17.5
社長を訪ねるといなかった。
日課の墓参りだなと、墓地に向かう。
ランさんに頼まれているからな。
俺とリチャードなんか何人かで、毎日様子を見に通っている。
遠く離れた地にいても、ランさんが通してくれたドアのおかげで一瞬でオルキスに来られる。
ランさんも社長も何も言わなかったけど、何となく俺たち初期メンバーは、ランさんには不思議な何かがあると感じていた。
それは亡くなった後も継続しているから、もしかしたら社長の方かもしれないけど。
もう社長じゃないんだけどね。
でもまぁ俺たち初期メンバーは、身近な者だけの時はずっとそう呼んでいる。
ランさんの墓石の前には、守る人がいなくなって一回り小さくなった男の後姿があった。
「社長、おはようございます」
「あぁ」
並んでチラリと社長をうかがえば、赤い目をしていても涙は見えない。
赤い目以外は昔から変わらないキリっとした格好よさだ。
「今日も決まってますね。ランさんも惚れまししますよ」
「惚れた女にみっともない姿を見せられるか」
墓石に目を向けたまま言う声は、少し強気に聞こえた。
何でもいい。
すぐにでも後を追いそうなこの人が、少しでも元気になってくれるなら。
「社長はランさんありきでしたからね。ランさんも社長が一番でしたし。社長より先になんて、誰も思ってなかったですよ」
社長がチラリと俺を見る。
わぉ。慣れたとはいえ相変わらずの眼光だ。
初めて見た時は漏らしそうになったもんな。
「俺があいつを残していく筈がないだろう。二度と一人ぼっちにはさせねぇ。 あいつにこんな思いをさせる訳にはいかねぇよ」
「…はい」
珍しくもない話だけど、ランさんも社長も天涯孤独だったらしい。
身寄りのないどうし助け合って…、というか、社長が守ってたんだろうな。Sランカーだし。
でもまぁそんな社長の原動力だったランさんの存在も、それだけでスゲーけど。
ガキだったら睨まれただけで一生もんの恐怖を植え付ける顔の社長だけど、ランさんはまったく恐れる事もなく対等に社長と渡り合っていた。
というか、ランさんが考えた希望を社長がすべて叶えていた。
あんな顔をしていてもガキにもわかるほど、社長はランさんにべた惚れだった。
まぁランさんもしっかり惚れていたから、二人はお似合いだったか。
俺は拾われた時からずっと見てきた。
いつか俺もこんな風に想い合える嫁がほしいと思うほど、二人は仲睦ましかった。
俺だけじゃないな。拾われたガキらはみんな二人に憧れていたと思う。
「あっちでもあいつを一人にさせたくねぇけど、身体だけは丈夫だからなぁ…」
人に絶対弱みを見せない社長が、薄く笑って言った。
怖いから!普通の人の笑顔は相手も笑顔にするけど、あんたの薄笑いは背筋がぞわぞわするだけだから!
なんてふざけて思わなければやってられない。
あんたにとってランさんはすべてだったろうけど、俺たちにだってあんたたちはかけがえのない人なんだよ!
俺は悔しさと哀しさをこらえて言った。
「そう急がなくても、ランさんは必ず迎えに来てくれますよ」
社長は空を見上げた。
「……そうだな」
二つ並んだ墓石の前に、俺たち初期メンバーの十人ほどが並んでいる。
「思ったより留まってくれましたね」
「そうか?俺はあっという間に追っていったと思うぜ」
「まぁそう遠くない日には逝っちゃうと思ってたけどね」
「あぁ。みんなそう思ってたよな」
ランさんのいない社長の姿なんて想像つかないよな。みんなで小さく笑う。
事あるごとに、自分をお母さんと言っていたランさん。
俺は知らないけど、こういう人が父だったら頼もしいだろうと思えた社長。
親といったら少し若いだろうけど、あんたたちは確かに俺たちの父さん母さんだったよ。
みんな言った事はないけどな。
『母さんには会えたかぃ? そっちでも仲良くな』
あの日の父さんを真似て、俺は高い空を見上げた。
『言われるまでもない』
あんたならそう言うだろ?
問いかけて、薄く笑った。
数多ある物語の中から、目を止め読んでくださってありがとうございました。
ブックマークがついた時はいつもとても嬉しいです!
このお話がここまでこられたのは、読んでくださった皆様のおかげです。最初は半分くらいで終わってましたから(笑)
本当に本当にありがとうございました。
もしも気に入ってくださったなら、次回作でまたお会いしましょう。




