13.5
王都を見始めて二日目。
ランは市場調査というものを張り切っている。
これから何の仕事を始めるのか、それを決めるためのもんなんだそうだ。
何でもいい。ランが楽しいのが重要だ。
という訳で、あんなに喜んでいた昨日の店にはいかず、別の店で昼飯という事になった。
「いらっしゃい!お好きな席にどうぞ!」
威勢のいい声に迎えられる。
店の雰囲気も料理の味も別段気にはならなかったが、ランは不満そうだ。
この店だって悪いわけじゃねぇ。普通だ。西から見たら格段にいいくらいだ。
まぁ昨日のあの店は格が一段上だったからな。比べちゃ悪いってもんよ。
「不満そうだな。明日はあっちに行こうか」
笑いながら言うと
「そうですね。調査もしなくちゃだから、一日おきでお願いします」
俺の嫁は真面目だ。
食後また街を歩いていると、よからぬ気配が近づいてくる。
「わっ、すみません」
ぶつかられたというのに、何故かランが謝る。ランにはこういうところがある。これもランの不思議な事のひとつだ。
どうしてなのか聞いた事があった。
ランは、日本人の国民性ですかね~と苦笑いをしていた。二ホンとは謎な国だ。
俺がついていて誰かとぶつからす筈がねぇだろ?そうしたのには訳がある。
騒ぐガキを黙らせて、つまみ上げたまま人通りの邪魔にならないところに移動する。
ランが、この子はど~ぉ?と見上げてきた。
可愛い!!
じゃねぇ。
まぁ根性はありそうだ。
話しながらもう少し様子をみるかと、ランに頷く。
それからランはいつものように話し出した。
このガキも今までのガキと同じように疑ってかかる。
普通の反応だ。何の疑いもなくのってくる奴はかなりおめでたい頭をしているだろう。
新しい土地に行くとこうやって何人かのガキと話をして、気の合った奴を雇う事にしている。
ランは縁だと言う。
そうして話し終えると、ガキを置いたままランと歩き出す。
ガキにも考えたり覚悟する時間はいるからな。
翌日は物件を見に行く。
俺は家の事はよくわからねぇ。ずっと野営と宿屋暮らしだったからな。
ランの気に入った家にすればいい。俺はランがいればいいんだから。
ランは内見が好きだ。どこの物件でも楽しそうに見て回っている。
一度、楽しそうだなと言ったら、たぶん女性は好きな人多いですよと笑顔で答えていた。
そうなのか?面倒くさいんじゃなくて?
世の女の気は知れない。
家を二件見た後は、ランお気に入りの店に昼飯を食いに行く。あそこはいいと俺も思う。
味も美味いが量もある。清潔だし、店じたいが居心地いい。
今日はアクアパッツァという魚の料理だった。
それを見たランは喜んで、また故郷を思い出していた。懐かしそうな、いい笑顔だ。あぁでも少し淋しそうか。
海の魚かぁ…。
そいつがあれば、ランは食いもんだけは淋しい思いをしなくてすむかもしれない。
まぁロートゥスに転移すればいつでも新鮮な魚は食えるがな。
でも、どこに住んでも身近に好物があれば嬉しいだろう。
この店はどうやって遠い海の食料を新鮮なまま仕入れてるんだ?
有名店には独自のルートがあるんだろうが…。
食後はまた腹ごなしに街中を歩き回る。
しばらくすると、昨日のあのガキの気配がした。
「あ、アーサー。こんにちは」
ランが気の抜ける挨拶をする。
俺もガキも脱力するが、ランはそんな事には気づかない。
ラン曰く、なんでも挨拶というもんは非常に大事なんだそうだ。
ランはそのままスラスラと話しながら屋台で肉巻きを買い、ガキに渡そうとした。
当然ガキは警戒する。
「いらないならいいけど…」
うまい。
ランがよそのガキに目を向ければ、そいつは慌てて肉巻きを取った。
見事にランにやられてるなぁ。
俺はニヤニヤが止まらない。
「レオン、秋ですね~」
ランが空を見上げてのんびり言う。
まったく我関せずな態度に、警戒していたガキが怪訝そうになった。
そういう女なんだ。
ランと俺たちとでは文字通り世界が違う。
もしもお前が俺たちと過ごすようになれば、そう遠くないうちに『ありがとう』が言えるようになるぞ。
俺はニヤリとして、人ごみに走り去るガキの背中を見送った。




