。ですが、通りが混雑して時間を失っております」


「確かにな!」


「人を並べ、水の入った桶を次々に手渡すのです」


「……なるほど!」


 衛兵はすぐに周囲へ声を張り上げた。


「聞いたか!水を運ぶ者は、こっちに並べ!」


「は、はい!」


「空の桶は反対側へ回せ!通りの真ん中を走るな!」


 住民たちが動き始める。


 水桶が次々と手渡される。


 初めはぎこちなかったが、徐々に流れができてきた。


「おおっ! 次の水だ!」


「こっちへ回せ!」


「空の桶は反対側だ!」


 ……よし。


 水を届ける流れが安定してきた。


 先ほどまでは、人が水を運んでいた。


 今は、人を動かさずに水を運んでいる。


 ただし、この水量ですべての炎を消せるわけではない。


 すでに火勢は大きい。


「衛兵殿」


「何だ!」


「火元の建物へは、もう人を近づけない方がよいかと」


「ああ! 俺もそう考えていたところだ!」


 衛兵が周囲へ指示を飛ばす。


「消火より避難を優先しろ!隣の建物に人が残っていないか確認だ!」


「了解!」


 衛兵たちが走り出した。


「トルーキン!」


 殿下が僕を呼ぶ。


「私、何すればいい!?」


 ……ほう。


 今度は、勝手に飛び込まずに聞いてくださった。


 これはありがたい。


「殿下。隣の建物の前にある荷物を、安全な場所へ運んでください」


「うん!」


「ただ、燃えている建物には近づかないでください」


「わかってる!」


 殿下が駆け出す。


 店先には、木箱や樽が積まれていた。


 延焼の危険を増やしかねない可燃物だ。


 殿下はそれらを軽々と持ち上げ、通りの広い場所へ運び出していく。


「次はこれ!」


「お嬢ちゃん!こっちも頼む!」


「はい!」


 ……。


 まるで力仕事を楽しんでいるようだ。


 だが、今は非常に助かる。


 そのとき。


 バキバキッ!


 大きな音が響いた。


 振り向く。


 燃えていた工房の屋根の一部が崩れ落ちていた。


「うわあっ!」


「危ない!」


 人々が後ずさる。


 炎が一気に大きくなった。


 ……まずい。


 このままでは、隣の建物まで燃えてしまう。


「トルーキン!」


 殿下がこちらを見た。


「あの建物、壊した方がいい!?」


 ……確かに。


 延焼を防ぐため、建物を取り壊すという方法もある。


 だが、今ここで殿下が拳を振るえば、崩れた木材や火の粉が周囲に飛び散る可能性がある。


 それに、隣接する建物まで傷つけかねない。


「いけません」


「でも!」


「今は住民の避難を優先します」


「……!」


 殿下が燃える工房を見つめた。


「……そっか」


 そして、小さくうなずいた。


「わかった!」


 殿下は、近くにいた子供たちへ駆け寄る。


「みんな!こっちだよ!」


 その声に合わせて、衛兵たちも避難誘導を続けた。


 僕は工房を見上げる。


 火勢は、まだ衰えていない。


 だが、住民たちはすでに安全な場所へ移動し始めている。


 隣の建物からも人が出てきた。


 ……よし。


 守るべきものを間違えてはいけない。


 建物よりも、人命だ。


 その後も、住民と衛兵たちは懸命に水を運んだ。


 炎の勢いが強い間は無理に近づかず、火の粉が飛ぶ先を警戒する。


 隣の店の主人も、避難した場所から祈るように様子を見ていた。


「頼む……!こっちまで燃えないでくれ……!」


 だが、工房の屋根は次々と崩れていく。


 もはや、建物を救うことは難しい。


 それでも、人々は水を運び続けた。


 隣の建物への延焼を防ぐために。


 そして、これ以上の被害を出さないために。


 やがて、火元の建物はほとんど焼け落ちた。


 燃えるものが少なくなるにつれ、炎の勢いも弱まっていく。


 衛兵たちは周囲の安全を確認しながら、残った火の処理を続けた。


 長い時間が過ぎたあと。


「……もう大きく燃え広がる心配はなさそうだ!」


 責任者の声が響いた。


 周囲から、安堵のため息が漏れる。


 隣の建物への大きな延焼は、防ぐことができた。


 死者も出なかった。


 だが、火元の工房はほとんど焼け落ちていた。


 ◇


「……ああ」


 工房の主人が、その場に座り込んだ。


 目の前には、黒く焼け焦げた柱と、崩れ落ちた屋根。


 金属加工に使っていた道具も、材料も、ほとんど失われている。


「……俺の工房が……」


 主人が呟いた。


「親父の代から、ずっと続けてきた工房だったのに……」


 誰も、何も言えなかった。


 火事は収まった。


 少年も助かった。


 それでも、失われたものは大きい。


「……トルーキン」


 殿下が僕の袖を引いた。


「はい」


「助けられなかったね」


 その声は、いつもよりずっと小さかった。


「……人命を守ることはできました」


「うん……」


「隣の建物への延焼も防げました」


「……でも」


 殿下が焼け跡を見つめる。


「あのおじさんのお店、なくなっちゃったよ」


「……そうでございますね」


 僕は、すぐに返す言葉を見つけられなかった。


 殿下が自分の拳を見下ろす。


 石柱を粉砕し、騎士を殴り飛ばすことのできる拳。


 だが、その拳でも、燃えてしまった工房を元に戻すことはできない。


「……ねえ、トルーキン」


「はい」


「私、もっと早く来てたら、助けられたのかな?」


「……わかりません」


「そっか……」


「ですが、殿下のお力がなければ、少年の救助はもっと難しかったでしょう」


「……うん」


 殿下が小さくうなずく。


 そして、しばらく黙ったあと。


 ゆっくりと顔を上げた。


「ねえ、トルーキン」


「はい」


「火事って、起きる前に何とかできないの?」


 ……。


 僕は殿下を見る。


 その瞳には、いつもの無邪気な好奇心とは違うものが宿っていた。


 目の前の敵を殴り倒すのではない。


 困っている誰かを助けるだけでもない。


 そもそも、困る人が出ないようにするには、どうすればよいのか。


 殿下は、それを考え始めている。


「……方法は、ございます」


「ほんと!?」


「はい。ただし、殿下の拳だけでは解決できないことも多いでしょう」


「……そっか」


 殿下は少し考え込んだ。


 そして、僕の顔を見上げた。


「じゃあ、教えて!」


「……何を、でございますか?」


「火事が起きないようにする方法!」


 ……なるほど。


 どうやら、次の授業内容は決まったらしい。


「承知いたしました」


「うん!」


「ただし、殿下。まずは本日の火災について、詳しく調べる必要がございます」


「どうして?」


「何が原因で火が出たのか。なぜ消すのに時間がかかったのか。それがわからなければ、適切な対策も考えられません」


「……そっか!」


 殿下が大きくうなずいた。


「じゃあ、明日また来よう!」


「はい」


「絶対だよ!」


「承知しております」


 殿下は、もう一度焼け跡を見つめた。


 そして、小さく呟いた。


「……次は、燃えないようにしたいな」


 ……。


 僕は、その言葉に少し驚いた。


 以前の殿下なら、次はもっと速く助けに行くと言っただろう。


 だが、今日は違う。


 次の火事が起きる前に、何かを変えようとしている。


 この方は、時々驚くほどまっすぐに成長なさる。


 さて。


 明日は火災の原因調査。


 そのあとは、火災対策の検討。


 さらに、殿下への授業。


 ……。


 執事というのは、いつから王都の消防まで担当する仕事になったのだろうか。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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