静かな夜の音
十歳の冬だった。
夜が嫌いだった。
昼間は学校がある。
友達もいる。
先生もいる。
だから寂しさを忘れられる。
でも夜になると違った。
家の中が静かになる。
母が帰ってこない日は特にそうだった。
その夜も私は一人だった。
時計の針は九時を過ぎている。
窓の外は真っ暗だった。
テレビをつけてみる。
誰かの声が聞こえるだけで少し安心するから。
でも番組が終わると、また静けさが戻ってくる。
私は布団にもぐり込んだ。
眠ろうとしても眠れない。
家がきしむ音がする。
風が窓を揺らす音がする。
遠くで車が走る音がする。
小さな音が気になって仕方なかった。
怖かった。
泥棒が来たらどうしよう。
地震が起きたらどうしよう。
具合が悪くなったらどうしよう。
十歳の子どもには大きすぎる不安だった。
誰かが隣にいてくれたら。
「大丈夫だよ」
そう言ってくれたら。
どんなに安心できただろう。
私はぬいぐるみを抱きしめた。
少しだけ温かかった。
でも本当は、人の温もりが欲しかった。
母の手。
母の声。
母の存在。
それだけでよかった。
時計を見る。
もう十時だった。
母はまだ帰ってこない。
私は天井を見つめながら、小さくため息をついた。
その時、玄関の外で足音がした。
思わず体を起こす。
母かもしれない。
期待した。
でも足音は通り過ぎていった。
知らない人だった。
私はまた布団に横になった。
少しだけ泣きたかった。
でも涙は出なかった。
泣いても誰も来ないと知っていたから。
やがて眠気がやってくる。
私は目を閉じた。
静かな夜の音に囲まれながら。
その音はいつも私に教えていた。
今日も一人だということを。
そして明日も、自分で朝を迎えるしかないということを。




