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陽だまりのセプテット  作者: ÷90
第3章 陽の当たる場所

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41/50

第41話〜約束の樹の下で〜前編 ヒビキとチー

いつも『陽だまりのセプテット』を読んでくださりありがとうございます。仕事が落ち着きようやく再開できる事となりました。変更点がありますのでお知らせいたします。

休載期間中に物語全体の構成を見直し、残りの展開を再整理しました。

結果、当初は4章までの予定でしたが、今回から始まる3章で完結したいと考えております。短縮する所はありますが物語の核心をしっかり描き切る形で完結させたいと考えています。

最後まで責任を持って書き切りますので、ぜひ見届けていただけたら嬉しいです。


 今、俺達アンソレイユの面々はリビングに集まっていた。

 

 あの騒動から何日か過ぎ、来愛がアンソレイユに戻ってきたのだ。服装は今までの様なコス寄りの可愛い系ではなく、あの日の様なTシャツにジーンズという質素なものなのに相変わらず破壊力がエグい。


「先日は大変ご迷惑をお掛け致しました。皆さんを騙して巻き込んでしまって本当に申し訳なく思っております」


 来愛の謝罪を皆、真剣に受け止めているようだ、事が事なだけに。


「本当はこんな事言える立場じゃないけど、言わせてください。私、まだアンソレイユにいたい!」


 皆、目を丸くし顔を見合わせている。それもそのはず、来愛の両親は離婚した。しかも精神を患っている母は今までは1人でどうにか出来たかもしれないが、今回の件で症状が悪化したと優莉愛さんから聞いていた。だから来愛は実家に戻るものだと皆思っていたのだ。


「来愛、お母さんは大丈夫なの?病気患っていたんじゃなかったかしら?」

栞さんが切り出す。


「引越しするんです。病院も札幌の病院を今お姉ちゃんが探してます。病院が見つかったらその近くに引っ越す予定です。お姉ちゃん、お母さんと一緒に住むって言ってくれてます。だから見つかるまではお姉ちゃんは実家から会社に通うって言っていました」

優莉愛さん、お父さん絡みで会社でも大変だろうに、凄い人だ。


「私も来年卒業したら、お姉ちゃんとお母さんと住む事に決めました。だから、それまではどうかもう少しここに置いてはくれませんか?」


 皆んな表情が固いな、本当はいいよって言いたいんだろうが、あんな事件の後じゃ簡単には言えないのかな。


「ホント、問題児だらけだよ、ここの住人は」

はあ、と息を吐いた後、美優さんが口を開いた。


「特にアンタみたいな超問題児、ここで監視すべきだと私は思うけどね?」


監視って。

でもこれが素直に言わない美優さんらしい優しさなんだよな。


「アタシは特に言う事はないわ、アタシも住まわせてもらっている身だし。でもセカンドシェフが居なくなるのは痛手だと思うけど?」


 髪をしきりに弄りながら照れくさそうに言う花音。

こっちも素直じゃないな、ハハ。


「わ、私は来愛ちゃんいないと寂しい!」

ココ……。相変わらず優しい子だな。


 皆、一華に注目してる。

ん?見たいな顔すんなよ、空気読めや。


「あ、アタシの番?みたいな?」

ダメだ、コイツ。皆んな呆れ顔してんじゃん。


 すると一華はソファから立ち上がり来愛の後ろに回った。

バシーン!


「イ、イッターい!!」


 一華は割りと強めに来愛の背中を叩いた。

その音に皆目を丸くして驚く。

何してんの、アイツ!?


「これでヨシ!と。お帰り、来愛!」

「いっタン……」


パン!

栞さんが両手を合わせる。


「それじゃ、今夜はお祝いにしましょう。夏休みも今日で終わりだし、心機一転してまた皆んなで過ごせる日常をお祝いしましょう!」


 一気に場の雰囲気が和みいつものアンソレイユが戻ってきた。


 この場の雰囲気を変えたのは間違いなく一華の背中ビンタだな。あの強めのビンタは多少なりとも皆んなに来愛への罰のような錯覚を与えた。


 皆んなあんな事件からいつもの日常に戻るキッカケがほしかったんだと思う。それを本能でやっちゃう様な一華の存在は貴重だな。


 でも、違和感。


「あ、あの、俺何も言ってないけど、いらない感じ?」


 そう、俺だけが来愛に何も言ってない。

もしかして、俺、発言権無し?


「響は聞くまでもないじゃん」

美優さんの一言で皆んな笑い出す。

何なんだよ。


「でもまあ、一言締めてもらいますか!」


 締め?相変わらず無茶振りする人だ、美優さんは。

まあ、でも。


「お帰り、来愛!」


「響くん!皆んな、ありがとう!」


 涙を流す来愛に寄り添うアンソレイユの皆んなをみてると、ようやく実感が湧いてきた。アンソレイユが崩壊するんじゃないかと思ったほどの「魔女来愛」のシナリオが、何とか最悪の悲劇にならず終幕したんだと。


「ちょっと待って」


 なんだ?もう1人の問題児一華が空気を変えそうな一言を言う気がする。


「来愛、響介の呼び方変わってる!」


「あら、気付いちゃった?フフ」


 なんか嫌な予感。


「響介、響介くん、響、響ちゃん、響ちん。皆んな呼び方違う、ズルい!アタシも特別感ほしい!」


「響介さんでいいんじゃない?」


「花音、人ごとだと思って!」


早く部屋戻りたい。


「響様」

「響介マン」

「響の介」

「響太郎」

いや、名前変わっとるがな!


「お姉ちゃん、無理に変えなくてもいいんじゃない?」

ココの言う通りだよ、皆んな、やれやれ顔してんじゃん。


          ヒビキ!


え……?


「一華、もう原型止めてないじゃない、やれやれね」


 その呼び名に心臓が跳ね上がった……。


「チッチッチ、響はヒビキとも読めるのだよ、花音?ミジンコちゃんには難しかったかな?シシ」


ビシ!


「イッタいなあ!アタシの賢いオツムに嫉妬してオツムにチョップだなんて子供過ぎて返す言葉もないのだよ!」


「充分返してると思うけどね!」


「ひゃあー、頭グリグリしないでー!花音!ハゲる!ハゲるー!」


「ほら、アナタ達、それまでにしてお買い物に行きましょう」


 一華の一言に俺はまだ動揺していた。

なんでこんなにも胸が締め付けられる?


「い、一華……お前は……」


「響くん、ほら、買い物行きましょうよ」


 ふわりと甘い香りを乗せ来愛が俺の後ろから耳元に囁く。一華へ言いかけた言葉は一瞬にして喉の奥へ隠れてしまった。む、胸の感触が……。


 しかしすぐ来愛から俺を剥がす様に花音が俺の手首を掴み引っ張る。


「車乗るわよ」


 そう言って来愛を一瞥する花音。来愛は「どうぞ」と言わんばかりに笑顔を見せ、胸元で小さく手を振った。そして俺はそのまま花音に連れられ外に出た。


「ねえ響介、あの日、来愛と何かあったの?」


「あの日って?」


「来愛が見つかった日、来愛のお父さんが現れて色々あった日。最後2人でどこか行ったでしょ?」


 あ、あの日か!?

真っ先に思い出したのは来愛の不意打ちキスだった。来愛の柔らかい唇の感触が甦る。

はっ!?花音の鋭い視線が突き刺さった。


「何かあったわね、その顔は!来愛もすっかり雰囲気変わっちゃうし。ねえ、何があったの?あの日!」


 花音の顔が近い。息が掛かるほどの距離に後退る俺を、シャツを引っ張って逃さない。その熱に押されそうになる。


「何もなかったよ。ね?響くん」

唐突に現れたその声の主は俺を取り返す様に車へ連れて行った。


「ちょっと、来愛!響介を返しなさいよ!」


「あら?響くんはアナタの物ではなくってよ?」

ギュッ。

腕に伝わる柔らかい感触に本能が服従する。


「離れなさいよ!アンタの物でもないでしょ!」


「何やってんだお前ら、早く車乗りな」


 美優さんの計らいで俺は助手席へと隔離された。来愛が戻って来た事は嬉しいが、今までにない火種が生まれた様な気がする。この先に一抹の不安がよぎりため息をついた。


「モテる男は辛いね、てか?それにしても、来愛のあの変わりようさね。落ち着いてふんわりした空気になったな。加えてあの抜群なスタイルで美人なお姉さんの存在は、健全な高校生男子には堪らないだろうな、ヒヒ」


「そんな事……ないです」


 揶揄(からか)うように笑う美優さんに真っ直ぐ言い返せなかった俺は半ばその事実を認めた様なものだった。



 買い物を終え、帰ると一気にキッチンが騒がしくなる。皆、今日の夕飯の豪華さにテンションが上がっている。刺身に焼肉にオードブル。そしてその料理を作る3人の華やかさに目を奪われた。栞さん、来愛、花音。この3人で店出したら、たちまち人気店になるだろうな。


「誰を見て惚けてるのかな?色欲くん」


「し、色欲ってお前、料理を見てたんだよ、料理を!」

一華のヤツいつの間に後ろに、忍者かよ。


 ポコン♪

メッセ?俺はスマホを取り出した、西川からだった、

今から会えないかと。


「ほーん、西川楓。もう手籠にしちゃったんだ?さすが色欲大魔神だね」


「こら、覗くなよ、誰が色欲大魔神だ!」


「で、麗しの彼女はなんて?」


「近くまで来てるから会えないかってさ。てか、彼女じゃねーし!」


 改まってなんの話しだろうか。アイツの家も離婚して大変だよな。


「ママ、ご飯できるまでまだ時間あるよね、ちょっと響介と友達に会いに行ってくる」


「1時間後にはできるからね、時間まで戻ってね2人とも」


「はーい!」

なぜお前も行く!?



 夕暮れ時も夜に変わり始めている空。ようやく涼しさを感じられる時間だ。北海道とはいえ30℃を超える日が珍しくなくなってきたな。


 待ち合わせ場所のコンビニに着くと、西川は外で暗く染まっていく空を見上げていた。


「よっ、どうした?何かあったか?」


「あっ……」


 俺の声に振り返った西川の笑顔は一瞬で曇る。


「1人じゃなかったんだ……」


 他に聞かれたくない話しだったのだろうか、西川は当てが外れたようにため息をつく。


「久しぶり、西川、元気だった?」


 は?なんか場違いな挨拶してないか、一華。


「そこまで久しぶり感はないでしょ。それに、呼び捨てにされる程の仲じゃないと思うけど?フードファイターさん?」


 西川は俺の違和感を言葉にして返してくれたけど、なんかトゲがあるな。やっぱ一華置いてくればよかったか。


「なんか話し方キツくなったね、西川。あの頃は笑顔が可愛い女の子だったのに」


 そりゃ呼ばれていないお前が来たからだろうよ!……いや、今何て言った?あの頃?


「何言ってんのか、全然わかんないんだけど」


 西川は一華に見向きもせず、吐き捨てるように言う。距離感バグッてんだよ、一華。


「でも今日会って再確認した。やっぱアタシ、西川の事嫌いだわ」

おい!何言ってんだ!?


「ちょっと待ってよ。呼んでもいないのに来るわ、訳わからない事言うわ、挙げ句の果てにこの前会ったばかりの親しくもない人間に「嫌い」だなんて言われる筋合いないんだけど!暑さで頭やられてんじゃないの?」


 おいおい、勘弁してくれよ、一華。険悪なムードになってんよ。


「一華、お前何言ってんだよ。変な因縁つけるなよ」


「それは、西川が響介を好意的な目で見ているからよ、あの頃もそうだったし。学級委員で面倒見が良くて明るいキミはクラスでも人気者だったよね。響介にもよく絡んでた」


 何の話しをしてるんだよ、一華。


「学級委員?いつの話しをしているの?」


「アタシは周りの目を気にして教室では殆ど響介と話せなかったのに。今思えば、逆恨みだよね、フフ。それでもやっぱ嫌いだな、西川楓。そうやって、しれっと響介に近づこうとするところがね」


「……アンタ一体、誰?」


 西川の顔が引き攣る。だが俺もこの噛み合わない一華の会話に違和感以上の何かを感じていた。


「アタシ達3人、小学校2年生の時、同じクラスだったんだよ、覚えてない?ね、ヒビキ」


 晴天の霹靂とは正にこういう事を言うのか。

一華の言葉は落雷となって俺の心を打ち抜いた。


 世界が揺ぐ。俺はその事実を受け止められないでいた。しかし記憶の小さな欠片が舞い降りる。


「チー……?」


 8年前に出会った少女の記憶が、今、一華という存在を塗り替えていく。









遂に自分の正体を明かした一華の思いとは。そして迫る新人戦、打倒玲彩に燃える一華。一華の青春が今、輝き始める。

第42話 〜 約束の樹の下で 〜 中編 

4/4 お昼更新です!

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