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陽だまりのセプテット  作者: ÷90
第3章 陽の当たる場所

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第45話 サヨナラなんて言わせない


      ====== 花音 ======


「花音!話しを聞いて!」


 慌てて部屋に入ってきたシオりんを睨んだ。怒りが抑えきれない。


「楽しかった?何も知らないアタシと一緒に過ごして」


「違うの!違うのよ、花音!お願いだから話しを聞いて!」


「アタシがどんな想いで過ごして、どれだけお兄ちゃんの事が大好きだったか……わかる?」

崩れていく……何かがアタシの中で音を立てて崩れていく。


「栞!何があった?か、花音!?なんでこの部屋に……」

騒ぎを聞きつけ、美優姉と響介が駆けつけてきた。


「花音、慶太郎の事黙っていてゴメンなさい。あの時、ウチに来たばかりのアナタは心が病んでいて、とても話せる状態じゃなかったの」

やめてよ、その名前を軽々しく呼ばないで。


「栞!ちゃんと話せって!花音の事は慶太郎が……」


「待って、美優。私に話させて」


 美優姉も知ってた?

ああ、そういう事か。美優姉がアタシを贔屓してた理由はアタシの生い立ちじゃなくて……。


「花音、とりあえずリビングへ行きましょう、慶太郎の事、ちゃんと話すから」


 もういい、アタシは結局いつも誰かの思惑の中の操り人形だ。アタシの人生は誰のものなの?


「呼ぶな……」


「か、花音?……」


「お兄ちゃんの名前を軽々しく呼ぶな!!」


「花音!お前、いくらなんでも言い過ぎだろ!」


 美優姉がアタシに詰め寄ってくる。響介がそれを制し、アタシを庇うように前に立つ。


「響、どけ!」


「落ち着いてください、美優さん!言い争っても何も解決なんてできやしない。話し合うようにすべきだ」


 響介、なんで来たのよ。アナタも邪魔なのよ、そうやって誰にでも優しくしようとするアナタは。


「出て行ってよ!もう誰もアタシに構わないで!!」


 いらない……アタシにはお婆ちゃんと六花がいればいい。アンタ達に心を許したアタシが馬鹿だった。

もう誰も……



     アタシの心に触れるな!!!!



「花音、本当にゴメンなさい。私は……」


「もう、話さないで!何も聞きたくない!!」


「花音!少しは栞の話しを聞けって!」


「栞さん、美優さん、とりあえず出て行ってもらえませんか!今の花音は落ち着いて話せる状態じゃないです」


「うるさい!どけろ、響!幾らなんでも言っていい事と悪い事があんだよ!」


「いい加減にしろ!!出て行けっていったんだよ!美優!今の2人は花音の気持ちを見てやってないじゃないか!話しを聞け?落ち着け?今必要なのはそんな言葉じゃないだろ!」


「美優、響ちゃんの言う通りだわ、行きましょう。ゴメンね花音、リビングで待ってるから」


 話しの内容が頭に入ってこない。アタシは堕ちてく感覚に身を任せていた。不思議と嫌な気分ではない、(むし)ろそれはいらない物を削ぎ落とす為の儀式の様にも思えた。



     アタシはここで生まれ変わるんだ



「アナタもよ、出て行って響介」

いらない、誰にでも優しくする様な男は。


「花音、何があったか話してくれないか?お前の力になりたいんだよ」


パリン!

その言葉にアタシの中でガラスの様な何かが砕けた音がした。きっとそれはとても繊細でアタシの心が壊れないよう包んでいた何か。それは響介が誰にでも見せる薄っぺらい優しさに耐え切れなくなって粉々に砕け散った。


「出て行ってって言ったでしょ!嫌なのよアンタのその誰にでも優しくするところが!寄り添う振りして思わせ振りな態度!楽しい?人の心を弄んで!」

嫌い……嫌い、嫌い、嫌い、大嫌い!


「花音、そんなつもりじゃないんだ!俺はホントに心配してるんだよ!」


「アタシの気持ち知ってるよね?返事はいつでもいいよとは言ったけど、他の子とイチャつくところ見せられるこっちの気持ちも考えてよ!!」

言ってやる、全部吐き出して終わらせてやるんだから!


「ゴメン、そんなイチャついてるつもりはなかったんだよ……悪かった、ホントにゴメン!」


「はあ?あれでイチャついてないなんてどういう神経してんのよ!アンタなんか大嫌い!!」


 言ってやった、馬鹿にしないでよ。そんなに都合のいい女じゃないんだから。ホント、アタシって男見る目ないんだな。でももう終わり、終わったのよ。


「待ってくれ、花音!俺は……俺の気持ちも聞いてほしい!」


「出て行ってよ。アンタと話す事はもう何もないわ」

終わったのよ、アタシの勘違いした哀れな恋は。


「花音!」


「しつこい!出て行ってって言ったでしょ!2度と顔見せないで!」

さようなら、一華か来愛かそれとも両方?後は好きにやんなよ。


「花音……そんな風に思わせてゴメン、確かに花音の気持ちを知ってたのにゴメン。今頃自分の気持ちに気付くなんて、花音が1番大切だって。……一華には俺が誰を好きかはもう伝えたんだ、来愛にも言おうと思っていた、俺は花音が好きだって」


 ……な、何を言ってるのよ。

ダメよ、こんなウソに耳を傾けちゃダメ。これがこの男の手口なんだから!


「一華があの時の女の子だって知った時嬉しかった。でもそれ以上に花音の存在が俺の中で誰よりも大きい存在だってハッキリわかったんだよ。でも遅かった、いや、俺の曖昧な態度が花音を傷付けてしまったんだね」


「言ったでしょ、アンタとはもう話す事は何もないの!何度も言わせないで!早く出て行ってよ!!」

許せない、今更何言ってんのよ。もう、遅いんだから。



          サヨナラ


「……」

部屋を出て行く響介の背中は初めてアンソレイユに来た時の様に自信無さげで寂しそうに見えた。


 これで終わり、せいせいしたわ。

これからどうしようか、もうなにもかも面倒になってきたな。生きていてもしょうがなくない?


 アンソレイユでの生活が偽りだったのは凄く辛い、でも響介との終わりに自分が思っていた以上に心が引き裂かれた。


 さっき、何て言ったのよアイツ。

アタシの事が好き?今更でしょ……。


「アアァァァァァァァー!!」


 抑え切れない気持ちが胸を押し潰す。心の中をメチャクチャに掻き乱す。


「何よ!今更!ふざけないで!ふざけるな!どれだけ人の心を弄ぶのよ!!」


ドン!ドン!ドン!

床に崩れるように膝をついたアタシは、悔しくて、悲しくて、切なくて、何度も床を叩いた。


 響介だけは何があってもアタシを助けてくれると信じていたから。やっと、やっと、やっと、そんな人に巡り会えたと思ったのに!!今のアンタは信用できないのよ!!


 今更……遅いのよ……。


「なんで……なんでなのよ……ウッ、ウウッ、アアァァァァ……」


 なんで生まれて来ちゃったの?アタシ……。

そのまま床にうつ伏せになった。お兄ちゃん……お兄ちゃんが生きていたらアタシを助けてくれたのかな?


 シオりんは、お兄ちゃんの奥さんだった。だからアタシを受け入れてくれたんだ。きっとお兄ちゃんもアタシの事をシオりんに話していたんだろうね。


 お婆ちゃんもなんで最初に言ってくれなかったんだろう。シオりんはアタシがお兄ちゃんの妹だから守ろうとしてくれたのかな。だったらなんで言ってくれなかったのよ!言ってくれたら、お兄ちゃんの奥さんだって言ってくれたら……



      アタシは受け入れられた?



 嫌になった。

大好きなお兄ちゃんを失ったアタシが、知らなかったお兄ちゃんの奥さんを、家族を、アタシ以外に、いや、アタシ以上に大切にしていた存在をアタシは受け入れられた?


「ウウッ……ウッ……エッ……できるわけないじゃない……あの時のアタシにそんな人達……認められるわけないじゃない……」


 涙が止まらなかった。シオりんは隠してたんじゃない、言わなかったんじゃない。



        言えなかったんだ



 本当は伝えたかたっんだろう、もしかしたらお兄ちゃんの事、アタシにいっぱい話したかったのかもしれない。


「うわぁぁぁん!……っ……うっ、は、ぁ……ッ! ……ちがっ……こんな……つもり、じゃ……っ、う、ああああああん!!」


 子供の様に声を荒げて泣いた。世の中には答えを出せない救いのない世界がある事を知った。シオりんはそんな世界を1人でずっと抱え込んで生きてたんだ。



《楽しかった?何も知らないアタシと一緒に過ごして》


 

  アタシはなんて事を言ってしまったんだろう



        消えてしまいたい



 ギシッ。


 その時、部屋の壁の向こう側で床が軋む音がした。廊下に誰かいる。シオりん?


 いや違う、きっと響介だ。

だってアイツ、諦め悪いもん。


 思い出した、今更。

響介は誰にでも優しいんじゃない。ただ、助けようと必死なだけだ。傷付く事なんかお構いなしな無鉄砲なヤツ、そのくせ後から落ち込む様な馬鹿なヤツ。


 ハッキリしない態度は煮え切らなかったけど、深い悲しみを背負いながらも、自分と向き合って人の為に生きようと一生懸命なアイツだから好きになったんだった。不器用だけど、もがきながらも真っ直ぐ進もうとするそんなところが……。


 そしてもう一つわかってること。それは、響介は、こんなアタシを見捨てない。ううん、こんなアタシだからこそ見捨てない。


 だからアタシに振られても心配して、まだそこにいるんだ。



 アタシはドアを少し開けた。

廊下に、やはり人の気配がする。

アタシはドアを開けたまま、その場に座り壁にもたれた。


「いるんでしょ?まだ」


ギシッ。

アタシの声に反応した気配がドアに近づいて来る。


「入ったらダメ!アナタも座りなさい、そこに」

その気配が丁度壁を通してアタシの裏側に背中を預けた音がした。


「アタシね、ささやかな夢があったのだけど、先程アナタに壊されたわ。好きな人に素敵な告白をされたかったのよ、恋愛ドラマのような」


 何も言わないか、振られた後じゃ。

「それなのに、何?あの告白。あのタイミングで言うかな……」


「焦ってた、花音がどこかに行ってしまいそうで怖かったんだ」


「手、握って」

アタシはドアの隙間から廊下へ手を伸ばした。その手を響介の温かい手が包む込む様にそっと握ってくれた。


「今度ちゃんと言い直してよ、告白」


「えっ?俺、振られたんじゃ……」


「嫌いだよ、他の子に優しくし過ぎるところは」


「ゴメン、これからは気を付けるから!」

響介の握る手に力が入る。


「でも……それ以外は、大好きだからね!」

アタシも応える様に強く手を握り返す。


「花音、俺も大好きだよ!ゴメン、ダサい告白で。慣れてないんだ恋愛に。それから他の子に優しくし過ぎてゴメン!」


 伝わってくる。握る手を通して、響介の熱い想いが伝わってくる。


「……けて……助けてよ、響介……」

アタシは生まれて初めてその単語を口にした。誰かに初めて心から身を委ねた。


「ああ、任せろ!花音は俺が絶対守るから!」


 アタシは知っている、響介は身を挺してまで誰かの為に動く人だって。そんな人がアタシを好きになってくれた嬉しさと安心感が冷え切った心に温もりを与えてくれる。



 アタシは今、初めて素直になれたのかもしれない



「こんなアタシを好きになってくれてありがとう、響介。壊れそうだった、今回はホントに危なかったわ」


 響介が握る手を離した。

次の瞬間、部屋に入って来た響介はアタシを強く抱きしめた。また、涙が溢れる、そしてアタシは決意した。


「アタシ、アンソレイユを出るわ」


「えっ!?待って、花音!栞さんや美優さんとちゃんと話そうよ!一緒に!」

響介、すごい慌ててる。もう、そんなにアタシと一緒に居たかったの?なんか可愛い。


「フフ、大丈夫よ、響介。前に進む為なんだから、(きた)る日の為にね」


「来る日?」


「響介はアタシを助けてくれるんでしょ?」


「勿論!絶対!」

響介ゴメンね、アナタを巻き込みたくないって思ってたけど、もうそれはやめるわ。一緒に戦ってほしい、だから…….。


「全部話すわ、アタシが桐島グループのお嬢様だってことも、シオりんの旦那さんがアタシのお兄ちゃんだってこともね」


「えっ……えっ!ええーー!?お嬢様!?慶太郎さんが花音のお兄さん!!」


 

       ====== 響介 ======

 

 慶太郎さんの部屋で俺は花音から今に至るまでの生い立ちを聞いた。涙が止まらなかった、花音を守りたい、幸せにしてあげたいと強く思った。


「さて、シオりんと美優姉に謝ってくるわ、お兄ちゃんの事も沢山聞かせてもらおうかしら。一緒に来てよ彼氏さん」

か、彼氏!?


「あ、あの、えっと、俺が彼氏でいいんですか?」


「なんで敬語?フフッ。両思いなのに付き合わないつもり?さてはアタシのお家柄に臆したかな?」

花音が首を傾げて俺の顔を覗く、その顔にはいつもの笑顔が戻っていた。


 そうだ、俺はこの笑顔が好きなんだ。沈んだ時に背中を押してくれる花音の存在は俺にとって太陽そのものだ。


 時には灼熱の様な激しさを見せるけど、アンソレイユが春の優しい陽だまりなら、花音は眩しくて力強い真夏の太陽、俺が1番好きな季節の太陽だ。


「ビビってないし!ただ……」


「ただ?」


「初めての彼女だから嬉しくて、ちょっと舞い上がってる」

言っててメッチャ恥ずい!


「もう!可愛いんだから!」


 花音が抱きついてきた。

花音は頬を赤らめジッと見つめた後目を閉じた。俺は花音を強く抱きしめ唇を重ねた。花音の未来と笑顔は俺が絶対に守ってみせる。



 その後、花音と栞さんと美優さんは暫く慶太郎さんの話しで盛り上がっていた。俺はそんな花音を隣りで見守っていた。


 そして花音は遂にあの言葉を口にする。


「シオりん、美優姉、今までありがとう。アタシ、アンソレイユを出るわ」

その衝撃な言葉に美優さんは声を荒げた。


「何言ってんだよ!花音!栞が慶太郎の事話さなかった理由、納得したんじゃなかったのか!」


「ううん、もうその事は気にしてないわ」


「だったらなんでだよ!」

花音は前に進む為と言っていたけど、アンソレイユを出る必要はあるのだろうか。


「アタシは18歳になったらあの家に戻らなければならない。でもね、もうお父様の言いなりにはならないわ、抗う為、自分の道を切り開く為にお婆ちゃんのところで色々勉強したいの」


「でも、でもさあ……」

美優さんの強く握った拳は膝の上で震えていた。


「出て行くなんて言うなよ!私はサヨナラなんてしないからな!」

美優さん……。


「花音、ウチからお婆様の所に通えばいいんじゃない?それとも慶ちゃんの事を隠していた私の事が許せない?」


 栞さん。これは誰が悪いわけでもないんだよ、そう言いたいけど慶太郎さんの事を知らない俺が口を出せるものじゃない。


「シオりん、その事はもう和解したじゃん。今のアタシはお兄ちゃんを褒めてあげたいよ、よくぞシオりんをゲットしたねって!こんなに素敵な人がお嫁さんに来てくれて良かったねって」


「か、花音……ありがとう……」

栞さんの目からは大粒の涙が溢れ落ちた。


「これはね、サヨナラじゃないよ、アタシの旅立ち。

それをお兄ちゃんのおウチからできるなんて最高じゃない!」


 戻ってきた、これが花音なんだよ。真夏の太陽が更に眩しく輝く、周りを焦がす程に。


 こんな花音のそばにいれるのは俺くらいだろう。



 そしてその週末、花音はアンソレイユから旅立っていった。












花音がアンソレイユを出て半年が過ぎ、父親との約束の期日が迫る。そんな中、新たな出会いに嵐の予感が……。花音の祖母、桐島橙子と響介が出会う。かつて女帝と言われた女が響介に興味を持ち始めた。


第46話 女帝の慧眼 4/23 お昼更新です!


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