ひとりで食べる夕飯
十歳の冬だった。
時計の針は午後七時を過ぎていた。
外は真っ暗だった。
家の中も静かだった。
母はまだ帰ってこない。
私は居間のテーブルに座りながら時計を見た。
お腹が空いていた。
学校から帰ってから何も食べていない。
冷蔵庫を開けてみる。
昨日の残り物が少しだけあった。
私は電子レンジの使い方を覚えていた。
誰かに教えてもらったわけではない。
見よう見まねで覚えた。
温めたおかずを皿に移す。
一人分の夕飯。
テーブルには私しかいない。
「いただきます」
小さな声で言った。
返事はない。
テレビだけが騒がしく音を流していた。
食べながら学校のことを思い出す。
今日は算数で満点を取った。
先生にも褒められた。
本当は誰かに話したかった。
「見て!」
と答案用紙を見せたかった。
でも見せる相手はいない。
母が帰ってきても、
忙しそうだったり機嫌が悪かったりして言えないことが多かった。
だから私は話さなくなった。
嬉しいことも。
悲しいことも。
少しずつ胸の中にしまうようになった。
夕飯を食べ終える。
食器を流しに置く。
誰も褒めてくれない。
誰も「偉かったね」と言わない。
それでも自分で片付ける。
十歳の私には、それが当たり前だった。
窓の外を見る。
向かいの家の明かりが見える。
カーテンの隙間から家族の姿が少しだけ見えた。
みんなで食卓を囲んでいる。
笑い声も聞こえてくる。
私は目をそらした。
羨ましいと思いたくなかった。
思ったら苦しくなるから。
その夜、母が帰ってきたのは私が寝る準備をしている頃だった。
「ただいま」
その声を聞きながら布団に入る。
私は小さく目を閉じた。
本当は一緒に夕飯を食べたかった。
今日あったことを話したかった。
ただ、それだけだった。
でも、その願いは今日も言葉にならないまま消えていった。




