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【10/22連載開始】王女殿下、まずは拳をお下げください ~平民出身の転生執事、最強王女を育成する~  作者: アカメノコバチ


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10/29

番外編(1) 生まれてきて、よかった

 私には、ずっと憧れていたことがある。


 走ること。


 公園で友達と鬼ごっこをしたり、運動場を思いっきり駆け回ったり。


 転んで膝をすりむいても、また立ち上がって走り出す。


 そんな当たり前のことが、私にはできなかった。


 だから、窓の向こうで元気に遊ぶ子供たちを見るのが好きだった。


 いいなぁ。


 楽しそうだなぁ。


 私も一緒に遊んでみたいなぁ。


 何度、そう思ったかわからない。


 でも、私は自分が不幸だったとは思っていない。


 だって、私の周りには、大好きな人たちがたくさんいたから。


 ◇


 私の名前は、山岬亮子。


 お父さん、お母さんはいつも私のことを気にかけてくれた。


 私は、生まれたときから身体が弱かったらしい。


 小さい頃のことは、あまり覚えていない。


 でも、病院のことならよく覚えている。


 白い天井。


 消毒液の匂い。


 廊下を歩く看護師さんたちの足音。


 それから、ベッドの横で私の手を握ってくれる、お母さん。


「亮子、苦しくない?」


「うん!」


「本当?」


「ほんとだよ!」


 そう答えると、お母さんは少し安心したように笑ってくれた。


 本当は、少し苦しいときもあった。


 でも、お母さんに心配をかけたくなかった。


 だって、お母さんは私が苦しそうにしていると、自分まで苦しそうな顔をするんだもん。


「ねえ、お母さん!」


「なあに?」


「元気になったら、公園に行こうね!」


「うん。行こうね」


「それでね、ブランコに乗りたい!」


「いいよ」


「鬼ごっこもしたい!」


 お母さんは、いつも笑って頷いてくれた。


「そうだね。いっぱい遊ぼうね」


「えへへっ!」


 それだけで、嬉しかった。


 いつかきっと、みんなと一緒に走れる。


 そんな日が来ると信じていた。


 ◇


 お父さんは、毎日会社へ行っていた。


 帰ってくるのが遅い日もあったけど、病院に来られる日は必ず顔を見せてくれた。


「亮子、今日は何してた?」


「お絵描き!」


「おお、何を描いたんだ?」


「これ!」


 私はベッドの横に置いていた画用紙を見せた。


 青い空。


 緑の草原。


 そして、両手を広げて走っている女の子。


「これは亮子か?」


「うん!」


「楽しそうだなぁ」


「でしょ!」


「上手に描けてるじゃないか」


「えへへっ!」


 お父さんは、いつも私の絵を褒めてくれた。


 上手に描けた日も、失敗しちゃった日も。


 たまに、お父さんも一緒に絵を描いてくれた。


 でも、お父さんが描く動物は、あんまり上手じゃなかった。


「お父さん、これ何?」


「猫だよ」


「ええーっ! ブタかと思った!」


「そんなに下手かなぁ」


「きゃははっ!」


 お父さんも笑った。


 あの時間が、私は大好きだった。


 おじいちゃんとおばあちゃんも、よく会いに来てくれた。


 おじいちゃんは、いろんな場所の写真を見せてくれた。


 春には桜。


 夏には海。


 秋には紅葉。


 冬には雪。


「亮子、今年の桜もきれいだったぞ」


「わあっ! すごい!」


「来年は一緒に見に行こうな」


「うん!」


 おばあちゃんは、本をたくさん持ってきてくれた。


 そこには知らないことがいっぱい載っていた。


 世界って、こんなに広いんだ。


 私の知らないものが、こんなにたくさんあるんだ。


 いつか元気になったら、いろんなところに行ってみたい。


 そんなことを考えながら、何度も何度も本を読んだ。


 ◇


 病院の先生も、看護師さんたちも、とっても優しかった。


「亮子ちゃん、今日は調子どう?」


「いいよ!」


「本当かなぁ?」


「本当だってば!」


「じゃあ、ちょっと診察しようか」


「ええーっ!」


 先生が笑う。


 私も笑う。


 もちろん、病院は楽しいことばかりじゃなかった。


 注射は痛かったし、検査は怖かった。


 身体が苦しくて、夜中に泣いてしまうこともあった。


 そんなとき、看護師さんがそばに来てくれた。


「亮子ちゃん、大丈夫?」


「……うん」


「眠れない?」


「……ちょっと」


「そっか。じゃあ、少しお話ししようか」


 友達のこと。


 好きな本のこと。


 病気とは関係ない、普通のお話。


 そんな話をしているうちに、少しだけ怖くなくなった。


 病院にいると、どうしても病気のことを考えてしまう。


 でも、先生や看護師さんたちは、私がただの子供であることを忘れずにいてくれた。


 それが嬉しかった。


 ◇


 小学生になる頃には、なんとなくわかっていた。


 私は、ほかの子たちとは違う。


 学校へ行ける日もあれば、行けない日もある。


 体育の授業では、見学することが多かった。


 運動会でも、みんなと一緒に走ることはできなかった。


 それでも、学校は好きだった。


 友達とおしゃべりするのは楽しかったし、勉強も嫌いじゃなかった。


 特に、理科と社会が好きだった。


 どうして空は青いんだろう。


 どうして電気をつけると明るくなるんだろう。


 どうして洗濯機は、あんなにぐるぐる回るんだろう。


 わからないことがあると、本で調べたり、先生に質問したりした。


 全部が理解できたわけじゃないけど、新しいことを知るのは楽しかった。


 友達も、私の身体のことを知っていた。


「亮子、無理しちゃ駄目だよ」


「わかってるよ!」


 みんなは、よく私を気遣ってくれた。


 休み時間には、一緒におしゃべりをしてくれた。


 だから、学校に行ける日はとっても嬉しかった。


 でも、ときどき思うことはあった。


 もし、私が元気だったら。


 みんなと一緒に走れるのかな。


 自転車で遠くまで行けるのかな。


 プールで泳げるのかな。


 そんなことを考えると、少しだけ寂しくなった。


 ある日、お母さんに聞いたことがある。


「ねえ、お母さん」


「なあに?」


「私、もっと元気な子だったらよかった?」


「えっ?」


 お母さんは、びっくりした顔をした。


「だって、私が病気だから、お母さん大変でしょ?」


「亮子……」


「病院にも、いっぱい来ないといけないし」


 お母さんは、私をぎゅっと抱きしめた。


「そんなこと、考えなくていいんだよ」


「……ほんと?」


「うん。亮子が生まれてきてくれて、お母さんはとっても幸せだよ」


「……そっか」


「それにね、亮子が笑ってくれると、お母さんも元気になるんだから」


「私が?」


「そうだよ」


 お母さんが笑う。


 私も、つられて笑った。


「えへへっ!」


「ほら。今も元気をもらっちゃった」


 嬉しかった。


 私でも、お母さんを元気にできるんだ。


 だったら、いっぱい笑おう。


 そう思った。


 ◇


 小学五年生になった。


 十一歳。


 その日は、授業参観だった。


 私は朝から、とっても楽しみにしていた。


 だって、今日はお父さんも来てくれるんだもん。


 いつもお仕事で忙しいお父さんが、会社を休んでくれた。


「亮子、今日はお父さんも見に行くからな」


「本当!?」


「ああ。お母さんと一緒にな」


「やったぁ!」


 嬉しくて、何度も時間を確認してしまった。


「亮子。今日は無理しないでね」


 お母さんが言った。


「わかってるよ!」


「少しでも具合が悪くなったら、すぐに先生に言うのよ」


「はーい!」


 私は元気よく返事をした。


 その日は、朝から体調がよかった。


 きっと大丈夫。


 そう思っていた。


 ◇


 教室の後ろには、たくさんのお父さんやお母さんが並んでいた。


 私は、つい何度も振り返ってしまった。


 あっ。


 いた!


 お母さんが手を振っている。


 隣には、お父さんもいた。


 お父さんは私に気づくと、小さく親指を立ててくれた。


 えへへっ!


 私は嬉しくて、思わず笑ってしまった。


 授業が始まる。


 先生が黒板に字を書いている。


 友達が手を挙げる。


 私も今日は頑張ろう。


 お父さんとお母さんに、学校での私を見てもらいたかった。


 ちゃんと勉強してるんだよ。


 友達とも仲よくしてるんだよ。


 そんなところを見てほしかった。


 でも。


 ……あれ?


 突然、胸の奥が苦しくなった。


 息を吸おうとしても、うまく吸えない。


 ……おかしいな。


 さっきまで、平気だったのに。


 私は机に手をついた。


 少し休めば、大丈夫。


 きっと、すぐによくなる。


 そう思った。


 だけど。


「……っ!」


 急に何かがこみ上げてきた。


 思わず口を押さえる。


 ごほっ!


 ……え?


 机の上に、赤いものが落ちた。


 血だ。


 ……どうして?


「え、亮子!?」


 隣の席の友達が叫んだ。


 先生がこちらへ駆け寄ってくる。


 ごほっ!


 また、血が出た。


 ……苦しい。


 息ができない。


 周りが騒がしくなった。


 誰かが私の名前を呼んでいる。


「山岬さん!」


「亮子!」


 ……あ。


 お母さんだ。


 お母さんが、こっちへ走ってくる。


 お父さんもいる。


 でも、なんだか遠くに見える。


「亮子! 亮子!」


 お母さんが泣いている。


 ……あれ?


 お母さん、どうして泣いてるの?


 私、大丈夫だよ。


 ちょっと苦しいだけだから。


 すぐによくなるから。


 そう言いたかった。


 でも、声が出なかった。


 身体も動かない。


 視界がぼやけていく。


 ……お母さん。


 ……泣かないで。


 私、大丈夫だから。


 そう伝えようとしたけれど――。


 ◇


 ……あれ?


 目が覚めた。


 白い天井が見える。


 身体が重い。


 うまく動かせない。


 ……ここ、どこ?


 少しずつ目を動かした。


 身体には、何本もの管がつながれていた。


 機械の音が聞こえる。


 ピッ。


 ピッ。


 ピッ。


 ……ああ。


 集中治療室だ。


 知ってる。


 前も入ったことがあるから。


 また、ここに来ちゃったんだ。


 でも。


 ……あれ?


 なんだか、いつもと違う。


 ベッドの横には、お父さんとお母さんがいた。


 二人とも、泣いていた。


 お母さんが私の顔を覗き込む。


 何かを話しかけている。


 でも。


 ……聞こえない。


 お母さんの口が動いているのはわかる。


 涙が流れているのもわかる。


 だけど、何を言っているのか、よく聞き取れなかった。


 お母さん。


 どうしたの?


 お母さんの手が、私の頬に触れた。


 ……あ。


 いつもの手だ。


 小さい頃から、何度も私の頭を撫でてくれた手。


 痛いときも、苦しいときも、握ってくれた手。


 ……お母さん。


 ありがとう。


 お母さんは、また何かを言った。


 何度も、何度も。


 私の名前を呼んでくれているのかな。


 でも、わかるよ。


 お母さんが、私のことを大好きだって。


 ずっとそう言ってくれていたもん。


 ……覚えてる?


 私が元気な子だったらよかったって、聞いた日のこと。


 お母さん、言ってくれたよね。


 私が生まれてきてくれて、幸せだって。


 お母さん、私もだよ。


 お母さんの子供に生まれて、よかった。


 お父さんも、私のそばにいた。


 大きな手が、私の手を包んでくれる。


 お父さんまで泣いている。


 ……やだなぁ。


 お父さんが泣いているところ、初めて見たな。


 いつもみたいに笑えばいいのに。


 お父さんの口が動いた。


 何かを話している。


 ……ごめんね、お父さん。


 せっかく来てくれたのに。


 返事もできなくて。


 でもね。


 私、お父さんの声が大好きだったよ。


 会社であった面白い話も。


 一緒に本を読んでくれたときの声も。


 絵を褒めてくれたときの声も。


 全部、覚えてるよ。


 ……ありがとう。


 お父さんの手を握り返そうとした。


 でも、指が動かなかった。


 ……あれ?


 どうして動かないんだろう。


 お父さん。


 私、まだ伝えたいことがあるのに。


 ◇


 少しして、先生が来た。


 小さい頃から、ずっと診てくれていた先生だった。


 何度も入院して。


 何度も検査して。


 そのたびに、私のことを診てくれた人だ。


 先生は、いつものように私の顔を覗き込んだ。


 何かを話しかけてくれる。


 でも、今日は少し様子が違った。


 ……先生?


 泣いてるの?


 先生の目が、赤くなっていた。


 私は、びっくりした。


 いつも落ち着いていて、私がどんなに苦しそうにしていても、一生懸命に助けてくれた先生。


 怖い検査の前には、何をするのかちゃんと教えてくれた。


 私が質問すると、いつも答えてくれた。


 だから、先生のことが大好きだった。


 ……先生。


 ありがとう。


 先生のおかげで、学校へ行けた日がたくさんあったよ。


 お父さんやお母さんと一緒に、笑って過ごせた日もいっぱいあったよ。


 先生は、しばらく私のそばにいてくれた。


 それから、ゆっくりと離れていった。


 次に来てくれたのは、看護師さんだった。


 小さい頃から知っている人。


 いつも、明るく話しかけてくれた。


 私が学校に行けた日は、一緒に喜んでくれた。


 病院にいる間も、私を普通の小学生として接してくれた人だった。


 看護師さんが、そっと手に触れてくれる。


 何かを言っている。


 ……ごめん。


 やっぱり、よく聞こえない。


 でも、ありがとう。


 看護師さんは、私の手を優しく撫でてから、離れていった。


 その次も、看護師さんだった。


 夜中に苦しくなったとき、何度も助けてくれた人。


 眠れない私のところに来て、話をしてくれたこともあった。


 私が泣いてしまったときには、落ち着くまでそばにいてくれた。


 あのときは、ありがとう。


 看護師さんが、何かを話しかけてくれた。


 お礼、ちゃんと言いたかったな。


 それからも、一人、また一人と、会いに来てくれた。


 私が小さかった頃から、お世話になった人たち。


 みんな、私の顔を見て、何かを話しかけてくれた。


 少しだけ手を握ってくれる人。


 私の髪を撫でてくれる人。


 何も言わず、そばにいてくれる人。


 ……すごいなぁ。


 こんなにたくさんの人が、私のところに来てくれたんだ。


 ……嬉しいな。


 でも。


 ……ああ。


 そっか。


 みんな、お別れをしに来てくれたんだ。


 ◇


 不思議と、怖くはなかった。


 もちろん、寂しかった。


 もっと生きたかった。


 まだまだ、やりたいことがあった。


 でも、もう目を開けているのも大変だった。


 もっと、いろんなことをしたかった。


 中学生にもなりたかったな。


 制服を着て、友達と学校に行って。


 大人になったら、どんな仕事をするんだろう。


 そんなことも、考えてみたかった。


 ……残念だなぁ。


 やりたいこと、まだまだいっぱいあったのに。


 でも、私の十一年間には楽しいこともいっぱいあった。


 お父さんが描いた、ブタみたいな猫の絵。


 お母さんと約束した、公園での鬼ごっこ。


 友達とのおしゃべり。


 先生や看護師さんたちと過ごした時間。


 思い出すと、笑顔になれることばかりだった。


 ……ああ。


 私、こんなに大切にしてもらってたんだ。


 私は、自分の人生が嫌いじゃなかった。


 お父さん。


 お母さん。


 おじいちゃん、おばあちゃん。


 先生。


 看護師さん。


 友達のみんな。


 ……ありがとう。


 私と一緒にいてくれて。


 人って、死んだらどうなるんだろう。


 天国に行くのかな。


 それとも、どこかで生まれ変わったりするのかな。


 もし、生まれ変われるなら。


 今度は、元気な身体がいいな。


 ……そうだ。


 今度は、私がみんなを元気にしたい。


 お母さんは、私が笑うと元気になるって言ってくれた。


 お父さんは、いつも私を笑わせようとしてくれた。


 先生や看護師さんたちは、苦しいときに助けてくれた。


 みんなから、いっぱい元気をもらった。


 いっぱい優しくしてもらった。


 だから。


 もし、もう一度生まれることができるなら。


 今度は、私の番。


 私がみんなから、たくさん元気をもらったように。


 今度は、みんなに元気を分けてあげられる人になりたい。


 ……なれるかな。


 なれるといいな。


 視界が、少しずつ暗くなってきた。


 もう、お父さんとお母さんの顔もよく見えない。


 ……眠い。


 すごく、眠い。


 お父さん。


 お母さん。


 ここまで育ててくれて、ありがとう。


 私、生まれてきてよかったよ。


 だから。


 泣かないでね。



 ……。


 山岬亮子。


 享年十一歳。


 ◇


 ……ん?


 ……あれ?


 温かい。


 なんだろう。


 それに、なんだか眩しい。


 ……ここ、どこ?


 ゆっくり目を開ける。


 目の前には、知らない天井があった。


 とっても高い天井。


 大きな窓。


 きれいなカーテン。


 それから、ものすごく大きなベッド。


 ……え?


 病院じゃない?


 ここ、どこなの?


 ……私、生きてるの?


 不思議に思っていると、誰かが顔を覗き込んできた。


 きれいな女の人だった。


 長い赤い髪。


 優しそうな目。


 ……誰?


 見たことない人だ。


 その人が、私を抱き上げた。


 そして、何かを話しかけてきた。


「――――」


 ……え?


 何て言ったの?


 英語?


 ……違うなぁ。


 英語なら、学校で少し勉強したことがある。


 でも、今のは全然わからなかった。


 何語だろう?


 女の人は嬉しそうに笑っている。


 私をぎゅっと抱きしめて、また何かを話しかけてきた。


「――――」


 ……うーん。


 やっぱり、わからない。


 それより。


 ……あれ?


 身体が変だ。


 手を動かそうとする。


 すると、目の前に小さな手が見えた。


 ……え?


 何これ?


 ちっちゃ!


 指が、ものすごく小さい。


 足も動かしてみる。


 ……短い。


 なんだか、全身が小さくなっている。


 ……えっ?


 ちょっと待って。


 もしかして。


 ……赤ちゃん?


 私、赤ちゃんになってる!?


 びっくりして、思わず声を出した。


「あーっ!」


 ……。


 ……あれ?


 声まで赤ちゃんだ。


「あうっ! あーっ!」


 違う!


 そうじゃない!


 でも、口から出てくるのは、赤ちゃんの声ばかりだった。


「うあーっ!」


 すると、赤い髪の女の人が笑った。


 そして、私を優しく抱きしめてくれた。


 ……あ。


 温かい。


 なんだか、懐かしいな。


 お母さんに抱っこしてもらったときと、同じだ。


 ……そっか。


 私は今、お母さんの腕の中にいるんだ。


 私は、その顔を見上げた。


 優しい笑顔。


 何を言っているのか、まだわからない。


 でも、私を大切に思ってくれていることは、なんとなく伝わってきた。


 ……ねえ。


 お母さん。


 私、また生まれてきたみたい。


 こんなことって、あるんだね。


 ……不思議だなぁ。


 でも、ちょっと嬉しい。


 今度は、どんな人生になるんだろう。


 ……うん。


 忘れてないよ。


 私が最後にお願いしたこと。


 今度は、みんなに元気を分けてあげたい。


 赤い髪の女の人が、私の頬を優しく撫でた。


 私は、その手に触れようとした。


 まだ小さな手は、思ったようには動かなかった。


 でも、指先が女の人の指に触れると、その人はとても嬉しそうに笑った。


 ……えへへっ。


 私は、小さな手をぎゅっと握った。


 ……よーし!


 頑張るぞー!


「あーっ!」


 私が声を上げると、赤い髪のお母さんが笑った。


 その笑顔が、とても嬉しかった。


 そうして私は、アンカルジア王国の第一王女として、二度目の人生を歩き始めた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
王女様も、まさかの転生者! 洗濯機、のセリフになにかひっかかりを 覚えましたが納得。
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