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仕事を始めて半年がたった。
問題が起きた時に備えて連絡用の魔石を持たせていた子供達も仕事に慣れて、その都度自分たちで対応できるようになった。
とはいっても、大きなトラブルなんかの時はきちんと連絡が来るけどね!
思っていた以上に賢く逞しく育ってくれて、お母さん誇らしいよ!
子供たちの素性を知っていて見下していた人たちも見る目が変わってきた。
このまま誠実な仕事を続けていって、きちんと認めてもらえるようになったらいいな。
経営は順調だ。
利益もでていて、子供たちは自分たちが稼いだ正当なお給料を得ているよ。
最初は持ち出しだったからね!
まぁそれはいいんだけど、やっぱり自分の力でもらったお金って嬉しいし、大人なら(まだ成人してない子ばかりだけど)当然だもんね。
利益が増えてきたから福利厚生も作った。
この世界には、というかこの時代には多分ないものだから、うち独自だ。
まずは健康第一だよね!
今は私がいるからただで癒せるけど、私がいなくなった先の事を考えて健康保険的なものを作る。
病気やケガで働けなくなって困窮する人は多い。そういった親から捨てられた子供たちがレベッカやアーサーたちだ。
すべての子供を救うなんてできないけど、せめてうちからはそうした子を出さないようにしたい。
それから、退職した後も暮らしていけるように年金の積み立ても始める。
聞くところによると、死ぬまで働くか働けなくなって解雇になるかのほぼ二択らしい。
厳しすぎるよ…。
という事で、定年退職制度も作った。
もちろん残って仕事を続けてもいいし、年金と退職金で第二の人生を楽しんでもいい。
本人の自由だ♪
その年金積立も、今はまだ定額じゃなくて毎月の利益から社員全員に割り振るから、何だか配当金みたいだけど。
毎月安定して定額を積み立てられるようにするのが今後の目標だ。
後は有給とか、年末年始なんかの長期休暇があればいいんだけど、大国では特にそういった休みがない。
休みがないって事は食堂もやっているという事で、うちの食材は必要なんだよね。
結果長期休暇はとれない。
これはしょうがないかぁ。うちはそれで食べているんだもんね。
そもそも休日なんて考えがないから子供達も不満はないし。
その代わり産休・育休制度を作った。子供たちの約半数が女の子だからね。
作ったけれど一番上のお姉さんたちでもやっと成人するくらいだし、今の生活に満足していて離れる気はなさそうだ。活用はもう少し先かな。
うちの社員同士の結婚なら、もちろん男の子にも産休・育休はとってもらうよ!
うちの子たちはみんな身寄りがないからね、夫婦で助け合わなくちゃ!
後は福利厚生って、何があったかな…。
私は会社員だったからお給料から自動的に天引きされていた。
健保と年金くらいしか思い出せないなぁ…。
まぁいいか。そのうち思いついたらまた足していけば。
今更だけど、子供たちに福利厚生の内容をしっかり説明して納得してもらってから(納得も何もなかったけどね!すでに社員だし)雇用契約書にサインをしてもらった。
きちんとした雇用契約は子供たちを守るためのものだ。
何年か後には、お産のお手伝いをした子がお産婆さん?(元の世界の助産師さんね)を目指したり、薬の重要性を感じて薬師を目指したりと、何人もの子が修業に出て行った。
出向扱いだからお給料も福利厚生もそのままだよ。
みんなしっかり技術を身につけて戻ってきて、色々と自社の中で回せるようになった。
ここは会社でもあるけれど、大きな家族にもなっているね!
稀にうちから離れて就職する子もいたけれど、やっぱり戻ってきた。
待遇が悪すぎるようだ。いや悪くはないか、この世界では普通なんだろな。
私は元の世界での、働く側の当然の権利を形にしただけなんだけど、この封建制度の世界では働く側の立場は低い。ないといってもいいくらいだ。町の小さなお店なんかならあるかもだけど。
私は、働くなら当たり前だけど、しっかりと楽しくをモットーにしている。
もちろん仕事だから厳しい事も大変な事もたくさんあるけどさ。
私自身、周りの人に支えられ導かれて、ちゃんとした社会人になれた、と思っている。
まだまだ途中だったけどね!
周りの人に恵まれていた事に感謝だ。
今度は私がそっち側の人になりたいと思っている。
まぁそんな風に順調なんだけど困った事もあって、各領もだけど、特に王都では供給が間に合わなくなっている。
嬉しい悲鳴というものだ。これも何とかしなくてはいけない。
という事で、ロートゥスとは違う港町からも鮮魚を手配する計画をした。
大国は、王都から大きな領地を結ぶ主要な道が何本かある。
うちが使っているルートは、王都からロートゥスまでを結ぶ西寄りの大きなものだ。
その次に大きな、王都から延びる中央よりのルートを開拓する事にする。
行先はロートゥスに次ぐ大国第二位の港町オルキス領。
今までと同じに、ルート上の各領都で寮を作り、子供たちを雇って教育し、馬や馬車を手配する。
教育係には先輩たちが来てくれたよ!
教えられる方から教える方へ。立派になったなぁと感慨深い。
そんな風にしていくつかの領を過ぎ、とうとうオルキス領にやってきた。
初めてオルキスの海を見た時、何ともいえない思いが胸に沸き起こった。
何だろう、この思い…。
あぁ。
「レオン、私ここに住みたいです。ここから見る海は故郷の海と似ています。懐かしい、何だか落ち着く景色です…」
「そうか」
レオンはそれだけ言うと、あとは何も言わず私を抱き寄せて一緒に海を見ていた。
不安にさせちゃっているかな?
「レオンとずっと一緒に暮らす家です。居心地のいい家にしましょうね!」
レオンを見上げてそう言うと、レオンはちょっと黙っていたけど
「…そうだな」
いつも通りの低い声は、安堵のため息のようだった。
オルキスでもいつも通り寮探しから始める。
それと同時に自分たちが暮らす家も探す。
まぁ、いい家が見つかってもしばらくは子供たちと共同生活をするわけだし、すぐには住めないんだけどね!
私たちは大勢の子供たちの雇用主だから、まずは子供たちを優先したい。
そうそう王都と各領都にある個人宅だけど、私たちがオルキスに自宅を持ったので社員の保養所?にした。
休みの合った何人かで楽しんでくれてもいいし、そのうち家族を持った社員が旅行した時に泊まってくれてもいい。
庶民が旅行するという概念がなかったので、ここでも驚かれたけど。
管理人で雇った子で物流業の方に転職した子もいたし、反対に物流の方から管理人に移った子もいた。
ちなみにアーサーは最初から物流の方で働きたいといったので、別の子を管理人にしたよ。
各領都の保養所と寮は、ドア一枚で繋げちゃったので管理人も寮に住んでいる。
これも魔法だと言ってあるので、魔法スゲー!とみんな納得している。
納得しちゃう方にスゲーだよ!
でもまぁこれで管理人も淋しくないだろう。
女の子なら夜は怖かったかもしれない。結界も守護も話してないから知らないもんね。
オルキスからの鮮魚の運送も始まって王都の方も落ち着いたし、一年、二年と大きな問題もなく過ぎていく。
経営も順調で利益も右肩上がりだ。
社員の年金も毎月定額積み立てできるようになった。
成人前だった子供達も半数くらい成人して、頼もしい戦力になっている。
成人といえば自分もそうだったように、毎年成人を迎える子を集めて祝ってあげている。
自社成人式だ♪
大陸の中心と言われている王都で、Y‘sキッチンの貸し切りパーティーご招待♪
もちろん旅費はこっち持ち。といっても交通費はない。各地の寮と王都の寮のドアも繋げちゃったからね!
宿泊は寮ではなくて王都の高級宿屋さんにしてみた。王都観光もつけちゃう!
成人式休暇は二泊三日と短いけれど、なんせ毎日納品の忙しい仕事場だから許してもらおう。
それでもみんな一生に一度の贅沢だと喜んでいたよ。
娯楽の少ないこの世界、働くばっかじゃつまらないよね!
たまには楽しみがなくちゃ♪
ちびちゃんたちも、しっかり一人前…とはいかないけど、半人前の仕事はできるようになってきた。
吸収の早い小さな頃から勉強を始めたので、この世界の庶民としてはかなり優秀になっていると思われる。
特に優秀な子には、成人前から大きな商家や貴族からスカウトがあったりした。
希望を聞いて本人の意思に任せる。
もちろん雇用契約の時には同席して、うちと同等かそれ以上の条件をのませたよ。レオンが。
会社の形としてはかなりいい感じに出来上がってきたんじゃないかと思う。
日本人的発想の私にとってだけど。
でもまぁ私の考え方で教育された子供達だから大丈夫か♪
私がいなくなってからも、ずっと働く人にやさしい職場のままならいいなぁ。なんて思うけど、会社の行く末は託した若人に任せよう。
どうせ死んじゃったらわからないしね!
起業して、体制を整えて、軌道に乗せて、社員教育もやって、無我夢中の十年だった。
いつの間にか大国の大動脈三本の物流を担う大会社にまでなっていたよ。
会社が大きくなればそれだけ雇用人数も増える。
すべてとはいえないけど、少しでも子供たちを救えてたら嬉しい。
十年括りの話としては。
とうとうレオンとの間に子供はできなかったなぁ。まぁまだ望みはあるかもだけど。
でもこればっかりは神様からの授かりものだしね。
というか、生まれた世界が違うから種族的な?DNA的な?なんかそんなのもあるのかもしれないなぁ。なんて思ったり。
残念といえば残念だけど、私たちには三桁の子供がいるしね。淋しくはないよ!
会社はアーサーたちに任せた。
起業当時からのリーダーはそのまましっかり逞しく育ってくれてなんの心配もない。
しかしすんなりと譲渡できた訳ではなかった。
この世界、死ぬまで現役というのが通常だから、私たちはめちゃくちゃ引き留められたよ。
なんとか名誉会長というか、名誉顧問というか、まぁそんなものに落ち着いたけど。
無責任に見捨てるなんてしないよ!
私のチートとレオンのネームバリューは死ぬまで使っておくれ。
会社を譲って何をするかというと、私たちはやりたい事が途中になっていたんだよね。
大陸中を旅する事!
この世界の平均寿命ならまだあと十年以上は生きているだろうし、そのうちの十年は旅もできるだろう。
飽きたらやめればいいし。
なんにしてもレオンと一緒ならバッチこいだ♪
行ったことのない土地に行き、夜は自宅に戻る。
休みの日には自宅でのんびり過ごす。
たまには会社に顔を出す。
日本でいったらまだまだ若い三十代だから、レオンと楽しく人生を謳歌しているよ!
そんな日々を過ごして、引退?してから最初の五年くらいで大国は隅々まで行きつくしてしまった。
しっかり物流の道筋も作ったよ♪
大国を見終わったら、次は他国に進出だ。
十五年たっても相変わらず戦の絶えない西には行かず、ちょっと期待している東方地域に行ってみる。
東に行くにつれ、ヨーロピアンにオリエンタルな感じが混ざってきたよ。
せっかくなら一番東でしょ!と馬車を乗り継ぎ、大陸の東方地域の中でも最も東の国にやってきた。
ヨーロッパに中東と東南アジアを混ぜたような、ミリくらいの和が感じられなくもない、ってくらいの空気にちょっとだけテンションが上がる。
ごめん、何を言ってるのかわからないよね!
私もよくわからないのよ。何せ、あっちの世界とこっちの世界で生きた年数が同じくらいになってきてるもんで。
元の世界の事が薄れてきてるんだよね…。
でもまぁ、薄れゆく記憶に微かに感じる和テイストを味わいましょうか♪
中東も東南アジアも旅行したことないけど!
なんとなくなイメージで!
そんなのを一番感じられるのは、やっぱり食かな?と、ついた日の夕食は有名なレストランに行ってみた。
いまだに衰えないSランカーは、初めてのお店でも予約なしで入れちゃう。
あ!もちろん横入りはしないよ!
ちゃんと空きがあるのを確認してから入ったからね!
「レオン、意外といけますね♪ 私けっこう好みかも♪」
「そうだな。俺も口に合う」
そりゃそうだよ。十五年以上私の好みに合わせてくれて食事をしてるんだもん。
そのうち半分くらいは私の手料理だしね!
食は好みにあった。
次の日からは、和テイストは気のせいくらいしかないけど、それでもそれなりに観光を楽しんだよ。
この東国は海に面していて、その観光の名所のひとつに、いくつもの小さな島があるという。
ほぉほぉ。
そういえば島には行った事がなかったな。
せっかくだから行ってみよう♪
庶民には観光旅行という概念はないけど、貴族には避暑地や、反対に避寒地に行く事はある。いくつかの島はそういった地という事で、どっちでもない今の季節は一般の人を受け入れてるそうだ。
一般といってもお金持ちの商家なんかだけどね。お金持ちなら旅行があるらしい。
あ、私たちも一応その部類になるのか。
そんな島々の中でも一番有名な島にやってきた。
島の売りは朝日と、特に夕日だそうで、ちゃんとそのためのベストスポットもある。
日中島めぐりをしていた私たちは、日が沈む頃、そのベストスポットにやってきた。
三方を遮るものがない突き出た岬だ。
大きな夕日が、見渡す限りの海を橙色に染めている。
私は急に郷愁にかられた。
何だろう……?
あぁ!
高校生の頃に見た、旅行雑誌に載っていた瀬戸内海の島からの夕日の海の写真だ!
「…レオン、すごく綺麗です」
「そうだな」
「私の生まれた国の、地方の島から見える景色に似ています」
「そうか」
それからは二人とも黙って、橙色の海を見ていた。
日が沈むにつれ、綺麗な紫と、その上から群青色が降りてくる。
ずっと海風にあおられているけど寒くはない。
並んでいたはずのレオンはいつのまにか後ろにいて、大きな身体で包んでいてくれたから。
この人は変わらないな。
出会ってからずっと、私を第一に考えて行動してくれている。
言葉はなくても、わかりすぎるくらいわかる愛情に心から幸せを感じる。
「レオン、私、元の世界にいても幸せだったと思いますけど、こっちの世界にきてレオンと出会って、きっともっと幸せです」
「……そうか」
「はい」
回された腕に力が入った。
「ラン、あんたはたいした女だよ。見ず知らずの世界に突然来ちまって不安だったろうに、見向きもされていなかったガキらをまっとうな人間に育てて、そいつらと商会を作って、たった十年でこの大国に名が通るまでにしたんだからな」
やだなぁ。照れるじゃない。
「自慢できる妻になりましたか?」
「あぁ、最高に誇れる嫁だ」
照れ隠しに言ったのに、ストレートに返されたよ!もう!!
「レオンもですよ! 全部レオンのおかげです!」
私はくるりと向き直ると、力いっぱいレオンに抱き着いた。
この世界だっけ?大国だっけ?平均寿命は五十歳くらいと聞いていた。
この世界に来ちゃってから二十年を少し過ぎたくらいだから、もうちょっといけるかと思ってたんだけどなぁ。
というか、日本人の平均寿命って女性は九十歳近かったんじゃなかった?
まぁこっちの世界仕様になっちゃたならしょうがないけどさ。
私はオルキスの自宅の窓から外を見る。
季節は夏に向かって光り輝いているよ。
いい季節なのにな~。
「レオン…」
「なんだ」
呼びかけなくても、レオンはずっと私のそばにいるけどね。
まったくもう。
毎度レオンの方が死にそうな顔をしているよ。
「ちゃんと寝てるんですか?ご飯も食べてくださいね。
心配だからレオンより先に逝くつもりはなかったのになぁ…」
レオンにグッと力が入る。
「なら、早く元気になれ」
私は、フフフと笑った。
できない約束はしない。レオンに嘘は言えないよ。
何だかものすごい人生だった…。
まぁ前半は普通にありな人生だったけど、後半が濃すぎた。
大体私は会社を作っちゃうような大層な性格なんてしてなかったのに。
でもまぁ充実した、…充実しすぎる人生だった。
最愛の人もできたしね!
その最愛の人に愛されて、大事にされて…。
蘭さん、女冥利に尽きるってもんでしょ♪
とっても幸せだったね!
お父さん、お母さん、お兄ちゃん。私は幸せだったよ。
素晴らしい人と結婚をして、自慢のできる成果も残せたよ。
いつかあの世で会ったら褒めてね。たぶん先に逝って待ってるから。
旦那さんも紹介するよ。
あ~ぁ、ごめんねレオン。
もうお別れの時みたいだわ。
「レオン、ありがとうございました。ずっとずっと愛してます」
「知っている。 俺も、愛してる」
知ってる♪




