第8話② お祭りの準備は大変でございます
「私、力持ちなんだ!」
エクレシア王女殿下が、元気よく胸を張った。
……。
商人たちが顔を見合わせる。
「お、王女殿下が屋台を運ばれるのですか?」
「うん!」
「いや、しかし……」
商人の一人が困った顔をした。
「屋台は、見た目以上に重いのですよ」
「大丈夫!」
「それに、王女殿下にそんなことをお願いするわけには……」
「どうして?」
「どうして、と申されましても……」
男が言葉に詰まった。
……まあ、そうだろうな。
普通、王女殿下が屋台を運ぶなど、考えもしないだろう。
だが、僕としては重さよりも気になることがあった。
「殿下」
「なあに?」
「まず、移動先の許可をいただかなければなりません」
「あっ、そっか!」
「それから、商人の方々にも同意していただく必要がございます」
「じゃあ、お願いしよう!」
……実に簡単におっしゃる。
しかし、方針は間違っていない。
僕は警備責任者へ向き直った。
「街の出店許可を担当されている方を、呼んでいただくことは可能でしょうか?」
「担当官でございますか?」
「はい。近くの広場を使えば、屋台を移せるかもしれませんので」
「……わかりました!」
警備責任者が、部下を役所へ向かわせた。
さて、日没まであまり時間はない。
急いで準備を進めよう。
◇
しばらくして、役所の担当官がやってきた。
図面を抱えた中年の男性だ。
「お待たせいたしました!」
額には汗が浮かんでいる。
随分と急いでくれたようだ。
「エクレシア王女殿下。お話は伺っております」
「こんにちは!」
殿下が元気よく挨拶する。
「お店、動かせそう!?」
「それが、建国祭の出店場所は、すでに決まっておりまして……」
「そうなの?」
「はい。空いている場所も、ほとんどございません」
……まあ、そうだろうな。
建国祭まで、あと二日。
準備が進んでいるのだから、当然だ。
「担当官殿。一つ、確認させていただけますか?」
「何でしょう?」
「この先の小広場でございますが、建国祭では何に使われるのでしょう?」
「休憩場所として使用する予定でございます」
「そうでございましたか」
僕は図面を見せてもらった。
広場の中央には、腰を下ろせる場所が用意されるらしい。
その周囲には、まだ空いている部分があった。
……ふむ。
これなら、いけるかもしれない。
「中央の休憩場所を残し、広場の端に屋台を並べることはできませんか?」
「……端に、ですか?」
「はい」
僕は《算神》を発動した。
先ほど確認した屋台の大きさ。
横道の幅。
広場の形。
それらを頭の中で組み合わせる。
……うん。
四軒ほどなら、入りそうだ。
「こちらの屋台を広場へ移し、残りを少しずつ並べ直せば、大通りを広く使えるかと存じます」
僕は図面を指さした。
担当官が顔を近づける。
「……なるほど」
「もちろん、休憩場所や人の通り道は残します」
「それなら……」
担当官は、しばらく考え込んだ。
「実際に確認してみましょう」
「ありがとうございます」
「ねえ、トルーキン!」
「はい」
「できそう!?」
「まだ確認が必要でございます」
「ええーっ!」
「ですが、少なくとも不可能ではなさそうです」
「やったぁ!」
……殿下。
まだ喜ぶのは早いですよ。
◇
担当官と警備兵たちとともに、小広場へ向かった。
実際の広さを測り、屋台を置く位置を確認する。
休憩場所への出入り。
荷車が通る大通り。
そして、横道を歩く人々。
どれも問題なさそうだ。
「この配置なら、許可の変更ができそうです」
担当官が頷いた。
「ただし、商人の方々が納得されるかどうか……」
「そこは、直接お話ししてみましょう」
僕たちは、商人たちのもとへ戻った。
「皆様、お待たせいたしました」
僕が声をかけると、商人たちが集まってきた。
「どうなったんです?」
「新しい場所は見つかったのか?」
「はい。こちらをご覧ください」
僕は図面を広げた。
「四軒の屋台を、横道の先にある小広場へ移してはいかがでしょう?」
「……広場?」
一人の商人が眉を寄せた。
「そこじゃ、人が来ないんじゃないのか?」
……もっともな心配だ。
「その点については、こちらをご覧ください」
僕は大通りから横道へ続く部分を示した。
「横道の入口に、広場にもお店があることを知らせる案内板を設置していただけるそうです」
担当官が頷いた。
「警備の方々にも、人の流れを確認していただきます」
「……ふむ」
「また、広場には休憩場所もございます。お客様が立ち寄られる機会はあると思います」
商人たちが顔を見合わせた。
「……場所代はどうなるんです?」
別の商人が尋ねる。
「今回の変更は、役所側の警備計画の見直しによるものです」
担当官が答えた。
「追加の場所代はいただきません。移動作業についても、役所から人を出します」
「……それなら」
「ただ、新しい場所で同じだけ売れるかはわかりません」
僕は正直に伝えた。
商人にとって、店の場所は重要だ。
そこは誤魔化すべきではない。
「ですが、このままですと、出店そのものが難しくなってしまいます」
「……そうだな」
一人の商人が小さく頷いた。
しばらくして、別の男が口を開く。
「俺は移ってもいい」
「本当ですか?」
「ああ。店を出せなくなるよりはいい」
「私も賛成です」
「こっちもだ!」
……よし。
次々と商人たちが頷いてくれた。
担当官が、配置変更の手続きを進める。
これで、場所の問題はひとまず解決だ。
だが。
「……ちょっと待ってくれ」
最初に反対していた、髭の商人が口を開いた。
「場所は決まったとしても、どうやって運ぶんだ?」
……ん?
「屋台は簡単に動かせるものじゃないんだぞ」
「そうだよ。もう組み立ててあるんだから」
「日没までに終わるのか?」
商人たちの顔が曇った。
……確かに。
屋台は、ただの木箱ではない。
屋根や棚を外し、商品を安全に運ぶ必要がある。
それも、何軒もだ。
「だから!」
殿下が元気よく声を上げた。
「私が運ぶよ!」
「王女殿下……」
髭の商人が困った顔をした。
「お気持ちはありがたいのですが、こんな仕事をしていただくわけには……」
「でも、困ってるんでしょ?」
「それは、そうですが……」
「じゃあ、一緒にやろう!」
殿下が笑顔で言った。
……実に、この方らしい。
しかし、商人たちはすぐには動かなかった。
王女に仕事を頼むことを、ためらっているのだろう。
そのときだった。
「……おや?」
背後から、聞き覚えのある声がした。
振り返る。
数人の騎士たちが、通りを歩いてきていた。
建国祭の警備準備で、街を巡回しているらしい。
……ん?
あの方々は、確か。
「エクレシア殿下ではありませんか!」
騎士の一人が声を上げた。
殿下が振り返る。
「あっ!」
そして、ぱっと顔を輝かせた。
「騎士さんたち!」
……やはり。
以前、殿下が助けた騎士団の方々だった。
「お久しぶりでございます!」
「久しぶり!」
殿下が嬉しそうに手を振る。
「何してるの!?」
「建国祭に向けて、街の警備状況を確認しているところでございます」
「そうなんだ!」
「殿下は、こちらで何をなさっているのですか?」
「お店のお引っ越し!」
「引っ越し……、でございますか?」
騎士たちが顔を見合わせた。
まあ、そうなるだろうな。
僕は、事情を簡単に説明した。
安全な通路を確保するため、屋台を移動する必要があること。
移動先の許可は得られたが、日没までに作業を終えなければならないこと。
そして、殿下が自ら手伝おうとしていること。
「……なるほど」
騎士の一人が頷いた。
「それなら、我々もお手伝いしましょう」
「えっ!?」
殿下が目を丸くする。
「いいの!?」
「もちろんでございます」
騎士が笑った。
「以前、我々も殿下に助けていただきましたから」
「えへへっ!」
「それに、建国祭の通路を確保することは、我々の仕事にも関係しております」
別の騎士が頷いた。
「隊長に連絡して、手伝いに回れる者を確認しよう」
「そうだな!」
ありがたい。
殿下が以前助けた騎士たちが、こうして力を貸してくれる。
それだけで、少し心強くなった。
「ねえ、騎士さん!」
「はい」
「一緒に頑張ろうね!」
「もちろんでございます!」
騎士たちが笑顔で頷いた。
◇
「よし! まずは荷物を下ろそう!」
応援の許可を得た騎士たちが、作業に加わった。
役所からも作業員が到着している。
屋台の持ち主たちが商品を片づけ、騎士と作業員が屋根や棚を外していく。
「そちらの木箱をお願いします!」
「任せろ!」
「壊れやすいものは、こっちへ!」
通りが一気に賑やかになった。
もっとも、先ほどの言い争いとは違う。
皆が同じ目的に向かって動いていた。
「ねえ、トルーキン!」
「はい」
「私、何すればいい!?」
「まずは、こちらの屋台を運びましょう」
「わかった!」
僕が示したのは、大きな木製の屋台だった。
商品はすでに下ろされ、地面に固定していた部分も外されている。
それでも、大人が何人も必要な重さだ。
「王女殿下。本当に大丈夫ですか?」
持ち主の商人が、心配そうに尋ねた。
「うん!」
殿下が屋台の前に立つ。
ひょいっ。
……。
屋台が持ち上がった。
「……は?」
商人が目を丸くする。
「う、嘘だろ……?」
「一人で持ち上げたぞ!」
周囲の作業員たちも、呆然としている。
……まあ、そうだろうな。
初めて見る者には、信じられない光景だ。
「ねえ、トルーキン!」
「はい」
「どこに運ぶの!?」
「こちらでございます」
僕は先頭に立った。
警備兵たちが、周囲の人々を離れた場所へ誘導する。
屋台の幅を確認しながら、殿下を案内した。
「殿下。少し右でございます」
「こっち!?」
「はい。そこで一度止まってください」
「わかった!」
……おお。
思った以上に、慎重だ。
以前なら、勢いよく運んでしまったかもしれない。
しかし、今は僕の指示を聞き、ゆっくり動いてくれる。
「殿下。向きを変えましょう」
「うん!」
「そのまま、もう少し前へ」
「わかった!」
こうして、屋台は無事に広場へ運ばれた。
「こちらでございます」
「ここ?」
「はい。ゆっくり下ろしてください」
「わかった!」
どすん。
屋台が地面に置かれた。
「おおおっ!」
周囲から歓声が上がった。
「すごい!」
「本当に運んでしまった……!」
「ありがとうございます、王女殿下!」
「えへへっ!」
殿下が嬉しそうに笑った。
……さて。
一軒目は無事に完了した。
「ねえ、トルーキン!」
「はい」
「次はどれ!?」
……。
本当に元気なお方だ。
◇
その後も、屋台の移動は順調に進んだ。
騎士たちが重い木材を運ぶ。
役所の作業員が、屋台の固定を外す。
商人たちは、商品を丁寧に箱へ詰めていく。
警備兵も、通行人を誘導しながら作業を手伝い始めた。
そして、殿下は。
「次!」
ひょいっ。
「こっちも!」
ひょいっ。
「ねえ、トルーキン! これは!?」
「そちらは、まだ荷物が残っております」
「あっ、そっか!」
凄まじい働きぶりだ。
やがて、残すところはリナの母親の屋台だけになった。
「……あれ?」
殿下が首を傾げた。
「どうしたの?」
リナが困った顔をしている。
「お母さんのお店、通れないんだって……」
「えっ!?」
……ん?
僕も屋台へ目を向けた。
ほかの屋台より、少し横幅が広い。
焼き菓子を並べるための棚と、大きな日よけが付いているのだ。
すでに商品は下ろしてある。
しかし、横道の入口には、屋台の屋根が引っかかってしまうらしい。
「困りましたね……」
母親が呟いた。
「この屋台は、主人が作ってくれたものでして」
「そうなんだ!」
殿下が目を輝かせる。
「すごいね!」
「ありがとうございます。でも、屋根を壊してしまったら……」
母親が心配そうに屋台を見る。
……なるほど。
せっかくの屋台だ。
できれば、傷つけずに運びたい。
「ねえ、トルーキン!」
「はい」
「私、持ち上げようか!?」
「少々、お待ちください」
僕は屋台へ近づいた。
屋根の大きさ。
横道の幅。
柱の位置。
そして、棚の取り付け方。
《算神》で、それぞれを確認する。
……ふむ。
「屋根を外すことはできますか?」
母親へ尋ねる。
「ええ。布は外せますが、木の枠は固定されておりまして……」
「そうでございますか」
騎士の一人が屋台の上を覗き込んだ。
「この留め具を外せば、枠も取り外せそうですね」
「……本当ですか?」
「はい。ただし、支える者が必要です」
……なるほど。
それなら。
「殿下」
「なあに?」
「屋根を外す間、こちらを支えていただけますか?」
「うん!」
殿下が屋台の端を持ち上げる。
騎士たちが反対側を支え、作業員が留め具を外し始めた。
「ここを押さえてください!」
「わかった!」
「もう少し上へ!」
「これくらい!?」
「はい!」
商人たちも、手伝いに加わった。
「外した木材は、こっちへ運べ!」
「棚も先に外そう!」
「リナちゃん、そこの箱をお願い!」
「うん!」
……ふむ。
見事な連携だ。
殿下は大きな屋台を支えている。
騎士たちは屋根を外す。
商人と作業員は、部品や商品を運んでいく。
そして、僕は全体を見ながら、作業の順番を確認する。
やがて。
「よし、外れたぞ!」
騎士が声を上げた。
屋根の枠が、無事に取り外された。
「これなら通せそうです!」
「本当!?」
母親が嬉しそうに声を上げた。
「はい。あとは、屋台の本体を運びましょう」
「やったぁ!」
殿下が笑う。
しかし、ここで一つ問題があった。
「……殿下」
「なあに?」
「屋台を支えたままでは、移動できませんね」
「……あっ!」
殿下が目を丸くした。
周囲から笑い声が上がる。
「はははっ!」
「確かに!」
「王女殿下、屋根はもう外れましたから大丈夫ですよ!」
「えへへっ!」
殿下も笑った。
この方は、どこまでも楽しそうだ。
その後、屋台の本体を持ち上げ、横道を通って広場へ運ぶ。
取り外した屋根と棚も、騎士や商人たちが運んでくれた。
最後に、作業員たちが元の形へ組み立て直す。
「……できた!」
リナが歓声を上げた。
「お母さん! お店、できたよ!」
「ええ!」
母親が目元を押さえた。
「本当に、ありがとうございます……!」
「えへへっ!」
殿下が嬉しそうに笑う。
……よかった。
これで、すべての屋台が移動できた。
しかも、誰か一人だけの力ではない。
皆が協力したからこそ、無事に終わったのだ。
◇
夕暮れが近づく頃。
「……よし!」
警備責任者が、大通りを見渡した。
「これなら、十分な幅がある!」
屋台の並びが変わったことで、大通りには広い通路ができていた。
横道の先には、新しい屋台が並んでいる。
小広場の中央には、予定どおり休憩場所も残されていた。
担当官が図面を確認する。
「配置は、許可したとおりになっておりますね」
「はい」
僕は頷いた。
「では、最後に荷車を通して確認いたしましょう」
「そうですね」
警備兵が、近くにいた御者へ協力を頼んだ。
大きな荷車が、ゆっくりと通りへ入ってくる。
……さて。
計算上は問題ない。
だが、実際に通れることを確認しなければならない。
荷車が進む。
屋台の前を通り過ぎる。
さらに進む。
……うん。
問題なさそうだ。
そして。
「通れたぞ!」
御者が声を上げた。
「これなら、明日の荷車も通せる!」
「おおっ!」
商人たちから歓声が上がった。
警備兵たちも、ほっとしたように笑う。
「よかったぁ!」
殿下が両手を上げた。
……本当に、よかった。
これで、商人たちは建国祭で店を出せる。
警備兵たちも、安全な通路を確保できた。
もちろん、すべての問題がなくなったわけではない。
場所が変われば、売上にも影響するかもしれない。
だが、少なくとも商売を続けることはできる。
しかも、役所は案内板を設置し、人の流れを確認することになっている。
……ひとまず、これで解決だな。
◇
「……王女殿下」
一人の商人が、殿下へ歩み寄った。
最初に移動へ反対していた、髭の男だ。
「なあに?」
殿下が振り返る。
男は、深々と頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました」
「えっ!?」
「正直に申し上げますと、最初は王女殿下に何ができるのかと思っておりました」
「そうなの!?」
「……はい」
男が苦笑した。
「ですが、あれほど重い屋台を運んでくださるとは……」
すると、別の商人が口を開いた。
「それだけじゃありませんよ」
「……ん?」
「殿下は、私たちの話も聞いてくださいました」
「そうだな」
「王女殿下なのに、一緒に汗を流してくださった」
商人たちが頷き合う。
「本当にありがとうございました!」
「おかげで、建国祭を迎えられます!」
殿下は、少し照れたように笑った。
「えへへっ!」
そこへ、警備責任者も歩いてきた。
「殿下。私どもからも、お礼を申し上げます」
「うん!」
「皆様のおかげで、安全な通路を確保することができました」
「ほんと!?」
「はい。ありがとうございます」
殿下の顔が、ぱっと明るくなった。
「よかったぁ!」
そして、商人たちと警備兵たちを見渡す。
「これで、みんな建国祭を楽しめるね!」
……。
一瞬、静かになった。
そして、誰からともなく笑い声が上がった。
「はははっ! そうですな!」
「まったく、そのとおりだ!」
「せっかくの建国祭だからな!」
どうやら、皆が同じ気持ちらしい。
すると、以前殿下に助けられた騎士の一人が、近くの商人へ話しかけた。
「殿下は、以前からこういうお方ですよ」
「……そうなのですか?」
「ええ。困っている者を見つけると、放っておけないのです」
騎士が笑った。
「我々も、以前助けていただきましたから」
商人が驚いた顔をした。
「騎士様方まで?」
「はい」
騎士は、殿下へ目を向けた。
「今回も、殿下らしいと思いました」
僕は、その言葉を聞いて少し考えた。
確かに、そうなのだろう。
殿下は以前から、困っている人を見つければ、すぐに助けようとしていた。
ただ、その方法には問題があることも多かった。
だが、今回は違う。
殿下は自分の力だけで解決しようとしたわけではない。
僕の話を聞き、商人や警備兵たちとも協力した。
そして、かつて殿下に助けられた騎士たちが、今度はその手助けをしてくれた。
殿下は、少しずつ成長されているのだろう。
僕も、この方のことを、もう少し信じてみてもよいのかもしれないな。
◇
「お姫様!」
聞き覚えのある声がした。
振り返ると、リナが駆け寄ってくる。
「リナ!」
殿下が嬉しそうに手を振った。
「お店、どうなった!?」
「ちゃんと出せるんだって!」
「ほんと!?」
「うん!」
リナが満面の笑みを浮かべた。
「お母さんも、すっごく喜んでる!」
その後ろから、母親も歩いてきた。
「王女殿下。本当にありがとうございました」
「えへへっ!」
「おかげさまで、無事に建国祭を迎えられそうです」
母親の表情には、もう不安はなかった。
リナも嬉しそうだ。
「ねえ、お姫様!」
「なあに?」
「建国祭、絶対に来てね!」
「うん! 約束!」
二人が笑い合う。
……よかった。
これで、あの親子も安心して建国祭を迎えられるだろう。
すると、殿下が僕へ振り返った。
「ねえ、トルーキン!」
「はい」
「私、今日のお勉強、ちゃんとできた!?」
……おや。
そういえば、今日は授業だったな。
「はい。大変よくできました」
「ほんと!?」
「ええ。商人の方々のお仕事も、街の警備についても、よく学ばれたと思います」
「やったぁ!」
殿下が両手を上げた。
「じゃあ、今日は百点!?」
「そうでございますね」
「やったぁ!」
「ただし、一つだけ」
「なあに?」
「何かを運ばれる際には、必ず周囲の安全をご確認ください」
「……」
殿下が頬を膨らませた。
「ちゃんとやったもん!」
「はい。今日は、でございます」
「ええーっ!」
まだまだ教えることは多そうだ。
それでも。
僕は、周囲を見渡した。
商人たちは、明日の準備を再開している。
警備兵たちも、笑顔で話し合っていた。
騎士たちは作業を終え、それぞれの持ち場へ戻ろうとしている。
少し前まで、あれほど言い争っていた人々だ。
だが、今は皆が建国祭を楽しみにしている。
殿下が大好きだという光景が、そこにはあった。
「ねえ、トルーキン!」
「はい」
「建国祭、楽しみだね!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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