14.5
物件を見て二日目。
ランの気に入った家を購入した。今まで同様、光と風がよく通る広い家だ。
庭も広いし、全体的にゆったりとしていて居心地がよさそうだ。
「これでいつでもスカウトしてオーケーですね!」
新しい家が決まって、ランは嬉しそうに笑った。
笑顔のまま買い物に行く。ついでに昼飯も食う事にする。
街中の繁盛店に入ると、一昨日の店と似たり寄ったりな感じだった。
チラリとランを伺うと、ランもそう思っているのが見て取れる。
という事は、そう悪い店ではない。
ただお気に入りの店の時とは違って、食い終わったランの顔は微妙だ。
俺は美味かったがな。ランの舌は厳しい。
なんだ?食い物商売でも考えているのか?
自分が食堂の亭主を想像する…。
似合わねぇな。こんな面の男が亭主じゃ客が寄りつかねぇだろう。
だがランの国の料理なら評判になるだろう。
行列になるかもしれねぇ。
ランを一人にする筈ねぇから俺も店に立つ。
するとやっぱり客はいなくなる…。
なんて堂々巡りを考えていると
「もしかしたら高級レストランなんかなら海のものが食べられるのかなぁ」
ランの呟きが聞こえた。
なんだラン、そんな店に行きたいのか?
行きたいなら連れていくぞ。
ランが不思議そうな顔をする。
どんな店だろうと、どこの国だろうと、行きたいなら連れていく。そんなの造作もない。
ランが『ドレスコード』とか言うので、それなりの服も用意する。
そういえば、結婚式の時のランは特に綺麗だった…。
思い出すとどうしてもニヤけてしまう。
おっと危ねぇ。顔に力を入れる。
努力はむなしく、力を入れてすぐ崩れそうになったがな!
あぁだめだ!今日のランも綺麗すぎる!!
薄い紫色のドレスがよく似合っている!
俺の嫁が綺麗すぎて顔に力が入らねぇ!!
……俺はこんな男だったか?
たった数ヶ月前の事なのに、過去の自分が思い出せねぇ。
「レオン、とっても素敵です…」
うっとりと見上げてくるランに顔が熱くなる。
「ランも綺麗だ。とてもよく似合っている」
こんな風に誰かを褒める事もなかった。
まぁそういう事がなかったんだけどな。
なんだっていいか。
惚れた女が可愛かったり綺麗だったり、そう思えるのはいい事じゃねぇか。
惚れた女にも想われる。言葉だけじゃなく、表情や態度からも見て取れる。
こういうのが幸せってもんで、俺は日々のちょっとした事でそれを感じている。
それ以外は些末な事だ
俺たちの席に、支配人以外にも料理長まで挨拶にやってきたのには驚いた。
俺の綺麗な嫁は言葉遣いも丁寧だ。
高級店でもサラサラと流れるように話している。
周りの客も何事かとこっちを見ているが、気づかないランは始終にこやかに話していた。
聞きたい事を聞き終えたランは何か考えているようで、黙って食事を続けている。
こういう時は、こっちも黙って待つ。
俺の嫁は頭もいい。きっと驚くようなことを言い出すぞ。
予感は当たって、よくよく聞かねぇと理解が追いつかねぇ事を話し出した。
海辺の領から王都まで鮮魚を輸送するだと?!
何週間もかかる距離は、なるほど、ランのスキルを使って時間を止めておけば大丈夫か。
そのための馬車の細工もランのスキルで誤魔化せる。
美味い魚を食えば安全はわかるしな。
その仕事には孤児たちを雇うという。
俺も孤児だったから先の見えない生活が不安だと知っている。
希望なんてない、あるのは空腹と理不尽だけだ。
俺は何とか傭兵で身を立てることができたが、ほとんどの奴らは何もないまま底辺で死んでいく。
職の手を差し伸べられる。きちんと教育をされる。
ガキらにどれほどの希望がもたらされるだろう。
自分の力で稼げるという自信をもつ。生きる意味を知るだろう。
俺もガキの頃にこんな人がいたなら…と考えて、いやいやそれじゃダメだと思いなおす。
ガキと大人の女じゃ、こんな風にはなれなかった。今だから夫婦になれたんだ。
それにしても…。
俺の嫁は頭がよくて、考えた事を形にしようとする行動力もあって、実際形にしちまう力もある。
周りを味方にする不思議な魅力もある。
ランの国の奴らはみんなこんななのか?
すげぇ国があったもんだ。
…いや、やっぱりランだからだろう。
こんなすげぇ女が嫁なんだ。
俺も、俺にできる精一杯をやらなきゃな。




