泣き方を忘れた日
十歳の私は、あまり泣かなかった。
正しく言うと、泣かないようになっていた。
泣いても誰も来ないことを知っていたからだ。
ある日、学校で転んだ。
校庭で走っている時に足を引っかけてしまい、膝を強く擦りむいた。
じわりと血がにじむ。
周りの子たちは先生を呼んでいた。
「大丈夫?」
「痛かったね」
先生は優しく声をかけていた。
その子は泣いていた。
私はその様子を見ながら不思議に思った。
痛い時は泣いていいんだ。
そんな当たり前のことが、私には遠いものに感じられた。
家では違った。
痛くても我慢。
悲しくても我慢。
寂しくても我慢。
いつの間にか、それが当たり前になっていた。
その日の帰り道。
私は一人で歩いていた。
膝はまだ痛かった。
絆創膏の下でじんじんしている。
本当は少し泣きたかった。
誰かに「痛かったね」と言ってほしかった。
でも涙は出なかった。
家に帰っても母はいなかった。
私は一人で絆創膏を貼り替えた。
傷口に消毒液がしみる。
思わず顔をしかめる。
だけど、それだけだった。
夜になり、布団に入る。
天井を見つめながら考えた。
私はいつから泣かなくなったんだろう。
悲しいことはたくさんある。
寂しいこともたくさんある。
なのに涙は出てこない。
心のどこかで知っていた。
泣いたところで何も変わらないことを。
誰かが抱きしめてくれるわけでもないことを。
だから私は泣くことをやめたのだ。
十歳の子どもなのに。
まだ甘えてもいい年齢なのに。
その夜、私は静かに目を閉じた。
本当は泣きたかった。
本当は「寂しい」と言いたかった。
でも、その言葉は胸の奥にしまわれたままだった。
誰にも届かないまま。




