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陽だまりのセプテット  作者: ÷90
第3章 陽の当たる場所

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第42話〜約束の樹の下で〜中編 一華の覚醒


 「えっ、同じクラス?……」

 西川は思わず一華を凝視する。


「……名前、教えてくれない?」


「小学校の時、2年生の終わりに転校したから覚えてないとは思うけど、夢野一華だよ」

名前を伝えた一華の顔はどこか寂しさが漂っていた。


「夢野一華……あー!!思い出した!!いっちゃん!?

いっちゃんでしょ!!」


「えっ?あっ、うん……」


 何、この温度差……。

さっきまで怪訝そうに一華を見ていた西川は、一華を思い出しテンション爆上がり。一方の一華というと、西川が覚えていた事を喜ぶかと思いきや浮かない表情。


「覚えてるよ!だって、いっちゃんメッチャ足速かったじゃん!それにさ、いい名前だよね!夢野一華って!芸能人みたいじゃん!でも、何かつれなかったよねえ、アハッ、そういうこと?嫉妬してたんだ!可愛いー!」


 西川は一華の手を握り「久し振り!」みたいな感じでキャーキャー騒いでる。

思い出した、コイツこういうヤツだった。初めは警戒心モロ出しだが、一度垣根を越えると猫みたいにじゃれてくる。


 ん?待てよ。

ふと疑問に思う事があった。綾姉の家に行った時久し振りにコンビニで西川に会った時警戒されなかったな?その時に連絡先交換したから来愛の事件の時、進む事が出来たんだ。


 まさかな……。

あの時から来愛は下準備してた?

もしそうだとしたらと思うと鳥肌が立った。

これ以上考えるのはやめよう、知らぬが何とやらだ。


「そっかー、いっちゃんちシェアハウスやってんだ。そこに真壁も……ふーん」


 なんの「ふーん」だよ。


「大丈夫だよ、いっちゃん。真壁奪ったりしないから。私彼氏いるし」


「そ、そうなんだ」


 あれ?一華のヤツ急にしおらしくなってんぞ?


「ところで何の用事だったんだ?西川」


「いやー、あのさー、兄貴がね、来愛さんと会いたがっていてね、電話も出ないし、メッセも返って来ないし。それで真壁に頼めないかって」


 うーん、来愛の気持ちを知ってる俺には何て答えたらいいのか。


「来愛は今、おウチの事で忙しいんだ。辛い事が沢山あったし。だから来愛の事思ってくれるならもう少し、そっとしてあげてほしいな」


 一華?

俺が答えるまでもなく、一華の見事な返し。

キミ、ホントに一華?


「そっか、そうだよね。お兄ちゃんちょっと舞い上がってるんだ、来愛さんがあまりにも美人だったから」


 まあ無理もない。ただ惜しい事をしたな先輩。あの時来愛を信じていたら、2人はきっと結ばれていただろうに。


 その後俺たちは当時の話しで盛り上がった。


「西川、俺達これから晩飯なんだ、そろそろ帰らなきゃならなくてさ」


「わかった、それじゃ、今度同窓会やろうね!またね!いっちゃん!真壁!」


 西川と別れ俺達はアンソレイユへと帰る。

西川も今は色々と大変だろう。もしかして他に話したい事があったのかな。


「……」


「……」


 帰り道沈黙が続く。一華は手を後ろに組み、俯きながら俺の隣りを歩く。小麦色に焼けた肌は活発な一華らしい魅力の1つだよな。


 いやいやいや、違うだろ!何でコイツ、あんな爆弾発言してその後何も言わないの?何、この空気?この後どう接したらいいの?この後の第一声が凄く大事な気がする!!


「あ、あのね……」

一華が重い空気の中、声を絞り出す。


「あ、明日、晴れるかな?」

えっ?ええっ?


「た、多分。今、星見えてるし」


「そ、そうだね……」


「……」


 何やってんだよ!俺達!

なんだかんだで、もうアンソレイユに着くじゃないか。


「あ、あのさ!」

一華の細い肩がビクッと震えた。

このままアンソレイユに入ってしまったら言えなくてなりそうだ。


「一華、お前は本当にあのチーなのか?」


「う、うん……」


 一華はキュッと唇を噛み締めた。


「だったらなんで黙っていたんだよ。やっぱ俺の事恨んでたんだよな」


 そりゃそうだ、大人さえも躊躇する様な大雪の日に、子供が外出するなんてどうかしてる。それなのに何故来なかったの、じゃないよな。挙句いいだけ文句言って傷つけてしまった。


「あの時はホントごめん!」

「ゴメンなさい!」


 えっ?かぶった?

何故か謝る一華。同時に謝った空気が場を和ませる。思わず2人とも笑ってしまっていた。


「なんで一華が謝るんだよ。俺が悪かったのに」


「違うよ、許してほしいのはアタシの方だよ。あんな雪が積もってる中、約束守る為にヒビキがあの公園に来ていただなんて。しかもあの時2年生だよ?どんなに大変で怖かったんだろうと思ったら、あんな酷い事を言ってしまった自分が許せなくて……ホントにゴメンなさい」


 そんな事ないだろう。一華は何も悪くない。


「あの時の一華の言葉は本心じゃないだろ?それに今思えば、何で電話しなかったんだろって思う。公園に行く前にチーに電話していればよかったんだよな、ハハ」


 一華はうっすら涙を浮かべていた。


「チー、ホントにチーは悪くないんだから気にすんなよ。それよりも俺だとわかっていて、なんで言ってくれなかったんだ?」


 そうだよ、最初は敬遠されていたけど、仲は悪くなかっと思うんだが。


「響介がヒビキだって気付いたのは最近なんだよ」


「最近?」


「うん、ファミレスで西川楓に会ったでしょ?あの時だよ」

ホントに最近じゃないか。


「同じ学校でヒビキもアタシも知ってる西川楓なんて1人しかいないじゃん。それにアタシね、さっき西川に言われた通り嫉妬してたからさ、学校ではアタシよりヒビキと話してた子だから。だから西川楓の事は覚えていたんだよ。だからもうこれは確定だな、って思ったの」


「なんか、すごい偶然が重なってたんだな」


「ううん、多分偶然じゃないと思う……」


「えっ?」


 一華の言葉の意味を俺は理解出来なかったが、この時は特に気にはしなかった。


「響介がヒビキだって気付いた時は嬉しさと怖さが半々だった。響介がヒビキだったらいいのにって、ずっと思ってたから」


「一華……」


「でも、あんな別れ方したから、どう思われてるのかすごく怖かった。気付いたタイミングもタイミングだったし、来愛の件が落ち着いたら話そうと思ってたんだよ」


「俺の事嫌いになったんじゃなかったのか……」

あんな酷い事を言ってしまったのに。


「そんな訳ないじゃん!アタシがヒビキを嫌いになるなんてない!……アタシの方が嫌われてると思ってた」


「そんな事ないよ、チー!」

俺の世界はあの日から色を失ったんだ。それだけ俺にとってチーの存在は……。


 言おうと思った想いを言葉に出来なかった。胸が一瞬痛む、その痛みが言葉にする事を拒否していた。


「フフ、おかしいね、2人共同じ事言ってる」

そう言って笑う一華の無邪気な笑顔はあの時と変わらなかった。


「そしたらね」

一華はピョンと後ろへ軽く飛んだ。


「改めまして、アタシは夢野一華、高校1年生。好きな事は走ること!」


 何かと思えば自己紹介?相変わらずチーは独特の世界を持ってるな、でも一緒にいて心地良い世界。それが彼女の魅力なんだ。


「俺は真壁響介、高校1年生。親元を離れここ、アンソレイユでお世話になってます」


 互いに一歩近づく。この雰囲気は……。



「へぇー、互いに自己紹介して新しい遊びかしら?」

なっ!?か、花音!?


「な、な、なんでお前がここに!?」


「外で声がするから出てみたらどこぞのバカップルがイチャついてるんですものね。もう少し場所を考えてくださらない?」

なんかメッチャ怒ってんな!夏なのに寒気がするよ。


「か、花音さん、これには色々と訳がありまして。なあ、一華」


 えっ、あれあれー?

一華さん、顔赤らめて何モジモジしちゃってんの?

これじゃ余計こじれんじゃん!何か言ってよ!


「何があったのかしら?その距離感。いつもならそばにくっついてるのに、そのよそよそしい距離は何?」


「……えっ、いや、いつもこんな感じでしょ?そうだよね、響介?」

何、その恥じらい!何でいつもみたいに言い返さない!?


「ウソ!?もしかしてアンタたち、乳繰りあってた?」


「そんな訳ないだろ!!」

花音のヤツ何言い出すんだよ!


「だって……出て行ってかれこれ1時間。乳繰り合うには充分な時間だよね?でもこの辺りって何も無いし……もしかして外でヤッたの!?大胆過ぎるでしょ!」


「するか!!てか、一華もいい返せ……」

えっ?

一華は耳を真っ赤にして顔を両手で覆っている。

何やってんの!?誤解が加速するじゃんか!


「やっぱり、アンタたちヤッたのね!」

ビシ!


「イタッ!」

花音の後ろには呆れ顔した美優さんが立っていた。


「馬鹿な事言ってないで入んな。メシが冷めちまうだろ」

ふう、とりあえず助かった、のか?


〈あの呼び方は2人の時だけね〉

俺の耳元で一華は囁いて玄関に駆けていく。


「たっだいまー!お腹空いたー!」


「ハハ、戻って来たな。この騒がしさがいつものアンソレイユだ」

美優さんは嬉しそうに笑った。


「そうですね、ホント良かった」

あの事件がウソだったように思えてくる。


「何も良くないが?」

俺の真後ろで、背後霊の様にピタッとくっついた花音が低い声を漏らす。


「いや、花音、色々誤解だって、何もないってば!」


「ほら、早くいらっしゃいな」


 栞さんの声に救われ俺はいそいそとキッチンへ向かった。俺の背後でシャツの裾を掴む花音を引き連れて。


 

——朝


「花音、早くしてよ!やっぱアンタ起きれなかったじゃん」


「しょうがないでしょ、アタシ、スロースターターなんだから」


 昨日、夕飯を食べてる時に来愛から提案があった。来年の春には卒業してアンソレイユを出るから皆んなで登校したいと。皆、快く承諾した。なんだかんだ言って仲いいんだよな。


「でも、花音さん。明日からはもう少し早く起きて下さいね、ウフ」


「来愛ちゃん、お嬢様モードになってる!色々器用だよね、凄いなあ」


「ウフッ、ココタン。女はね、演技力なのよ」

来愛が言うと説得力があるよ。それを散々見せつけられたからね。でも一華みたいにどストレートな人間もいるけどね。


「いやあ、凄い絵面だな。いつも見慣れてるとはいえ、制服姿で集まっているところをみると圧巻だよ。美男美女の学園ドラマを見ている気分だよ」


 美優さんは玄関で腕組みしながら悦に至っているご様子で。しかしこの人、いつ大学行ってんだろうか。



 ココは中学校だから途中で別れる。わかってはいたが、同じく登校している生徒たちからの視線がエグい。


「何アレ!?ウチの学園の各学年の美女が一緒に登校してる!?」

「キャー!なになになに!?ドラマの撮影?あの男の子メッチャかっこいいんだけど!?」

「それぞれ違う美しさだよな、揃った時のインパクトよ!」

「奇跡だ!朝からついてる!でも何で一緒に登校?」


 驚いたのは生徒達だけではなく、一般の人達からも注目されていた事だ。まるで芸能人だな。



 教室に入ってからはずっと質問攻めの日だった。

この話題で学園内は1日中大騒ぎとなっていた。


 放課後もクラスメイトに捕まり質問攻め。シェアハウスとはいえ、あれほどの美女達と住んでるんだもんな、あれこれ想像されるだろう。シェアハウスで同居している事を公開していいって皆んな言ってたけどアイツら大丈夫なのか?



 ようやく解放された俺はこれ以上誰かに捕まっては堪らんと逃げるように学校を出た。


 ここでもし、花音か来愛と出会して一緒に帰るものならまた更なる噂が立ってしまう。


 一華は部活か。一華がチーだと知り、嬉しかった、仲直りも出来たし。陸上部に入っていた事も納得だ。


   《オリンピックで金メダル獲ってよ!》


 頑張れよチー。


 そんな未来の一華を想像しながら帰路についた。

陸上部でたった今、小さな事件が起きているとも知らずに。



      ==================


「おいおいおいおい、ウソだろ?神宮寺が負けた?」

「ウソでしょ?このタイム……玲彩のベストタイム上回ってる!」

「でも非公式でじゃん」

「だとしてもよ。玲彩は決して調子悪くはなかったんだから」

「キャプテン……」


 誠穣学園陸上部に新たなスターが誕生した瞬間だった。



 

新人戦!辛い過去から解放され本来の走りを思い出した一華は順調に勝ち進み、全道大会へ。

だが、練習中のちょっとした怪我から調子を崩してしまい……。


第43話〜約束の樹の下で〜後編 あの日の2人

4/9 お昼に更新です!

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